八鹿酒造株式会社は九州・大分で150年以上にわたり酒造業を営んできた造り酒屋です。伝統を守りつつも新しい設備の導入や規格の取得、新製品開発に精力的に取り組み、現在も革新的なお酒造りを続けています。
今回は、八鹿酒造株式会社が日本酒や日本酒造りにかける想いについて、専務 麻生益寛様にお話を伺いました。
八鹿酒造株式会社
麻生益寛さん
専務
綺麗な水と厳しい寒さが育んだ八鹿の清酒
──八鹿酒造さんの蔵の特徴についてお聞かせください。
麻生益寛さん(以下、麻生さん) 八鹿酒造は1864年に創業し、150年以上にわたり日本酒造りを続けてきた造り酒屋です。
蔵は阿蘇山の外輪山標高450m以上の場所に位置しており、九重連山の伏流水を使って日本酒を仕込んでいます。
寒いときには気温がマイナス7〜8度、記録的な寒さの日ではマイナス14度にまで下がることもあり、九州・大分にありながら年間平均気温の推移は新潟県と同じくらいの場所です。
麻生さん そのため、水が綺麗で寒さが厳しいといったお酒造りに適した地域に蔵があるという感じでしょうか。
また、八鹿酒造のお酒はお酒造りに使う米と水とが同じ水で育っているため、米と水との相性が良いといった特徴もあります。
日本酒は優れたコミュニケーションツール。造り手の和も大事に
──八鹿酒造さまの理想の酒は「酌めどもつきぬ酒」と伺いました。「酌めどもつきぬ酒」はどんなお酒を指すのでしょうか?
麻生さん 酌めども尽きぬ酒とは「旨い酒」つまり「飲み飽きない酒」のことだと思っています。ここでいう「酌めども」とは、お酒を酌み交わすという意味です。
日本酒は、相手のお猪口にお酒を注ぎ合い酌み交わすという文化ですよね。お酒はコミュニケーションツールとして大変優れています。
八鹿酒造では会話の尽きない楽しい酒の席、円滑なコミュニケーションのお手伝いができるようなお酒造りを目指しています。
──酒造りで心掛けていることは何でしょうか?また、何か特別に取り組んでいることはありますか?
麻生さん 「酒造りは人づくり」という言葉もありますが、お酒を作っている人間もやはり仲良く作っていかなければいけないと思っています。そのため、造り手の「和」を心掛けています。
ですから、社内の懇親会や蔵開きなどのイベントは多いです。月1回の社員のバースデーなど、お祝いごとは皆で祝うようにしています。
「美味しい」は当たり前。さらにその先の安心・安全も目指す
──その他に、お酒造りにおいて心掛けていることはありますか?
麻生さん 最近は「美味しい」は当たり前となってきていますので、我々はさらにその先の「食の安心・安全」というところも考えています。
その取り組みの一つとして、八鹿酒造では2013年にHACCP(※)を取得しています。今でこそ他の酒造メーカーさんも色んな規格・資格を取得していますが、当時はうちの取り組みは酒類業界では先進的なほうだったと思います。
※HACCP(ハサップ)・・・食品の安全性を確保することを目的とした衛生管理の手法。食中毒や異物混入などの期間を防ぐため、原材料の入荷から製品の出荷に至る全行程を管理・記録する。2020年6月より全ての食品事業者に義務化された。
また、ISO22000(※)も取得するなど、八鹿酒造では美味しいだけでなく、食の安心・安全にも重点を置いたお酒造りを行ってます。今後もこうしたところは大事にしていきたいと思っています。
※ISO22000・・・食品安全マネジメントシステムに関する国際規格。食品事故発生のリスク低減と再発防止を目的としている
時代に合わせたお酒「スパークリング日本酒」は乾杯向けの日本酒
──食品の安全に関する規格を他メーカーに先駆けて取得するなど、八鹿酒造さんは伝統的なお酒造りだけでなく、先進的な取り組みもなさっているなという印象を受けます。
麻生さん そうですね。時代に合わせたお酒造りも心掛けているところです。
伝統の先に今があると思っていますので、昔ながらのやり方をどんどん革新していきながら新しい伝統を作っていくことにも注力しています。
昨今では、日本酒が飲まれる場所、飲み方が変わってきているので、そこにあった商品づくりをしています。
八鹿酒造で今力を入れているのはスパークリング日本酒です。
──スパークリング日本酒!これまでの日本酒のイメージとかなり違う、新しいお酒といった感じがします。スパークリング日本酒を作ろうと思ったきっかけは何だったのでしょうか?
