何よりも「楽しい」「好き」を原動力に。オーシャンファミリーが目指す環境保全活動とは

何よりも「楽しい」「好き」を原動力に。オーシャンファミリーが目指す環境保全活動とは

オーシャンファミリーは、子どもたちを中心に海の体験活動を行う認定NPO法人です。

東京都・三宅島で始まった取り組みは、長い年月を経て神奈川県・葉山町で続けられています。

今回は常勤スタッフの田中幸太郎さんに、オーシャンファミリーの歩みと活動を通して目指す目標を伺いました。

認定NPO法人オーシャンファミリー

常勤スタッフ

田中 幸太郎さん

前職で幼稚園へ勤めていた頃、園外活動でオーシャンファミリーに出会う。ダイナミックな自然が残る葉山の環境に魅了され、2019年よりオーシャンファミリーの常勤スタッフに。愛称は“ジョンジョン”。

田中 幸太郎さん

脈々と受け継いだ海の教育

──オーシャンファミリーの活動は三宅島で始まったと伺いました。

田中幸太郎さん(以下、田中さん) はい。オーシャンファミリーの前身は、アメリカの海洋生物学者ジャック・T・モイヤーさんが三宅島で設立した「海洋自然体験事業所」です。

モイヤー博士は、島の子どもたちを対象とした三宅島サマースクールを開始。当法人の前代表、海野義明もこの活動に参画し、1998年には事務局を継承します。

2000年の三宅島火山噴火で全島避難が余儀なくされ、一時ストップした活動でしたが、その後、海野の故郷・神奈川県三浦半島の葉山町に二つ目の拠点を構え、2度目のスタートを切ります。

そうして2005年に法人化を、2020年には認定NPO法人格(※1)を取得しました。

※1 運営組織・事業活動が適正で、公益の増進に資する活動として認定された法人のこと。

活動の拠点は、海藻が豊かな葉山の海

海の楽しさ、素晴らしさを知ってもらうために

──モイヤー博士が海の体験教育を始めてから実に70年、長い歴史を経て現在に至っています。日頃から大切にしている考え方を教えてください。
田中さん オーシャンファミリーでは、Vision, Motto, Valueの3つを活動の中心に掲げています。

