自分にぴったりの水の選び方を教えてください。アクアソムリエ山中さんインタビュー

一般社団法人 日本アクアソムリエ協会理事 アクアデミア校長アクアソムリエ 山中亜希さんにインタビューしました。

アクアソムリエ 山中亜希

2004年、ミネラルウォーター専門店「AQUA STORE」の立ち上げと同時にイタリアにてアクアソムリエの資格を取得。 
2008年より、アクアソムリエを養成するミネラルウォーターの専門スクール「AQUADEMIA」を開校し、校長に就任するとともに、「AQUA STORE」のディレクターとしても活動。
ミネラルウォーターの正しい知識・情報の普及のために、セミナーや講演、企業へのコンサルティング業務などを行っており、海外からもセミナーの講師として招聘されている。
日本アクアソムリエ協会:http://aquasommelier.jp/

Q. 自分にぴったりの水の選び方を教えてください。

A.

いろいろな観点があると思います。

まず、自分の味覚的に合うかどうかですよね。
それから、成分が体に合うかも大切です。 

水の中に含まれている主なミネラル類は、カルシウム・マグネシウム・ナトリウム・カリウムがミリグラム単位以上です。

極少量にバナジウム、最近ではシリカもミリグラム単位で入っていたり、炭酸ガスが入っているものもあります。
そういうものによって体に合う合わないがあるんですね。

そして、価格面です。水は毎日1.5~2リットル飲んでもらうのが理想的ですので、経済的な面も考慮する必要があると思います。

価格の高い水を週に一回飲むだけなら、水道水を毎日飲んだほうが健康には良いです。

とにかく水を飲まない限りは、体内の老廃物を排出できませんので、週に一回だけ高いお水を500ミリリットル飲んでも、あまり効果は期待できません。 

ある程度毎日飲めるものを購入するなり、ウォーターサーバーや浄水器をつけるなりということで、工夫して自分の理想に近づけていただきたいですね。

飲みやすさも大事です。たとえば、水を飲むのにいちいちわざわざ2キロ離れたところに水を汲みに行かなければいけないとしたら大変ですよね。
合理的な飲み方ができるかどうかという観点でも、自分に合う水を決められるのが良いと思います。 

とはいえ、どういう水が合うか合わないかというのは、実際に飲んでみないとわからない部分があるので、少なくとも2週間は飲み続けていただいて、体調に合うかどうかを確認していただく必要がありますね。

水は奥深いものなので、一概に私からこれが絶対にあなたに合いますと言えるものではありません。
その日の体調によって合う水が違うこともあるので、まずはいろいろ試していただくことをおすすめします。

Q.一般的な目安としては、どのように水選びを考えたら良いのでしょうか?

A.

日頃の食生活でどういうものを召し上がっているかで、必要な水分量とミネラルの成分は変わってきます。

例えば、カルシウム・マグネシウムが多く含まれている乳製品や緑黄色野菜、海藻類などの食品が、日頃の食生活で不足していると自覚がある場合は、硬水を飲んでミネラルを補ったほうが良いと思いますね。 ちなみに、日本人のミネラルの摂取量については、毎年厚生労働省が国民健康・栄養調査結果を出しています。

調査によると、カルシウムの摂取量は、子どもの場合、割と牛乳を飲んでいるので足りていますが、12歳以上はすべての年代で不足しています。

特に20代の男性は、必要な量の7割弱しかカルシウムを摂れていないですね。ですので、カルシウムは積極的に摂らないと不足してしまいます。 

ちなみに、もうすこし言えば、実はカルシウムだけが多く含まれていても実はだめなんです。
カルシウムとマグネシウムの割合が2:1くらいで入っていると効率よく摂取できますので、そういう物が基本的にはおすすめです。 

ミネラルは、体の中でつくることができない成分ですので、外から摂る必要があります。
そうすると、食事や飲料から摂るしかありませんので、そういう意味では、硬水までいかなくても、少しでも多めにミネラルが含まれているものを摂ったほうが、体には良いということになりますね。 

食事で野菜・海藻類などを十分に摂れている方は、もちろん軟水でも良いと思います。
軟水の中でも、骨密度が低い方や、肌の調子が気になる方、髪の毛が少し細くなってきたと感じている方などは、シリカという成分が入っているものがおすすめです。

水素水というのもあります。これは、アスリートや歌手の方にも人気です。
水素が体に働きかけるメカニズムは、まだ解明されていませんが、医療分野では論文がたくさん出ていますので、いろいろな研究データがありますよ。

Q.水道水にカルシウムなどのミネラルは含まれていますか?

A.

