水中で築く絆と社会性。障害者水泳マンツーマン指導で、泳ぐ社会貢献を!【プール・ボランティア】

みなさんは、市民プールで泳ぐ障害者を見かけたことがありますか?

障害者は専用のプールで泳ぐことが多いですが、一般の市民プールで健常者と一緒に活動することを支援している団体があります。

今回は障害者水泳マンツーマン指導をされている特定非営利活動法人プール・ボランティアさんにお話を伺いました。

特定非営利活動法人プール・ボランティア

岡崎 寛さん

理事長

特定非営利活動法人プール・ボランティア

織田 智子さん

事務局長

はじまりは日本赤十字社の水上安全法の普及活動

プール・ボランティアは、日本赤十字社の水上安全法のボランティア指導員などが集まって、1999年に設立しました。

当時日本赤十字社で活動していた岡崎さんと織田さんが中心となり、「泳げる私たちが何か社会貢献できれば」と活動を開始。

水難救助の知識と技術を障害者の水泳指導に活かして、一人ひとりのレベルに合わせたマンツーマン指導で障害者や高齢者とプールでの時間を楽しんでいます。

プール・ボランティアの特長の一つが、障害者専用のプールではなく一般の市民プールで泳ぐこと。

織田さん

障害者も健常者も共に楽しめる社会環境を作ることが、私たちのコンセプトであり、ミッションでもあります。

と、事務局長の織田さんは語ります。

利用者は2~95才!プールでの活動内容

プール・ボランティアでは、自宅からプールまで連れてくる人・着替えを手伝う人・プールで指導する人の3つのグループに分かれて障害者をサポートしています。

水に顔をつけることができない人から、パラリンピック出場を目指す人まで、各ペアごとに1時間30分、好きなようにプールでの時間を過ごします。

現在(取材時2023年4月時点)は、約180人のボランティアと約80人の利用者が在籍しています。

コロナで利用者が半減していますが、以前は年間のべ5000人が利用しており、コロナの落ち着きと共に新規入会や再入会をする人が増えてきました。

利用者の年齢はなんと、2~95才!子供のころから20年以上通っている人も多いそう。

知的障害者が8割で、脳卒中のリハビリで通う高齢者もいるのだとか。水中を歩きながら歌を歌ったり、25メートルの完走を目指したり、皆が思い思いにプールでの時間を楽しんでいます。

プール・ボランティアが開発した
誰でも簡単に浮くことができるアイテム「うきうきくん」を使う利用者

支えるのはさまざまな立場のボランティア

障害者を支えるボランティアは、高校生から80代までのさまざまな立場の人たち。

退職後に好きなことで子供と関わりたい人、学校の先生を目指す高校生、フルタイムで働くサラリーマン…年齢も性別もさまざまですが、ボランティアはみな仲が良く、人のために泳ぐ喜びを感じているようです。

織田さん

普段車いすを利用している人は、陸上では自由に動くことができません。ですが、水の中なら、自分の力で好きな人のところへ移動することができる。

織田さん

言葉を発することができない子も、自分は何がしたいのか必死に気持ちを伝えようとしてくる。20年経ってもまだまだ知らないことを知れたり、利用者の成長を感じられることが、とてもうれしいです。

と、織田さんはこの活動のやりがいを語ります。

プール用の車いすで入水

心ない言葉を乗り越えて…「この10年で社会は優しくなりました」

プール・ボランティアの最大の特長は、一般の市民プールを使用すること。

今では大阪の市民プールの利用者の10人に1人が障害者と言われていますが、そのような光景が当たり前になるまでは、厳しい現実がありました。

岡崎さん

『暗い』『汚い』『専用プールに行け』ここには書けないような言葉も含め、数々の心ない言葉をかけられたこともありました。

と教えてくれたのは、理事長の岡崎さん。

そんな障害者のネガティブなイメージを塗り替えて、プール・ボランティアのファンを作ろう!とさまざまな取り組みを行いました。

岡崎さん

まずは、あいさつすることを徹底しました。こちらから声をかけることで、仲間意識を持ってもらおうと思いました。

岡崎さん

そして、身なりにも気を付けています。利用者には最新の水着を無償で貸し出しています。汚いというイメージを払拭して、かっこよくてスマートなイメージを持ってもらいたいからです。