✔️Vision(目指す姿)
「海で子どもを元気に、元気になった子どもが海を元気に」

Visionは活動全体に関わる考え方です。

田中さん 楽しさや怖さ、発見や喜びなど、海でのたくさんの原体験が、やがて環境保護・保全への意識へ発展していくと信じています。

 ✔️Motto(スローガン)
「海は楽しい、海は素晴らしい、そして海は大切だ!」

Mottoは、実際に活動を組み立てる際に軸となります。

田中さん 私たちの取り組みが目指す先には環境保護・保全への意識向上があります。

しかし環境汚染等の問題は、結果的に「人間が悪いことをしてしまった」という結論に行き着いてしまう。

もちろん過去の反省は必要です。ただ活動へ参加する子どもたちには、何よりも海の素晴らしさを体感し、楽しみ、好きになってほしいと思っています。

そうして蒔かれた種が、やがて海を守る意識として芽吹いてくれるでしょう。

子どもたちは海の世界に夢中

✔️Value(行動指針)
➀「自分も自然の一部だと認識する」

田中さん 自然を対象物としてのみ捉えるのではなく、自然界の中に自分自身が生きていることを体感してほしい…そんな思いが込められた言葉です。

私たちの活動では時に命の循環について学びます。子どもたちは、映像で地元で行われている捕獲・解体の様子を見たあと、実際に獲れた肉を焼いて食べます。

「可哀想」「怖くて見れない」といった感情が芽生える反面、実際に食べてみると「やっぱり美味しい」と感じる。

そのどうしようもない事実を、身をもって体感することで、自分の体は自然界にある循環の一部なのだと実感します。

こうした感情の大きなステップが、自然への深い認識につながると考えています。

➁「主観を育み、changemakerを育てる」

田中さん この言葉には、「人がどう思うか」を考える前に、まずは「自分がどう感じるか」を大切にしてほしいという思いが込められています。

例えば、集団行動では時に「右向け右」の同調行動が求められますよね。

しかし「周囲がどう思うか」の一つ手前で「自分にとって心地よいものは何なのか、反対に不快なのはどんな状況か」を感じ取れることも、今後の社会に必要だと思っています。

――「changemaker」は、「社会課題を自分ごととして捉え、テクノロジーや新しいアイデアを使って社会変革を起こす人」という意味の言葉ですね。
主観を大切にした先に、「changemakerを育てる」という部分があるのでしょうか。

田中さん そうですね。子どもたちには、目の前の自然環境を自分ごととして捉え、行動を起こせる存在になってほしいと感じています。

その意味で「changemaker」と呼ばれるような存在を育てることは大きな意義があります。

また逆説的ですが、主観を大切にすることが、客観的な視点を受け入れる心をも育ててくれるはず。

オーシャンファミリーから、自分自身の考え・感性を大事にできる場所を作っていきたいですね。

➂「Think globally, act locally!」

田中さん 海は全てつながっていて、人類はヒトという同じ種の仲間です。

自然環境を考える際にも、今いる場所だけではなく、地球全体を見るマクロな視点を持つこと。

できることは足元からですが、今後はより一層グローバルな視点を意識していきたいと考えています。

自然を体感する多様なプログラム

──日々の活動についても教えてください。

田中さん 主な活動は通年のスクール事業です。

家族で一緒に参加する「ファミリー教室」や海遊び・食育をテーマにした「葉山キッズschool」、海辺を楽しみ、学ぶ「マリンキッズ」等、週または月に一回の周期で活動しています。

【キャプション】年間320日以上の活動を実施。
今年度は通年クラスには250名程が参加する。
年間320日以上の活動を実施。
今年度は通年クラスには250名程が参加する。

毎回の活動後には公式サイトにレポートが上がりますので、ぜひご覧になってみてください。

シュノーケリングでは 毎回ベストなコンディションの海へダイブ。

田中さん サポートボランティアの方々を対象にした研修の場「リーダーズ作戦会議」も行っており、安全管理に関する学習や打ち合わせの場として活用しています。

また活動後には振り返りの場を設け、現場での様子を共有して次回へ活かしています。

とはいえ、あくまで自然や子どもたちが私たちに教えてくれるものも多い。

現場で見たもの、得た感覚が、日々の道しるべとなっていますね。

五感を存分に使って楽しむ自然体験

──参加者の皆さんの反響はいかがでしょうか。

田中さん よく聞かれるのは「学校ではできない体験でした」という声です。

教育の場では、危険やトラブルが起きないよう、前もって対策・ルールを設けることが多くあります。

安全面を考えると、制限があるのは正しいこと。ただ、それではできないことが増えていくばかりで窮屈になりかねません。

だからこそ私たちは、スタッフの目を十分確保した上で、子どもたちが衝動に素直になれる場を作りたいと考えています。

例えば、高い場所から海を見下ろすと、つい飛び込みたくなることがあります。

そんな時「飛び込んだら怒られるかな…」ではなく「やってみよう!」と思えるかどうか。

子どもたちが本来持つ本能・衝動にできるだけ制限をかけず、トライができる空気感を大切にしようと、スタッフの中で話しています。

思い切って広い海へジャンプ!