麻生さん 今、結婚式などの場ではシャンパンで乾杯をすることが多いですよね。日本酒で乾杯って場面はあまりありません。
乾杯がシャンパンから始まると次はビールとなってしまい、日本酒までたどり着かないことが多いと思います。けれど、1杯目が日本酒で始まれば、2杯目3杯目も日本酒と続いていきます。
そういう意味でも、ぜひ乾杯は日本酒でやってほしいという思いから、スパークリング日本酒が生まれました。
──確かに、最近は日本酒というと1杯目からは飲みづらいイメージがありますが、スパークリング日本酒なら乾杯からでも入りやすそうです。
麻生さん そもそも「乾杯」というのは、神様に祈念(お祈り)をして盃をあげるものです。お神酒などもそうですよね。
ですが、ビールやシャンパンで乾杯する海外の「乾杯(チアーズ)」は、その場の仲間内で祝うもの。日本酒で乾杯する、祈念するという意味での日本人の「乾杯」とはやはり違います。
ですから、日本の文化という面から言っても私は「乾杯」の飲み物には日本酒がふさわしいと思っています。
我々の仕事は酒造りですが、単なるアルコール製造メーカーというだけでなく、伝統産業の担い手という意識で仕事をしています。
お酒とともに日本の文化も継承していければと思っています。
日本酒と同じこだわりの「段仕込み」製法で丁寧に仕込む焼酎
──焼酎・リキュールの取り扱いを始めたきっかけをお聞かせください。
麻生さん これには色々な理由があります。
一つには、日本酒の売り上げ低迷もあり、焼酎・リキュールの取り扱いを始めたということが挙げられます。
八鹿酒造には「かぼすリキュール」という商品がありますが、これは大分の特産品であるかぼすを使ったリキュールを作ろうと思って開発を始めたという経緯があると聞いています。
麻生さん また、もともと麦焼酎を作る前に日本酒を作った時に出る酒粕を使った粕取り焼酎を作っていたことも焼酎の取り扱いを始めた理由の一つだと思います。
──日本酒造りで培ってきたものの中で、焼酎・リキュール造りに活かせているものはありますか?
麻生さん 日本酒を作るときの麹造りの技術が焼酎造りにも生かされています。日本酒の麹を作るときと同じ感覚で、焼酎に使う麦麹も丁寧に作っています。
また、八鹿酒造では焼酎の製造でも段仕込み(※)を行っています。
※段仕込み・・・醪(もろみ)を作る際、酵母の様子を見ながら、原料となる麹・蒸米・水を数回に分けて投入し、ゆっくり発酵させる製法のこと
麻生さん 日本酒では三段仕込みをしますが、通常、焼酎ではこの段仕込みをする必要はありません。このこだわりが焼酎の味に良い影響を与えているのではないかと思います。
──普通の焼酎と段仕込みをしている焼酎とはどんな違いがありますか?
麻生さん 普通の焼酎に比べて、甘みやうまみを感じやすいと思いますが、「ここの数値が高い」「香りや味が全然違う」等、はっきりと分かるほどの違いではありません。
そのため「なぜ段仕込みをするのか」と聞かれることもありますが、私はいつも「ただのこだわり」と返しています(笑)
日本酒と同じ作り方で焼酎も丁寧に作りたい、そういったこだわりの中の一つです。
乾杯のシーンに日本酒を戻し、日本酒全体の売上を底上げしたい
──今後の展望をお聞かせください。
麻生さん 今は特に日本酒離れが進んでおり、うちでも、売上の比率で言えば日本酒:焼酎=1:5くらいで、やはり焼酎が優勢です。
ですから、今後の展望としては日本酒全体の売上を伸ばすことが目標です。
先にお話したとおり、乾杯の1杯目に日本酒を飲む、乾杯のシーンに日本酒を戻すことで日本酒全体の売上の底上げに繋がります。
八鹿酒造のスパークリング日本酒「八鹿 awa sake 白虹」が12月より、ANAのファーストクラスで提供されることが決まりました。
今力を入れているスパークリング日本酒「八鹿 スパークリング Niji」・「八鹿 awa sake 白虹」を中心に色んな賞を貰っている良いお酒も八鹿酒造にはたくさんありますので、こうして皆さんの注目を集められるような商品をこれからも一生懸命作っていきたいです。
麻生さん また、九州の日本酒というと「酒処ではない」というイメージを持たれているので、もっとブランドを認知してもらえるように頑張っていきたいですね。
焼酎「銀座のすずめ」もご好評いただいているので、日本酒はもちろんですが、焼酎の売り上げも同時に伸ばしていけたら良いと思っています。
八鹿酒造株式会社
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