鶴田雅人
日本アクアソムリエ協会認定 アクアソムリエマイスター・公認講師。 水の味の違いに興味を持ち、国内外のミネラルウォーターを飲み比べている。 日本テレビ系列「月曜から夜ふかし」、 フジテレビ系列「99人の壁」など、メディアにも多数出演。
Twitter:https://twitter.com/aquasomme
こんにちは。アクアソムリエの鶴田雅人です。
ミネラルウォーター税ってご存じでしょうか?
正確には、まだ導入はされていないのですが、山梨県議会の一部の会派が、導入を求めています。実際に今年の6月には、工場の視察なども行われました。
これは山梨県の動きですので、もし実際に成立するとなった場合、山梨県の中で条例などを定めて、「山梨県内で生産されるミネラルウォーターに対して」「あるいは採水行為自体に対して(≒生産するメーカーに対して)」いくらかの課税をする、というものです。
で、これ、実際どうなの?という話です。
まず前提として、山梨県は長い間ずっとミネラルウォーター生産量No.1の都道府県です。日本ミネラルウォーター協会の統計によれば、2021年は1,583,870KLの生産があり、日本における生産量の38.1%を占めています。
山梨県だけで、日本のミネラルウォーターの3分の1以上を作っているわけですね。
これは本当に、非常に高い数値で、2位の静岡が565,165KL、13.6%ですから、ダブルスコアどころか、3倍、トリプルスコアです。
都道府県単位で見た時には、山梨県の存在感は群を抜いていて、1人の巨人が座っているようなイメージです。
ちなみに、お水は山から生まれますので、山でイメージするとわかりやすいかもしれません。
といった感じです。
で、みなさま、想像に難くないと思うのですが、課税された場合、誰が負担するのでしょう?
もちろん、第一義的にはメーカー側が支払うのですが、これ、消費者に対してさらなる値上げに繋がりかねないなーと見ています。
いや、誤解を招かないように言っておくと、メーカーさん側もかなり企業努力はされているのですよ。燃料費が上がれば、工場の運営コストも、資材のコストも、物流のコストも、すべて上がります。また、昨今のプラ問題への対応もあります。
お水を汲み上げる以外の部分でも、1本のミネラルウォーターが出来上がるまでには、様々なコストがかかっているので、原油高の昨今、時折値上がりするのは仕方なしや、と思うのですが。
しかしながら、もし「山梨県が税収をアップさせたいから」「山梨県内の大きな産業である」「ミネラルウォーターに課税する」というのなら、あまりに短絡的というか、違うんじゃないかな、と私は考えています。
前述のとおり、山梨県は日本のミネラルウォーターの3分の1以上を支えています。
例を挙げるなら、コカ・コーラ「い・ろ・は・す」の白州(関東圏発売)、SUNTORY「サントリー天然水」の南アルプス(関東圏発売)など、ナショナルブランドの2大巨頭は山梨県産です。この他にも、大小様々なメーカーさんが集まって、「山梨県のミネラルウォーター」というブランドを創り上げてきました。
このいわば「山梨ブランド」に短絡的に課税してしまうことは、結果的に山梨のミネラルウォーターの衰退を生んでしまわないか…とも思っています。
大手企業の立場からすると、どこに工場を建てるかというのは戦略なわけで、実際に2021年にはSUNTORYが長野県に4番目の工場を稼働させました。
ここに「課税」という要素が関わってくれば、山梨に新規工場を建てることは敬遠されるでしょうし、複数工場を持つメーカーからすれば、他の水源にシフトしていこうか…と考えたとしても、自然なことです。
ちなみに、私の知る限り、この「山梨県におけるミネラルウォーター税の議論」はけっこう昔からありまして、少なくとも2000年(平成12年)くらいから、検討レベルではあったのかなと思います。
近年になって、報道されるほどにそれが実現味を帯びてきたのは、どうしてなのか、本当に不思議なのですが…。
私はこの「山梨県のミネラルウォーター税導入」には反対ですが、仮に、理解を示せるとしたら、次のようなスキームです。
「課税収入は、100%採水地の保護のために使うこと」。
本来なら、お水に都道府県単位で課税することはバランスが崩れるので、やるべきではないと思うのですが(かといって、飲料の中でミネラルウォーターだけ全国的に課税されたら、それはそれで激おこになります)、採水地の保護というのは本当に大切です。
EUなどでは、法律があり、「ミネラルウォーターと名乗るためには、周囲の環境を保全しなければいけない」などと定めがあるのですが、日本にはこの決めはありません。
極論を言えば、日本のどこにミネラルウォーター工場を建ててもよいことになります。採水地周りの環境の保護というのは、各メーカーさんの自助努力で行われている、というのが現状です。
(もちろん、民間団体や、水道事業体などで、保護活動も行われています。
あるいは、特定の製品に、ではなく、「市・県民税の一環として」水源保護の税を課している都道府県や自治体はあります。)
この、メーカーに任されているというのがけっこう問題で、例えばSUNTORYさんの森の保護活動なんかは、本当に本当に素晴らしいものですが、すべてのメーカーがあそこまでできるか?と言えば、答えは当然「否」です。
少し角度が変わりますが、外国資本を中心に日本の山林が、利益重視の事業者に買われ、木を切り倒して収入にした後は、放置され、はげ山となり、植林もされず、結果、水が涸れてしまった…というお話もあります。
山や森を守ることは、お水にとって本当に大切なのです。
山梨県のミネラルウォーター税には、にわかに首肯できませんが、仮にその全額を山梨の採水地保護、水源保全のために使う、ということであれば、まあ、一応の理解は出来るかな…といったところです。
とはいえ、日本全体で見た時のバランスが崩れてしまいますし、結果どこかで値上げに繋がる気配を感じるので、反対は反対ですが…。
(あ、もちろん、もしミネラルウォーター税がただの税収アップが目的でしたら、これはまったく共感を示せません)
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いかがでしたでしょうか。
あまり、全国的に大きく取り扱われるニュースではなく、
業界紙や山梨県内のニュースに留まっている現状ですが、
もしも可決・実現されれば、その影響は日本全国に及ぶものだと思います。
賛成・反対はもちろん個人の自由ですので、これはいちアクアソムリエの意見でしかありませんが(※協会やアクアソムリエ全体を代表するものでもありません)、
少し気にしてウォッチしていただければと思います!