はい、含まれています

地域によって差はありますが、東京のある地域の硬度を先日調べたところ、100mg/Lぐらいと結構ミネラルが含まれていました。

ただし硬度には季節変動もありますので、絶対この数値ですとは言えないところがあります。
その地域も私が以前調べたときは70~80mg/Lでした。関西などでは40~50mg/Lというところもありますし、東京の中でも地下水とブレンドしている所と、完全に河川水という所では事情が違います。
東京都水道局のホームページでは、自分の住んでる地域をクリックすると硬度が出てきます。気になる人はチェックしてみてくださいね。 

このように水道水にもミネラルは含まれていますが、とはいえ硬水などと比べると全然少ないですね。

市販されている硬水には、硬度が1,500mg/Lぐらいのものもあります。

例えばコンビニなどでよく見かける「ゲロルシュタイナー」は硬度が1,310mg/Lとたくさんのミネラルが含まれています。

意識的にミネラルを摂りたい方はそういった硬水を飲んだほうがいいですね。 

現代人は何かとミネラル不足になりがちです。

昔の日本の食生活では未精白のお米などを食べていたので、マグネシウムなども自然に摂れていました。
野菜にもミネラルが多く含まれていましたが、今は農薬の影響や土を何度も使うことにより土自体に含まれるミネラルが減っています。 

私は40代ですが、子どもの頃はカルシウムの1日の推奨量は600ミリグラムでした。
でも、今は650ミリグラムに増えています。特に18~29歳までの男性は800ミリグラム摂る必要があるので、本当に意識して摂らないと不足してしまいますね。

ちなみに、マグネシウムはストレスによっても排出されてしまいます。
14時~15時ぐらいに一番排出されると言われているので、その時間を意識して硬水を飲んで補ってあげると良いと思います。

Q.おすすめの硬水はありますか?

A.

たくさんあります

ただし、硬水に多く含まれるマグネシウムは「腸に水分を集める働き」があるので、下痢をしてしまう方もいて、合う方と合わない方がいます。
反応が早いと、飲んだ瞬間にお腹が痛くなる方もいます。

そういう方は硬度の高いものを無理して飲まずに、硬度が200~300ぐらいのものを選んでもらうのが良いと思います。たとえば「エビアン」の硬度はちょうど300くらいです。

Q.RO水とは何ですか? 天然水と違いはあるのですか?

A.

RO水は、水をRO膜でろ過してイオンや不純物を取り除き、限りなくH2Oに近づけた純水です。
人工的に作られた水で、天然水とは区別されますね。

RO膜はとても細かい膜なので、ミネラルを含めほとんどのものが取り除かれます。
しかし、ウォーターサーバーの「クリクラ」や「アクアクララ」のように、RO水にあとからミネラルを添加しているものもあります。

Q.天然水の場合、いろいろな採水地がありますが、おすすめの採水地はどこですか?

A.

採水地だけでは何とも言えません。
ただし、採水地による特徴はあると思います。

例えば硬度に注目した場合、「い・ろ・は・す」は、7採水地から採水していますが、阿蘇産の物だけ硬度が高いです。
「サントリー天然水」も同じように白州と大山と阿蘇の3箇所から採水していますが、阿蘇だけ硬度が少し高いです。
おそらく採水している阿蘇山の近くの地層がミネラルを多めに含んでいるのだと思います。

水にはいろいろな物質を溶かし込む性質があるので、採水地の土壌だけでなく、周辺の環境によっても含まれる成分が変わります。

採水地だけですべてを判断するのは難しいですが、自分の好きな国や好きな地域の水を選んでみるのも、ミネラルウォーターの楽しみ方だと思います。

Q.例えば、「い・ろ・は・す」は全国の自動販売機で売っていますが、同じボトルでも味が違ったりするのですか?

A.

実は、そうなんです。

まず「い・ろ・は・す」には7つの採水地があるので、地域によって異なる採水地の水が入っています。採水地が違うので、それぞれ味も異なります。

しかも、同じ採水地の物でも、水は天然の物ですしにおいなども吸着しやすいので、環境や採水時期が変わると味が違って感じられる可能性があります。

自動販売機の中の空気でも影響があるほどです。

自動販売機は、温度はコントロールされていると思いますが、温度によっても味は違ってきます。

めったにありませんが、輸入物でコンテナでほかのものと混載した場合に、においを吸着してしまうこともあります。

Q.例えば、独身の男女や小さいお子さんがいるご家庭、あるいは年配の方などによっても、合う水は違うものですか?

A.

