クイズ番組「99人の壁」のエキストラ問題は、本当に問題なのか? 出演した私が思うこと

鶴田雅人

日本アクアソムリエ協会認定 アクアソムリエマイスター・公認講師。 水の味の違いに興味を持ち、国内外のミネラルウォーターを飲み比べている。 日本テレビ系列「月曜から夜ふかし」、 フジテレビ系列「99人の壁」など、メディアにも多数出演。

Twitter:https://twitter.com/aquasomme

少し前にこんなニュースを見た。

https://www.asahi.com/articles/ASN435TC2N43UCVL018.html

フジテレビで放送している、99人の壁というクイズ番組に関するニュースで、この番組はチャレンジャー1人vsそれを阻止するブロッカー99人、という構図が面白さなのだが、その壁のブロッカーの中に、エキストラが混じっていた、というものだ。

実は私も、2019年3月の放送回に、チャレンジャーとして出演をさせていただいており、このニュースのとおりだとすると、エキストラが入っていたことになる。

しかし、こう言ってはなんだが、果たして当日、何人のエキストラが入っていたかは分からないが、なんと言うか、「そんなに大きな問題なの?」だろうか。

もちろん放送倫理とか、そういうものの上で、問題となることはわかる。よくわかる。
ただ、当日、収録の現場にいた人間として言えば、「現場の熱量はとにかく熱く、ガチなもの」だったし、私が話した20〜30人のチャレンジャーたちは、「みな一様にガチ」だった。こう言うと大げさかもしれないが、「大なり小なり、人生を懸けて」来ていた。

番組が受けるべき大人の処分みたいなものは、十分にもう済んだと思うので、ここからは、当日収録に参加したものとして、「いかに真剣で、愛にあふれる現場だったか」を、淡々と書いていきたいと思う。

①参加まで

私より妻の方が、多くのテレビ番組を見ている。彼女は流行に聡い人で、ちょうど2018年の、秋くらいに放送された「99人の壁」がリビングでかかっていて、私も一緒にそれを見ていた。当時はまだ番組が始まったばかりで、斬新な手法のクイズ番組、として、とても新鮮な気持ちで楽しんでいた。

放送が終わると、挑戦者募集、みたいなテロップが流れる。で、それを見た妻が一言。「(あなた)これ、出れるんじゃない?」と。

確かに、水のソムリエ、アクアソムリエというのは数の少ない生き物である。ただ、10年以上もきちんと活動はしてきているので、それなりに知識やお話できることは、まあある。「ミネラルウォーター」というジャンルにすれば、それなりにクイズ番組向きかもしれない。

「いいかも」と即答し、スマホから簡単に応募が出来たので、簡単なプロフィールやら、写真も付けたかな?という感じで、10分くらいでエントリーが終わった記憶がある。

②オーディション

忘れた頃に、ある日突然メールが来た。「オーディションのご連絡」。
どうやら、webでの書類選考を通過し、二次オーディション(面接)に駒を進めたらしい。

日程を予約し、お台場のフジテレビまで面接に行く。普段入れないテレビ局のスタジオに入ることができ、少し浮かれる。

先に、「皆、大げさかもしれないが、人生を懸けて」と書いたのは、この辺から始まる。
私は関東在住だからまだ良いが、地方の方の場合、「受かるかどうかも分からないオーディションのため」に、交通費や宿泊費をかけて、お台場まで来なければならない。また、当然、自己の貴重な休日を、そのために使うことになる。

「フジテレビ観光」自体が楽しいイベントではあるが、とはいえ、負担の量は人それぞれだろう。

面接では、テレビ局の方と3対1(私)で楽しくお話をする。「希望ジャンル」みたいな欄に、書けるだけジャンルを書いてもいいらしいが、潔く「ミネラルウォーター」一本槍とした。

③収録まで

その後、メールで「第二次オーディションに通過しました(予選通過)」と連絡があり、以後は収録参加の待機待ちとなる。

で、1月末の収録にお呼ばれをして、また再度フジテレビまで行く、と、こうした流れ。

④収録当日

ここがまた、「人生を懸けている」ポイントとなるのだが、収録には、私のような「お初」と、「常連組」とが存在する。
なぜ常連組がいるかというと、この番組、100人で収録を始めても、1回の撮り(1日)でセンターに立ち挑戦権を得られるのは、10人もいないのだ。
ここが先述の「ガチ」にも紐付く。

