初めまして、フリーライターの村崎なぎこです。
「1000円札一枚で楽しめる1000円グルメ」を求め、日本全国をさすらい続けて15年。
2006年の夏に日光天然氷のかき氷に出会った時に「かき氷の沼」にハマり、以来訪問したかき氷のお店は約200軒(まだまだ少ない……)。
シロップや氷にこだわったお店をめぐるのも楽しいですが、普通のかき氷を「より美味しく食べるシチュエーション」を追い求めるのもまた一興。
今回は、私が実体験した、そんなシチュエーションを三つお送りします。


【著者】村崎なぎこ
栃木県在住のフリーライター。2004年から「1000円グルメの旅」を公開中(現在はライブドアブログ)。
「1000円で楽しめるグルメ」を求めて、47都道府県踏破終了。2019年1月にトマト農家の男性と結婚。現在、夫婦と愛猫しじみの2人+1匹の暮らし。 特に好きなのはアイスコーヒー、いちごパフェ、かき氷、モーニングセット、そして肉料理。
ブログ:http://1000yen.blog.jp/
Twitter:https://twitter.com/utsunomiya1000y
その1 真夏の10㎞マラソン大会完走後に食べる
2012の夏。
この年にマラソンを始めた私は、初めての10㎞マラソン大会として地元の栃木県で行われた「日光杉並木マラソン大会」にエントリーしました。
この大会は日光市の例幣使街道を、簡単に言えば5㎞走って行って、5㎞同じ道を戻ってくるもの。
高い杉並木が壁のように道の両側を覆う街道、真夏とはいえ、きっと涼しいに違いない……。
と思ってエントリーしたら、ところがどっこい。
往路はひたすら下り坂(とってもラク!)、しかし復路は当然ながらひたすら上り坂。
空間を覆う杉並木は太陽の遮光というより、一万人近いランナーが走る熱気を籠もらせる役割になっていて、まるでサウナ風呂を走っているよう。
その中、ひたすら坂を走って上る私。歯を食いしばって耐え抜いたのは、ただ一つの希望があったから。
「ゴールしたら、かき氷が待っている」
スタートの時、ゴールゲートの近くにかき氷の屋台があるのを確認していたのです。
なんとか、汗と涙で文字通りビッショリになりながらもゴール。
完走証を握り締め、屋台で300円で買ったかき氷を頬張った瞬間というのは、これはもう一生モノの想い出。
氷の冷たさが火照った身体を癒し、シロップの甘味が疲弊した身体をヒーリング……。
初めての10㎞マラソンを時間内に完走したという感激と共に、私が人生の最期に思い出すのはきっと、このかき氷だろうなと思うくらいの「美味しいシチュエーション」でした。

その2 真夏に歩いて峠越えした後に食べる
同じく2012年の夏。
この年に山登りを始めた私は、憧れの地・岐阜県の馬籠宿に行った時、馬籠峠を歩いて越えて、長野県の妻籠宿を目指すことにしました。
約11㎞の行程ですが、頂上付近にお茶屋があって、そこでかき氷を食べられるというのを本で読んでいたので、それを目的に行けば楽しく越えられるだろうと思ったのです。
しかし早朝だったからなのか、茶屋は開いてませんでした。
登りは既に終えて、残りは下りだけとはいえ、炎天下(35℃前後だった)歩きで峠道を征くのは、なかなかヘヴィ。
ふらふら歩く私を支えていたのは、ただ一つの目標でした。
「妻籠宿に着いたら、かき氷を食べるんだ」
実際のところ、道はかなり整備されていまして、こまめに登場するトイレはとてもキレイ。途中の休憩所ではお茶や漬物のサービスもあり、かなり恵まれた行程でしたが、とにかく炎天下はキツかった。
妻籠宿についた時には、全身の血がぬるま湯になったよう。
もう、今の私を救うのは……かき氷しかない。
血走った目で周囲を見回すと、氷旗はあちこちに出ていましたが、逆にありすぎてどこに入っていいのか分からず。
「自家製シロップ」の文字に惹かれて入ったお蕎麦屋さんに入り(クーラー無し)、あんずかき氷を食べた瞬間というのは、もう…
「なんて麗しい、日本の夏」
そんな心境でした。
あんずのクエン酸が疲労回復をもたらし、同じくブドウ糖や果糖が体力回復……。
今でも、「馬籠」「妻籠」と聞くと、最初に脳裏に浮かぶのは「あんずかき氷」です(暑さとセット)。

その3 真夏の登山で下山直後に食べる
2018年の夏。
高校時代の友人二人と私の合計三人で、栃木県足利市にある赤雪山に登山することになりました。
621mという標高なので、「レッツシェイプアップ」よりちょっと疲れる程度かな、という予想でしたが、待ち構えていたのは35℃近い外気温。
そして、単純に「登って降りて」だけではなく、細かくアップダウンのあるコース。
「頂上が見えてきた」
「やったー」
「あ、頂上はまだ先だった」
この無限ループで、いつしかみんな無言に。
登頂しても喜びが少なかったのは、
「復路は、下りオンリーではなく、またあの細かいアップダウンを繰り返していくのか」という恐怖ゆえでした。
想定通りの下山路を征く三人を支えていたのは、ただ一つの目標。
「無事下山したら、かき氷を食べよう」
登山口まで自家用車で来ているし、ナビでもなんでも使ってすぐにかき氷屋さんに直行しよう!
それを合言葉に下山のアップダウンも耐え抜き、たどりついた登山口で私たちが目にしたのは…。
「かき氷!」
登山口のすぐ近くに茶屋があり、かき氷もあったのでした。
しかも、一個200円の超リーズナブル価格。
私が食べたのは、いちごミルク(友人たちはレモン、コーラ)。
おそらく頂上で食べるのでは味わえない、下山後の安堵感の中でのかき氷。
クーラーでは感じられない、山奥の木々を吹き抜ける風を浴びながら食べるノスタルジックな味のかき氷は、なんとも言えない「癒し」を与えてくれたのでした。
今でもこの二人の友人に、「人生で食べたいちばん美味しいかき氷はなんでしょう」と訊くと、 「赤雪山の下山後に食べたかき氷」と返してきます

現在の私の夢は、「死の砂漠」ともいわれる中央アジアのタクラマカン砂漠の先、中華人民共和国新疆ウイグル自治区カシュガルに行って、名物のかき氷「ケテック」を食べること。
山から切り出してきた天然氷を砕き、はちみつとヨーグルトをかけて攪拌して食べるのですが、素朴な美味しさがたまらないんだとか。

日光天然氷と栃木県産ハチミツ、同じく県産ヨーグルトを使って自分で再現して食べてみましたが、シンプルイズベストな美味しさでした。
しかし、砂漠を抜けた後のシチュエーションだったら、どれほど美味しさが加算されることでしょう。
やはり、最強シチュエーションは自力でタクラマカン砂漠を抜けることか…。
と、シチュエーション的妄想だけが膨らんでいくのでした。