岡崎さん

地道な活動が功を奏し、今では子供たちの元気な声が聞きたいと同じ時間帯に来てくれる人が現れたり、『よう頑張ってんなぁ』と温かな声かけをいただくことも増えました。社会は優しく変わってきたなと感じています

私たちにとって水中は陸上よりも快適に過ごせる場所

人間にとって、水はなくては生きていけない存在。そのことを、コロナ禍で痛感したとお二人は話してくれました。

織田さん

コロナが流行り出した頃、約8か月間プールに入ることができなくなりました。その期間のなんと苦しかったことか。それまでは、プールは余暇であり、あくまでプラスアルファの存在だと思っていました。

織田さん

ですが水に入れなくなりプールに入れないと生きていけないかも。私たちにとってプールは生きるための場所なんだと気づかされました。

それはボランティアだけではなく、利用者も同じ。

実際、プールの日はよく眠れるし翌日はいつもより穏やかに過ごせる方が多いのだそう。水中では良い脳波が出るようで、水の効果に驚くこともしばしば。

岡崎さん

水の中では人との距離が縮まります。裸の付き合いをすることで、熱い関係を築くことができるんです

と、お二人はそう熱く語ります。

薄れる心のバリア。でも、目に見えるバリアはまだまだたくさん

活動を続けることで理解者や応援してくれる人が増え、心のバリアが薄くなってきていることを感じることが増えたといいます。

しかし、目に見えるバリアはまだまだたくさんあるのが現状です。例えば、更衣室。障害者用の更衣室は空調が止められていたり、倉庫になっていたりと満足に使えないプールがたくさんあるそうです。

プール・ボランティアでは、プールの管理者に正しい知識を啓発する『障害者対応研修』を行っています。

研修の様子

また、行政への提案を行う『プール・オンブズマン活動』にも力を入れており、障害者への偏見をなくし、正しい知識を持って障害者と接する社会づくりを障害者目線で進めています

ヘルプマーク・スイムキャップの作成も行う。
2018年9月から全国に無償で配布中

これからの水中ボランティアの増加に期待。障害者に優しい社会づくりを

大阪から始まったプール・ボランティアの活動は広がっており、2022年12月にはプール・ボランティア和歌山が発足しました。

2023年には新潟と北海道にも設立予定で、順調に活動の幅を広げています。しかし、陸上のボランティアに比べて水中のボランティアはまだまだ少ないそうです。

織田さん

水泳を教えたいけれど、やり方がわからないという声をたくさん耳にします。
そのような方に向けて、2022年7月から『障害者水泳 指導者養成研修(体験型)』をスタートさせました。おかげさまで人気をいただき、毎週全国各地から参加いただいています。

岡崎さん

水泳は障害者にとって最も安全なスポーツ。これからは障害者もどんどんプールに行く時代だと思っています。
この記事を読んで興味を持った人はぜひ体験に来てください!一緒に障害者に優しい社会をつくりましょう。

自分のためではなく、人のために泳ぐ楽しさを知ってほしい」そう語るお二人の生き生きとした表情からプール・ボランティアのやりがいと誠実さを感じました。

障害者と健常者が手を取り合い、一緒に泳ぐことが当たり前の社会へーー。水が育む社会の可能性を感じた取材でした。

特定非営利活動法人プール・ボランティア
〒540-0034 大阪市中央区島町 2-4-3 ヴィラ島町9階
TEL:06-4794-8299
FAX:06-4794-8298

この記事の執筆者

尾西 美菜子

印刷会社の企画編集部門でライターとして数年働いたのち、医療業界へ転職。現在は歯科助手として働きながら、フリーライターとしても活動する。趣味は御朱印集め、サッカー観戦、読書。

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