現代は生活に関わるあらゆることがオンライン化され、リアルな体験をスマホ等の画面上の操作に置き換えるサービスが増えました。

生き物の生態だって、動画サイトですぐに見ることができます。でも、それはあくまで用意された知識。

人の手で作られたものを享受するだけでなく、触ったり匂いを嗅いだり、時には口にしてみたり…五感を通して体感したことは、心の深い部分に残ります。

私自身、この活動を始めて5年目になりますが、海に潜るときは毎回ドキドキするんですよ。

海底で大きなタコと睨み合った時や、見たことのない生き物に触る瞬間は緊張しますし、美しい魚に出会うと心が動かされます。

そうした感情って、画像や動画では味わえないリアルなんですよね。

自然の楽しさ、不思議さ、怖さ、偉大さ…自分の身体を使ったふれあいは、他では変えられない体験になると思っています。

未知の世界が広がる海の中

つないだバトンが一つの成果に

──2021年には、日本財団と環境省の共同事業「海ごみゼロアワード2021」(※2)で日本財団賞を受賞されています。どう受け止められていますか。

田中さん 非常にありがたく感じています。

実はこの受賞、オーシャンファミリーが3世代にわたって取り組んできた活動を評価いただいたものなんです。

それは20年以上前、海野とモイヤー博士の主催する三宅島サマースクールへ参加したある子どもの原体験から始まります。

その子は「サマースクールでの体験が人生の軸になった」そう話し、大人になった今でもスタッフとして現場の指導に入ってくれています。

さらに思いは受け継がれ、そのスタッフがサポートした子どもが、活動の学びを活かしてプラスチックごみの除去装置を考案・特許を取得したのです。

「海ごみゼロアワード2021」受賞時の様子

「海ごみゼロアワード2021」では、一つのバトンを次の世代へ、また次の世代へと渡してきた当法人の姿勢を評価いただきました

私たちにとっても、取り組みの意義や方向性を再確認する機会になったと感じています。

※2 海洋ごみ対策に関して全国から優れたモデルとなるような取り組みを募集・選定する事業

まずは海に来てほしい!

──美しい海を守っていくために、私たちが今日からできることはありますか?

田中さん 「ぜひ一度、海へ行ってみてください!」とお伝えしたいです。

例えばニュースで海難事故を見ると、どうしても「海は怖い場所」という認識が大きくなってしまいますよね。

もちろん、誰もが事故を起こす可能性がある海の世界では、注意するポイントもたくさんあります。

ですが、実際に海を目の前にすると、やっぱり胸が高鳴る。波打ち際に足を踏み入れたくなる衝動は、大人も子どもも同じです。

そういう人の本能的な部分を引き出してくれる大きな器が、海にはあるのだと思います。

実際に海へ足を運べば、そこで暮らす生き物や、その環境にも目がいくでしょう。それが発見や学びの第一歩になれば嬉しいですね。

新しい発見に溢れた海の世界を、ぜひ!

──海に限らず、都会にも自然を感じられる場所はたくさんあります。

田中さん そうですね。ぜひ、身近にある自然にも目を向けてみてください。そこにはたくさんの不思議が隠れています。

自然から受ける刺激は、日々を彩ります。

日々の中で少しだけアンテナを張って、自然が織りなす世界に目を向けてみてもらいたいです。

──これからのオーシャンファミリーについても教えてください。

田中さん 「自然が先生」であることを忘れず、また自然や生物に「ローインパクトな関わり」を続けていきたいと考えています。

私たちは活動の中で解説をしたり、何かを教える場面が多くあります。

ですが、活動の「先生」はあくまで自然そのもの。私たちの役目は、その場所へ皆さんを誘うことだと思っています。

自然から得る発見が何より大きな答えになる――これからも、その姿勢は持ち続けていきたいですね。

また食器用洗剤をできるだけ使わないことや、海の生き物に配慮した観察を行うなど、誰もが今日から変えていける小さなアクションもあるということも伝えていきたいと思っています。

1日の終わり、美しい夕焼けをバックにハイチーズ!

4月には代表の交代があり、新体制がスタートしました。コロナ禍で数年間ストップしていた三宅島サマースクールも、今年の夏から再開します。

これまで大切にしてきた姿勢・思いを引き継ぎながら、新しい価値観を取り入れ、より一層活動を深めていきたいと思います。

認定NPO法人オーシャンファミリー

主な事務所

〒240-0116
神奈川県三浦郡葉山町下山口1741

この記事の執筆者

三宅 菜穂

制作会社でライターとして働いた後、個人事業主として独立。各業界でのインタビュー経験を活かし、取材ライターとして活動中。

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