岡山県の西南部に位置する井原市の観光スポットは、国産デニム発祥の井原、山水の自然に恵まれる芳井、夜に空を見上げれば満天の星々を眺められる美星があります。
特に市を流れる小田川沿いの「井原堤」は、桜の季節(3月後半~4月上旬)になると例年「井原桜まつり」を開催。800本のソメイヨシノは、幻想的な美しさで訪れた人々を楽しませています。
今回は、井原市観光協会の多賀大祐さんに井原市の観光の魅力について話をうかがいました。
井原市観光協会
多賀 大祐さん
小田川という自然の恵みで井原市は形成
──まず岡山県井原市の概略からお願いします。
多賀大祐さん(以下、多賀さん)井原市は岡山県の西南部に位置し、西側の隣接する地方自治体は広島県の福山市です。
高梁川支流の小田川は、地域の南部を西から東へ流れ、その流域の平野部に市街地があります。
旧井原市、近隣の芳井町、美星町の1市2町が2005年(平成17年)3月1日に合併し、現行の井原市となりました。人口は約3万8000人です。
特産品は高品質なデニム、果物ではピオーネやシャインマスカットなどのブドウ類、太くて香りのよいゴボウ、美星町では豚肉加工も行っています。
──歴史的偉人については、どのような方がいらっしゃいますか。
多賀さん 近代彫刻界の巨匠・平櫛田中(ひらくし でんちゅう)先生の出身地だったり、弓の名手・那須与一のゆかりの地でもあります。そして戦国の幕を開けた北条早雲は、青年時代を高越城で過ごしました。
また、2024年度上期をめどに発行される新1万円札の肖像画となる渋沢栄一にもゆかりがありました。
※▽をタップすると、詳細を確認できます。
- 平櫛田中
写実的な作風で、高村光雲、荻原碌山、朝倉文夫などと並び近代日本を代表する彫刻家の一人。107歳で亡くなった時点では男性長寿日本一の人物で、死の直前まで創作を続けた。
- 那須与一
『平家物語』に記される、平家の女官が掲げた扇の的を射抜く話が非常に有名。その手柄により、得た荘園のうちの1つが備中荏原荘(現・井原市)。
井原市西江原町には那須与一の供養墓がある。ここで願い事をすると、与一が扇の的を一度で当てた話にあやかり、必ずかなうとされる。また、井原市は与一の影響で弓道が盛んな地域でもある。
- 北条早雲
最近では備中伊勢氏の出身、備中荏原荘(現井原市)で青年時代を過ごし、応仁の乱に参加している説が有力となった。そのため早雲には備中荏原荘からの家臣団も多い。
その後、姉が今川義忠に嫁いだ関係で、駿河国に入り、今川氏の跡目争いを解決する。さらに伊豆の討ち入りを果たし戦国大名として今川氏から独立する。
- 渋沢栄一
日本資本主義の父。第一国立銀行(現・みずほ銀行)、東京商法会議所(現・東京商工会議所)、東京証券取引所といった多種多様な会社や経済団体の設立・経営に関わる。
栄一は、一橋家の家臣時代、1865年(慶応元年)春、農兵を集めるため、一橋の領地であった備中国西江原村(現岡山県井原市)を訪れる。農兵募集で成功をおさめ、徳川15代将軍慶喜から認められるなど井原市は栄一が世に出るきっかけの場と言える。
──戦国時代の幕開けを行った北条早雲をはじめとする「北条五代」を、次の大河ドラマへと待望する声があるようです。
多賀さん 五代百年にわたり関東を治めた北条氏とゆかりのある井原市を含む12市2町の行政や観光協会が連携し、「北条五代観光推進協議会」が活動しています。
北条氏ゆかりの地として歴史や文化を広く全国に紹介し、地域の活性化を図っています。その中で「北条五代」を大河ドラマの実現に向け署名活動をしています。
井原堤、800本のソメイヨシノで幻想的な景観
──次におすすめの観光地ではどのような場所がありますか。
多賀さん 水との関係でいえば、先ほど説明した小田川沿いの「井原堤」は桜の名所として市民の憩いの場になっています。
この井原堤には桜並木が約2km、その間約800本のソメイヨシノが植えられており、桜の季節になると一斉に咲き誇り、桜のトンネルができあがります。
口コミで「季節になると桜がとてもきれいだ」との評判が広がり、春になると近隣の道路が渋滞するほどたくさんの方が訪れ、花見を楽しまれるのです。
川の水面に映る桜とのコントラストはとても美しい。期間中は、夜になるとぼんぼりを灯し、灯が夜の川面に映りこみ、より幻想的な雰囲気を味わえます。
美星町は「星空保護区®」(コミュニティ部門)にて、アジア初の認定
多賀さん 次におすすめの観光地は、市内の美星町です。
美星町は、とても美しい星が見える地域です。見上げれば自然に星が見える地域でした。
町内外からの意見で、星を中心にした町おこしにかじを切り、光害防止条例などを制定してきました。