交通費と時間を割いて、丸一日を費やしても、センターに立てず、壁の一部(ガヤみたいなもの)で終わってしまう人の方が、圧倒的に多いのだ。そうした人たちは、基本、センターに立てるまでフジテレビに通い続ける。結果常連組が生まれる。

これも、地方在住の場合は大きなハンデだ。私のお話しした限りだと、往復飛行機を使って、7回以上来ているとか、そうした猛者もいた。
自分が逆の立場だったら、そこまで出来るだろうか?と考えると、頭が下がる。

会場に入ると、まず大部屋(100人入る)のようなところに通され、受付をする。軽食のお弁当も置いてあって、自由に食べることができる。

この時点で、顔見知り同士は集まって親交を深めている。私は初回なので知人はいないが、せっかくの機会なので、えいやと気合を入れて、色んな人に話しかける。

皆さん、ご自分のジャンルがあって一家言お持ちなので、相手のジャンルの話と、自分のジャンル(ミネラルウォーターで水のソムリエ)の話をしていると、そのうちに打ち解けてくる。

そう、この時点でまず思ったのは、始まる前に交流した人の中には、どう考えてもエキストラはいない、のだ。
皆さん自分のジャンルが大好きで、あるいはクイズが大好きで、語り出したら止まらない。

そしてそもそも、多くの方が一度ではセンターに立てず、何度も収録に通っている。
話せたのは10数人でしたが、みなさん熱量のすごい方ばかりだった。

⑤スタジオへ

席から見える景色は、こんな雰囲気。
水がひとり1本配られて、
ラベルレスのオシャレなLOHACO water。(パッと見シンプルで、どこのメーカーか分かりにくいから?)
「あ、LOHACO waterだ」と私は嬉しくなったが、他の99人の方にとっては、「あ、お水だ、ありがたい」というリアクションで、そりゃそうだ、となる。

⑥収録開始

テレビで放送されているのは、収録のごく一部で、佐藤二朗さんは、本当に終始おもしろいことを、ずっと喋っている。内容を書くのは伏せるが、登場して一言目のおどけた雰囲気で、完全にハートを掴まれた。ファンが多いのも当然だなあ、と頷く。

「当時の」番組の方式を簡単に説明すると(現在は少し異なる)、真ん中にチャレンジャーが1人立ち、残りの99人は「壁」として、ブロッカー(早押しクイズなどで、挑戦者より先に押し、正答して阻止する)を務める。

出題されるのは、チャレンジャーが事前に申請した専門のジャンル(私の場合はミネラルウォーター)。

チャレンジャーは5問正解すれば100万円。ただし、1問でも誤答またはブロックされると、そこで終了。
ブロックに成功した場合、その人が次のチャレンジャーとしてセンターに立つ。
誤答の場合は、佐藤二朗さんによる抽選。
1回の収録で、センターに立つのは1度まで。

⑦センターに立つまで

当然だが、99人もいると、みんな早押しボタンを押しまくる。押して押して、押しまくる。私も答えが浮かぶ問題はあるが、答えが浮かんだ時にはもう誰かが押している。
まして、問題は誰かの専門ジャンル、一言で言えばマニアックなものばかりなので、そうそう反射的には出てこない。

これが「ガチさ」の大部分を占めるもので、基本的に、ブロックしない限りチャレンジャーには選ばれない(一部の、有名芸能人さんを除く。もちろん、有名な方がセンターに立つのは、構わないと思う)。

単独で視聴率を取れるような知名度がない限り、我々は、地道に戦うしかない。そこに忖度は存在しない。

これは、えらいところに来てしまったな、すごいな、とぼんやりしていると、前のチャレンジャーが誤答をした。

佐藤二朗さんによる抽選が行われる、出てきたのは、あれ、私の番号だ。
という感じで、クイズの実力が足りず、ぜんぜん早押しボタンは光らなかったが、チャレンジャーに選ばれる。今思うと、1/99(実際にはもう少し高いが)を引き当てていただいたのだから、ものすごく運が良かったのだな、と。

