日本では蛇口をひねれば、きれいな水が出るのは当たり前。
ですが、国や地域が変われば、きれいで安全な水を確保するのがむずかしいこともあります。
アフリカ大陸のモザンビークには、そんな場所があります。
水に関する事業を始め、さまざまな支援事業を展開する、「認定NPO法人グッドネーバーズ・ジャパン」の現地駐在員・平良奏さんにモザンビークの水のお話しや暮らしのことなどを伺いました。
認定NPO法人グッドネーバーズ・ジャパン
平良 奏さん
現地駐在員
モザンビークってどんなところ?
──まずはモザンビークがどんな国なのか、今どこにいらっしゃるのか、教えていただけますか。
平良奏さん(以下、平良さん) モザンビークは、アフリカの南東部のインド洋に面した国。南北に広がっていて、 広さは日本の2.5倍ほどあります。
南半球に位置しているので、日本とは季節が逆。6~8月は冬で、最南端に位置する首都マプトでは、特に寒い日には朝晩は12℃と寒くなります。
同じ時期でも中部・北部の地域では、30℃になる暑いところもあるんですよ。アフリカというと、年中暖かい気候を想像しますが、エリアによって気候も違います。
今は首都マプトにいて、事業地のガザ州と行き来する生活です。
──モザンビークのよいところは?
平良さん インド洋の海産物、特にエビなんかは安くておいしいです。
ポルトガル領だったこともあって、料理がおいしい。特にエッグタルトは、どんな田舎町で食べてもおいしいですよ。主食のパンもふわふわのおいしいものが買えます。
ただ物価は高めで。日本のレストランなら1,000円くらいで食べられるものが、2~3倍します。
農村部は安全な水の確保が課題
──モザンビークでの「水」に関する事業では、どういったことをされているんですか?
平良さん グッドネーバーズ・ジャパンが実施している水の事業は、主に3つです。給水施設・洗濯場・家畜用の水飲み場の建設、それらの修繕、給水施設の管理体制の構築。
モザンビークの農村部には、家に水道がない、給水施設もないエリアがあります。
そういった地域では、川や沼の水を生活用水として使っているので、周辺に住んでいる方に安全な水を供給するためには、給水施設を作る必要があります。
──日本では水道からきれいな水が出るのは当たり前ですが、安全な水がないことで起こることとは、
どんなことでしょうか。
平良さん 体調を崩す人、特に下痢をする人が多いです。また、モザンビークの5歳以下の子どもの死亡理由の10%が下痢。
子どもは、喉が渇けばすぐ水を飲んでしまうし、赤ちゃんがいるお母さんもそういう水を飲んでいるので、当然赤ちゃんも具合が悪い子が多くて。慢性的に体調が悪い人が多いです。
──給水施設ができたエリアでは、どの程度体調不良が改善されましたか?
平良さん 住民の方からは、「給水施設の建設前は特に子どもたちが頻繁に腹痛や下痢になっていたけれど、給水施設が完成してからは、子どもたちが下痢になることは無く、とても安心しています。」という声を聞くことができました。
現地住民の理解を得るために
──給水施設を建設するにあたり、大変だったことはありますか?
平良さん 給水施設は作ったら終わりではなくて、維持していくことが大切ですよね。
現地の住民の方で管理委員会を作って、管理方法を現地政府と私たちグッドネーバーズ・ジャパンで指導していくのですが、これがなかなか大変で。
給水施設のメンテナンスにはお金がかかります。そこで、水の使用料を決めて、定期的に集金をするのですが、もともと川などから水を汲んでいた人たちの中には「水は神様からのめぐみ。お金がかかるものじゃない」という考え方の人たちもいて。
そういった価値観の違いに頭を抱えることはあります。
──管理委員会はどんな役目なんですか。
平良さん 管理委員会は日本でいうところの町内会みたいなものと言えば、わかりやすいでしょうか。
管理委員会はボランティアなので、管理委員をやってくれる人を人を探すのも、なかなか難しいのです。
モザンビークの地方で農業や漁業を営んでいる方は、半分自給自足の生活をしているので、農業にしても漁業にしても、まずは自分たちが食べる分を育てたり獲ったりしていて、売って収入を得るほどの規模でできる人は多くないんです。
もともとの手持ち現金が少ないから、水にお金を払う余裕はない。安全な水を確保するには、お金がかかる、ということを理解してもらうのは簡単ではありません。
毎日が刺激的、現地スタッフとの感覚の違い
──住民の方だけでなく、現地のスタッフさんとの感覚の違いを感じることはありますか?
平良さん いっしょに働いていて思うのは、時間の感覚がちょっと違うなぁと。
締め切りは変えられないのに、こっちの人たちは、状況に応じて「明日でもいいんじゃない?」と締め切りを柔軟に変えようとするところがあって。
日本側が提示している締め切りは変えられないので、とにかく二重三重に締め切りを前もって設けたり、確認をして、締め切りは守れるよう気を付けています。
──外国人の方との時間や仕事についての感覚の違いは、確かにありますよね。
平良さん そうですね。モザンビーク人もいろんな人がいますけど、彼らは割と仕事とプライベートの境がなく、土曜でお休みなのに仕事のレポートを書いて送ってくることもあります。
でも彼らは別に苦痛とか迷惑に感じているわけではなくて、あっけらかんとしてるんですよね。こういう感覚の違いは、おもしろいなって思っています。
国に留まることを選択した人々との関わり
──モザンビークの人たちと仕事をしていて、すごいと思ったことを教えてください。
平良さん モザンビークは30年くらい前に16年も続いた内戦が終わった国で、40代以上の方は戦争を知っている世代なんです。そこからの今の生活はかなりの劇的な変化ですよね。
私だったら、逃げてしまうだろう悲惨な現実をたくさん見てきたと思うんです。それでもモザンビークのために信念を持って働く同僚を見ると尊敬するし、すごいなと感じます。
──お仕事をされていて、楽しかったことやうれしかったことは?
平良さん 水の事業ではないですが、病院がないエリアで、ヘルスセンターを建てる事業をしたときに、それが完成して、開業前に式典をしました。
1年近くその地域に密着して、施設も無事に完成。地域で活動するヘルスワーカーの研修も終了して。
事業に携わった人たち全員が、式典で踊って歌って、盛り上がってみんながひとつになったって感じで。
そんな式典ができたときは、本当にうれしかったです。
「水」以外にも解決すべき問題がある
──モザンビークで、これからどんなことをしていきたいですか?
平良さん グッドネーバーズ・ジャパンとして、モザンビークの人すべてに安全な水を供給することや病院を作る、教育環境を整える事業を今後も展開していきたいと思っています。
ただ、事業に携わってきて思うのは、モザンビークの人たちの収入そのものがアップしていかないと解決できないことがたくさんあるということです。
いろんな国や団体が来て支援していますが、給水施設を作っても資金不足で管理ができなくて、使えなくなってしまえば、無意味ですよね。
直近の問題を解決するために支援は必要ですが、長期的に見ると問題の解決にはなっていない。
ビジネスとして自分たちで収入を生み出すような仕組みを作らないと、本当の意味での解決には至らないと感じています。
生活環境を整えながら、モザンビークの人たちの収入アップにつながるようなこともしていけたら、と思っています。
認定NPO法人グッドネーバーズ・ジャパン
〒144-0051 東京都大田区西蒲田7-60-1 ソメノビル7階
TEL:03-6423-1768