こうした努力も実り、ダークスカイ・インターナショナルから星空版の世界遺産といわれる「星空保護区®」の「コミュニティ部門」に、井原市美星町がアジアで初めて認定されたのです。
美星町にある美星天文台には、101cmの望遠鏡があります。これは一般に公開している天文台の中でも、非常に大きい望遠鏡です。
また平櫛田中美術館は、2023年4月18日にリニューアルオープンをしました。
平櫛田中の代表作で、東京の国立劇場ロビーに常設展示されている「鏡獅子」(かがみじし)(1958年作・2.32m)が20年ぶりの2024年2月に平櫛田中美術館に帰ってきます。
それにより井原市での見どころが増えるものと期待しています。
内装にデニムを使用した宿泊施設も
──井原市には見どころが多いですね。宿泊施設はいかがでしょうか。
多賀さん 宿泊施設では2つご紹介します。
犬養毅29代内閣総理大臣も宿泊された歴史的料亭旅館「山岡舞鶴楼」を改装し、2020年にホテルとオーベルジュとして「IBARA DENIM HOTELS 舞鶴楼」と名前を変え、リニューアルオープン。
実は、井原市は国産デニム発祥の地ですので、内装にはデニム製の椅子やソファーを使用しているんです。
次に美星町には、「星空ペンション コメット」という宿泊施設があります。標高約400mの高原にあり、満天の星々が旅の疲れを癒し、ワーケーションも可能。そのため、Wi-Fiの施設も整備しています。
「星空ペンション コメット」は井原市で整備をし、指定管理者が運営されているペンションです。
※ワーケーション・・・「WORK(仕事)」と「VACATION(休暇)」を組み合わせた造語。休暇先で仕事(リモートワーク)を行うことを指す。
リモートワークでは、オフィス以外の自宅やカフェなどを利用して仕事をするが、ワーケーションは旅行先や帰省先で仕事をするという違いがある。
今でも国内デニムの9割は備後地域で生産
──さて井原市といえばデニムが有名ですが、このあたりはいかがですか。
多賀さん 井原市を含めた備後地域※は、昔から国産デニムの一大生産地。今でも国産デニムの約9割は、備後地域で生産されています。
歴史的経緯では、綿花栽培が盛んで藍染織物も多く生産されてきました。明治時代に入ると、自動織機が普及し機織りの機械が次々と進化。
「備中小倉織」(びっちゅうこくらおり)※が国産デニムの原型で、後の国産デニムへと発展していきます。
※備後地域・・・旧国名備後から由来する。広島県三原市・尾道市・福山市・府中市・世羅町・神石高原町と岡山県笠岡市・井原市の6市2町を指す。
※備中小倉・・・同ブランド名で厚地藍染綿織物の大量生産が実現。学生や作業服の服地に使用され、その製品は海外へも進出する。「裏白」と呼ばれる表面が藍色、裏面が白色(生成)の厚地織物があり、これが国産デニムの原型となる。
参考元:井原市観光協会「デニム」
井原デニムの原動力は良質な水だった
──備後地域で藍染織物が発展した理由はどこにあったのでしょうか。
多賀さん 染め物には綺麗な水が欠かせません。
綺麗な水が流れる小田川流域は、藍染織物に適した地域です。
隣接する矢掛町(やかげちょう)は旧山陽道が走り、江戸時代には本陣※が置かれていました。南に目を向けると、港町がある笠岡市(かさおかし)があり、物流の要衝の地です。
一方井原市は、交通の便も良く、商人や職人も集まっていた場所。
藍染織物の生産が盛んになり、物流の利便性も高いことから、全国で備中小倉のブランドが知られ、その後のデニムの普及に大きな原動力にもなりました。
※本陣・・・江戸時代以降の宿場で、身分が高い者が泊まった建物。
大名、旗本らが利用した。宿役人の問屋や村役人の名主などの居宅が指定されることが多い。
天神峡など水にかかわる自然が豊富
──話は変わりますが、芳井町の天神峡などの自然も豊富ですね。
多賀さん 天神峡は、芳井町の小田川にある渓谷で、高梁川上流県立自然公園の一部です。
山に囲まれているので、春には山桜やツツジ、夏には川遊び、11月には紅葉、冬には雪景色と、四季ごとに彩りを味わえる景勝地です。
夏の川遊びは多くの方で賑わいますね。2年前に近隣に駐車場を拡張整備しましたが、それでもお盆の時期には満車になるほど多くの方が訪れる場所です。
今の時期(11月中旬)には、「紅葉の色はいかがですか」の問い合わせは大変多くなっています。
他にも、美星町にある詩人・西条八十の命名した「白糸の滝」など、小田川や高梁川水系が数多く流れているので、水にまつわる自然豊かな地域といえます。
井原市が丼原市宣言!?