使い方によっても違いますね。

例えば粉ミルクを溶かすには、RO水や、天然水であっても軟水が良いです。

硬水で溶かすと赤ちゃんがお腹をこわしたり、粉ミルクの成分が溶けないことがあります。

働き盛りの30~40代ぐらいの独身の方ですと、忙しくてバランスの良い食生活ができない可能性が高いので、天然水で少しでもミネラルを摂るために硬度が高いものを選ぶのが良いかもしれませんね。

年配の方は自炊などで野菜などしっかり栄養を摂っていただいているかもしれませんので、軟水で良いかもしれません。

お茶をいれて飲む場合にも、軟水は味を引き立たせてくれます。

高齢になってくると腎臓の働きが弱ってきますので、あまり硬度の高い水ではないほうが良い場合もあります。ただ、骨粗しょう症の方も多いので、ある程度カルシウムは摂られたほうが良いと思います。

ちなみに、カルシウムは、12~14歳の頃に一番体内に蓄積されます。
そこでたくさんつくっておかないと、あとは、貯金箱が目減りするように減っていきますので、12~14歳の男性は1,000ミリグラム、女性は850ミリグラム、カルシウムを摂ることが推奨されています。

カルシウムは普段の食事だけでは十分に補給できないので、牛乳や乳製品が苦手なお子さんには、意識的に硬水を選ばれるといいかもしれません。

骨は3ヶ月ほどの周期で新しい骨に入れ替わるので、今食べているものが3ヶ月後の骨をつくるといってもいいと思います。

骨量は30代をピークにしてゆるやかに減っていきますが、なるべく目減りしないように毎日カルシウムを摂ることが大切です。

Q.働き盛りの方は、特に意識的にミネラルを摂ったほうが良いのですか?

A.

働き盛りの方は、ストレスなどでもマグネシウムを失うので、水からもできるだけ摂っていただきたいと思います。

炭酸水もおすすめです。炭酸水には新陳代謝を上げる働きなどもあります。

ただし、選び方には注意が必要です。

最近は、皆さん疲れているときに「ウィルキンソン」や、コカ・コーラ社の「ザ・タンサン・ストロング」など、強い炭酸の刺激を求めがちですが、それらは純水に炭酸を足しているので、ミネラルは含まれていません。

同じ炭酸水なら、炭酸の強さは少し弱まりますが、「ゲロルシュタイナー」「サンペレグリノ」「ペリエ」などのほうがミネラルが入っていますので、お得かなと思います。

強い刺激が欲しい方など、もちろん好みはあると思いますが、成分的にはミネラルが入っている物の方がやはりおすすめです。

Q.日本の天然水はほとんど軟水だと思いますが、硬度の高い水を飲みたい場合は外国産ということですか?

A.

基本的には、海外産の方が手軽です。

国産のものだと、マグネシウムだけなら海洋深層水に多く含まれていたり、ごく一部ですが、霧島産の物など若干硬度が高いものがあります。
硬度150ぐらいまででしたら国産のものでも探せばありますね。

手軽に手に入る硬度が高めのミネラルウォーターとしては、例えばナチュラルローソンなどで売っている青いボトルの「ソラン・デ・カブラス」などがあります。
スペインの水で、硬度が260、値段は150円ぐらい、味も飲みやすく人気です。あとは、「コントレックス」のような超硬水を買ってきて、自分で軟水とブレンドすると硬度を調節することができます。

Q. 自分で軟水と硬水をブレンドしている方はいるんですか?

A.

アクアソムリエや水の愛好家たちはやっていますが、あまり一般の方はやっていないかもしれませんね。

パンをつくるときには、硬水のほうが良いと言われていますので、都内の高級パン屋などでは、バゲットを作るときに、硬水のほうが気泡ができるということで、軟水とブレンドしてパンを作っているところもあります。
ただしこの場合、わざわざブレンドしているのは硬水だけを使うと高くてコストが合わないという事情があるのかもしれません(笑)

Q、最後に一言お願いします。

A.

水は健康や美容にとって欠かせないもの。毎日きちんと必要な量を摂るということが一番大事です。

水が苦手だと思っている方は、いろんな水を試してみましょう。
軟水、硬水、炭酸水、フレーバーつきの水など……その中にもしかしたら好みの水があるかもしれません。

最初は量をたくさん飲むのは無理かもしれませんが、少しずつ飲む量を増やしていくと体調に変化が出てくるかもしれません。

自分に合った水は一つとは限りません。その時、その時に合った水を見つけていっていただきたいと思います。

山中さん、ありがとうございました!

【監修者】中倉大吾

株式会社スタークラフトの代表取締役社長を務めながら、水のスペシャリスト「アクアソムリエ」としても活動する。2013年5月からウォーターサーバーの比較メディアを運営開始。10年以上にわたってウォーターサーバー業界を見てきた豊富な知見を生かし、2019年にはより総合的でユーザーに寄り添ったウォーターサーバー比較サイトとして「水ナビ(当サイト)」を立ち上げる。また宅配水業界における正しい情報発信を推進するため、一般社団法人「日本宅配水&サーバー協会(JDSA)」の協賛会員に加盟。
※アクアソムリエは、日本アクアソムリエ協会の認定資格です。著者の所有資格について、詳細はこちらをご覧ください。またこちらからアクアソムリエ協会のプロフィールもご覧になれます。