⑧挑戦者として

「ミネラルウォーター」をテーマに、佐藤二朗さんにステージに迎え入れていただく。
水のソムリエです、と言うと、物珍しさから興味を持っていただき、いつものように色々と豆知識をしゃべりまくる。佐藤二朗さんがタイでお水を飲んだら美味しかった話などを聞き、二朗さんに合うと思うミネラルウォーターなど、おすすめする。
のちに、Mr.ウンチクというあだ名を付けていただく。

(Twitterに動画があるので、よかったらご覧ください。https://twitter.com/aquasomme)

1問目:ミネラルウォーターのラベルを見て銘柄を当てるクイズ。有名どころばかりで安心。

2問目:サントリーの天然水。関東だと南アルプスの天然水だが、実はエリアにより3種類に分かれる。その山の名前は?という問題。
鳥取の奥大山、熊本の阿蘇山は、銘柄がそのまま山の名前だから良い。南アルプスの、採水地の山の名前ってなんだっけ…?

悩む。いちおう制限時間がある。
運で突然センターに立ってしまったので、まだちょっと精神状態がふわふわしている。
困った。南アルプス、としてしか捉えていなかった。はて時間がない。というところで、突然「甲斐駒ケ岳」という単語が天から降りてくる。
無事に正解でクリア。たぶんどこかでは見ていたのだろう、過去に。

3問目:早押し。「ミネラルウォーターの品質に異常がないかどうか、目、鼻(押す)」
→「官能検査」。どのメーカーさんも、数値上異常がなくとも、出荷前には必ず飲んで(官能検査して)いると思う。

4問目:ここで脱落しました。早押し。
「高知県の室戸のものが有名な」
→この時点で、頭の中には答えが2つ浮かんでいた。
ひとつは「海洋深層水」。室戸沖のものはとても有名。
もうひとつは、海洋深層水の要件となる、「(水深)200m」。まず、このどちらかだろうなと。

ただ、ここで、誤答=敗退となるチャレンジャーの立場と、間違えてもさして痛くないブロッカーの立場の差が出る。先に押され、回答は「海洋深層水」。うん、たぶん正解だろうな、と思い、見事ブロック成功、私は敗退となりました。

この話をするたびに、「200mなんてマニアックな数字、誰も答えられないよ!ふつうにその二択なら海洋深層水じゃん!」と皆さんに言われます(笑)。
たぶん、私は水のソムリエとしては正しいかもしれませんが、「早押しクイズ挑戦者」としては、気概が足りなかったんでしょうね。

後にToshiさん(同日のスペシャルゲストだった)も言われてましたが、「センターに立って、答えに100%確証が持てない状態で、押して、正解する人たちは本当にすごい」、と。

知識だけではだめで、5問勝ち抜くには、勝負を賭ける別種の勇気みたいなものが必要なんだなと。そう痛感しました。

以上で私の挑戦は終わったのですが、何が言いたかったかと言うと、「あの日、私は紛れもなくガチ」でしたし、「私をブロックした人も、開始前に話した人も、壁の隣の席にいた人も」、「みな一様にガチ」だったんですよね。

100人の中には、確かにエキストラが入っていたのかもしれませんが、そのことは何ら番組の熱量を削ぐものではなく、だから、皆さんが番組を見て思ったこととか、感じたものは、そのままで取っておいてもらえれば、と思います。

鶴田雅人

日本アクアソムリエ協会認定 アクアソムリエマイスター・公認講師。 水の味の違いに興味を持ち、国内外のミネラルウォーターを飲み比べている。 日本テレビ系列「月曜から夜ふかし」、 フジテレビ系列「99人の壁」など、メディアにも多数出演。

【監修者】中倉大吾

株式会社スタークラフトの代表取締役社長を務めながら、水のスペシャリスト「アクアソムリエ」としても活動する。2013年5月からウォーターサーバーの比較メディアを運営開始。10年以上にわたってウォーターサーバー業界を見てきた豊富な知見を生かし、2019年にはより総合的でユーザーに寄り添ったウォーターサーバー比較サイトとして「水ナビ(当サイト)」を立ち上げる。また宅配水業界における正しい情報発信を推進するため、一般社団法人「日本宅配水&サーバー協会(JDSA)」の協賛会員に加盟。
※アクアソムリエは、日本アクアソムリエ協会の認定資格です。著者の所有資格について、詳細はこちらをご覧ください。またこちらからアクアソムリエ協会のプロフィールもご覧になれます。