10万本もの酒が眠る「奇跡の洞窟酒蔵」

島崎酒造は嘉永二年(1849年)に初代の島崎彦兵衛が創業。170年もの長きに渡ってこだわりの酒造りをしてきました。

二代目の熊吉が現在の栃木県は那須烏山に酒造庫を譲り受け、代表的な銘酒「東力士(あずまりきし)」が生まれました。

今回は、現代表の島崎健一(しまざきけんいち)さんにインタビュー。
今までの酒造りを支えてきた「洞窟酒蔵」の秘話や、新たな日本酒の味わいづくり、おすすめのお酒などについてお話をうかがいました。

株式会社島崎酒造

担当者 島崎健一さん

代表

1969年生まれ。東京農業大学醸造学科に入学し、卒論では吟醸酒を仕込む。卒業後、新潟の蔵での修行を経て実家に戻り、平成24年3月より代表に就任。

170年もの歴史を支えた「東力士」

大吟醸「東力士」。お米の旨みや甘みを存分に表現。
地酒秘伝の甘口を守りながら、より良い酒を追求し続けている。

——創業時から主力商品である「東力士(あずまりきし)」について教えてください。

島崎健一さん(以下、島崎さん) 東力士という酒名は、二代目の熊吉が無類の相撲好きであったことから命名されました。

それ以来「取り組んで 負けぬ銘酒や 東力士」という理念をもとに酒造りを続けてきました。その名の通り島崎酒造の歴史を力強く支えてくれた存在です。

「お米の旨みをしっかりと引き出した味わい」で、それが他にはない味わいだと評判です。このお酒は地元の方を中心に愛されてきました。

——どのような「水」を活用しているのでしょうか。

島崎さん 那須岳から流れる「那珂川(なかがわ)」の伏流水です。とても良質な水質の川なので、島崎酒造の近くにはいくつもの酒蔵や醤油屋、味噌屋がありました。

那須烏山は水に恵まれた地域です。その恩恵を受けながら酒造りをしてまいりました。

「奇跡の洞窟酒蔵」との出会い

島崎さんの父親が奇跡的に再会した洞窟酒蔵。
現在は土日祝を中心に一般開放し、小さなお子様からお酒好きの方まで幅広く楽しむことができる。

——「洞窟酒蔵」について教えてください。

島崎さん 洞窟酒蔵は那須烏山市の近代文化遺産にも指定されており、「先人の遺した遺産」とも言えます。

酒蔵の中は「熟成酒」を造り出すにはこれ以上ない最高の環境です。
年間平均気温は10度前後で、日光がまったく差し込まず、総延長600mの広々とした空間。50年以上熟成された大吟醸をはじめ、現在も約10万本の酒が眠っています。

この場所はもともと、第二次世界大戦末期に「戦車を製造するために造られた地下工場」でした。そして実は、先代である父親とも深い繋がりがあります。

——どのような繋がりがあったのですか?

島崎さん 父が中学生の頃です。当時は父のような子どもも働く時代で、その地下工場を造るために土を掘り起こす仕事をしていたそうです。

結局は終戦間際だったため、実際に戦車が造られることはありませんでした。
ついに何十年もの間放置され、地下工場はほとんど忘れ去られてしまったのです。

そして1975年、父が島崎酒造を継承することに。最初は小規模な貯蔵庫を使っていましたが、どんどん酒の数が増え、新たな貯蔵庫を探していました。
そんなある時、「そういえばあんな場所があったよな…」と、地下工場の存在をふと思い出したのだとか。実際に足を運んでみると、「そのままの状態でも酒造りの環境として最適なのでは」と感じたそうです。

そこで試しに、今の6分の1くらいの敷地に3年ほど酒を貯蔵してみると、とても良い状態に熟成されました。平成14年、元地下工場は本格的に貯蔵庫として生まれ変わったのです。

しかも当時は、日本酒も繊細な酒が増えてきた時代。それまではタンクの中で貯蔵するのが主流でしたが、品質を守るために「瓶貯蔵」をして冷蔵するという流れに変わってきていました。

洞窟酒蔵は冷蔵庫代わりにもなりますし、熟成酒だけでなく一般酒も瓶貯蔵ができる。
そのタイミングもちょうど良かったのです。

運命のように出会ったこの場所を、これからも大切に活用しなければと思っています。

洞窟酒蔵に足を踏み入れ、日本酒を味わい尽くす

上:洞窟内のショップ/下:タブレットでの自動音声案内。
現在は土日祝を中心に一般開放。小さなお子様からお酒好きの方まで楽しむことができる。

——洞窟見学も実施されているそうですね。

島崎さん はい。最初は業者の方に興味を持っていただくことが多く、「洞窟を見せてほしい」と言われたらお見せするような感じでした。
次第に地元の人からも見たいと言われるようになり、「ここまで需要があるのなら一般開放をしてみよう」と。

自然な流れで、日本酒のことを知ってもらうきっかけが生まれたと思いますね。
まだまだ知らない人も多い「日本酒の管理方法」や「熟成酒のジャンル」について、お伝えする良い機会だととらえています。

より多くの方に楽しんでいただけたらと、ここ数年で洞窟の中に酒を購入できるショップや、洞窟内を自動音声で案内するタブレットを設置。
おかげさまで大変ご好評いただき、年間の来場者数は2万5000人を超えます。

また、「オーナーズボトル」も受け付けています。
5年から20年の間「あなただけの」大吟醸酒を洞窟酒蔵でお預かりするシステムです。熟成する年数によって味わいも成長を続けていきます。

お子さんやお孫さんの誕生時にお申込みいただき、20年後の成人式のお祝いにするなど、成熟した風味と味わいを「未来の大切な人」に届けることができます。

熟成は「長く置く」だけではない。酒のゴールを決め、とことん工夫を凝らす

——長年の歴史を大切にされながら、新しい取り組みをされていますが、今はどのようなことに取り組んでいますか?

島崎さん 熟成のバリエーションをもたせ、変化をつけながら新しい酒を生み出すことに注力しています。
熟成と聞くと「長く置いておくだけ」というイメージがあるかもしれませんが、私たちは待ちの姿勢ではなく自ら変化を起こしています。

まずは「どのような酒にするのか」という目的や趣旨を定め、年数をはじめ温度や環境、時期などあらゆる面で工夫を凝らしています。
熟成だからこそすぐに結果が出ることはありません。時間を掛けて作った先で、お客様に受け入れられるよう最善を尽くしています。

代表的なものは「熟露枯(うろこ)」シリーズの「純米山廃原酒」。何段階かの温度に分けて造り上げました。
最初はタンクでじんわりと熟成し、その後瓶に詰めて洞窟の低温で整え、仕上げています。おかげさまでご好評をいただいています。

——最後に、島崎さんおすすめの商品を教えてください。

島崎さん 大吟醸の古酒はこれからのジャンルなので人気が高まっていますね。なかでも「熟露枯 大吟醸飲み比べセット」がおすすめです。
1年、3年、10年熟成のものがそれぞれ100mlずつ入っていて、同じ種類での変化を楽しんでいただけます。

島崎酒造ならではの酒の味わいは言葉では伝えきれないので、ぜひ一度味わってみてくださいね。

株式会社島崎酒造

〒321-0621 栃木県那須烏山市中央1-11-18
TEL:0287-83-1221 
FAX:0287-84-1728

この記事の執筆者

志摩 若奈(しま わかな)

個人事業主として、取材や執筆、カウンセリングをおこなう。「自分と繋がる瞑想法®︎」を活用した、自己信頼や自己受容を育むセッションを提供中。お問い合わせはInstagramのメッセージまで。

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