──次は井原市のグルメについてのご紹介をお願いします。
多賀さん 特定の食材ではないのですが、今井原市がシティプロモーションの一環として展開している取組を紹介します。
井原市を食で盛り上げるプロジェクト「いばら×(かけ)ごはん」では、市民の方を中心に、多くの方に関わってもらいながら井原と言えば「コレ!」という食の共通認識を生み出す取組を進めています。
その一環として井原市は2023年11月10日から「丼原市キャンペーン」を開始。
キャンペーンに参加する市内22店舗が、井原市の食材を3つ以上使用したオリジナル丼ぶりを開発して提供中です。
オリジナル丼ぶりをオーダーして、#丼原市をつけてInstagramに投稿すると、抽選で21名様に井原市特産の豪華賞品をプレゼントします。
ハッシュタグイベントは、2023年11月10日(金)~2024年1月31日(水)までです。本イベント終了後も様々な企画を実施予定ですので、ぜひ井原市にお越しいただいて様々な丼ぶりを食べてお楽しみください。
渋沢栄一にゆかりがあり、文豪の谷崎潤一郎が愛した酒蔵
──先ほどの質問にかかわりますが、特産品やお土産品はいかがですか。
多賀さん 井原鉄道の井原駅構内に井原デニムストアがあり、そこでデニム製品がご購入できます。市内にも何店舗かデニム専門店があり、購入だけでなく加工体験もできます。
ミシンを使った本格的な縫製体験から、ものづくりの楽しさを気軽に味わえる体験まで、様々なメニューを用意。オリジナルの自分だけのトートバッグやポーチ、さらにはデニムの生地を使った時計も作れます。
体験に加えてご自身のお土産にもなるので、ご好評を頂いております。
また、地酒では芳井町の山成酒造株式会社という、井原市唯一の酒蔵があります。江戸時代後期の文化元年創業で200年以上の歴史を持ち、日本酒「蘭の誉」などを製造・販売されています。
酒米(さかまい)を蒸す際に欠かせない、理想的な「乾燥蒸気」を発生させる本格和釜を使用している点が特徴です。
寒さが厳しい時期にお酒を造る「寒仕込み」により、丁寧に造られています。
また井原市はブドウの産地で、市内には産直施設「葡萄浪漫館」があります。
ブドウの季節(8~10月)になると県外ナンバーが多く往来され、私が見た中には「静岡ナンバー」の車もありました。
品質が良く品種も豊富なので、県内外問わず多くの方がブドウをお求めにいらしています。
一方、芳井町はゴボウの産地です。粘土質の赤土畑で古くから野菜を栽培していました。
一般のゴボウと比べると太いですが、繊維のきめ細かさや香りの良さ、日持ちの良さなどが優れています。11月から1月上旬が旬ですね。
さらに、天体観察の好適地として有名な美星町。町内は養豚も盛んで、町内にあるJA施設で加工した精肉やハム・ソーセージなどを「美星満天豚(びせいまんてんぶた)」と命名。
厳選されたエサを与えられた豚が満天の星を見てストレスなく過ごしたため、味も大変美味です。
民間の活力を活用した観光振興へ
──今後の貴協会の動向はいかがですか。
多賀さん 観光を語る上で、コロナ禍は大きな影響がありました。コロナが明けて観光も回復しましたが、新しい形での観光振興が進展していると思います。
井原市役所の職員が井原市観光協会の業務を兼ねていますが、これまでの行政主導から、今後は民間の活力や可能性をもっと活用するべきと考えています。コロナ禍ではサプライズ花火が全国的に話題になりましたが、これこそ民間の活力で実施された好例と言えます。
地域の方々のお力を借りながら、観光振興につなげることが肝要です。
しかし、井原市だけで観光を完結させるには、観光資源がそこまで多くありません。
今後は近隣市町と連携しながら、広域で観光振興を進めていきたいですね。観光地域づくり法人(DMO)の設立も視野に入れながら、より力を入れたいです。
※DMO・・・地域の「稼ぐ力」を引き出すとともに地域への誇りと愛着を醸成する地域経営の視点に立った観光地域づくりの司令塔として、多様な関係者と協同。
明確なコンセプトに基づいた観光地域づくりを実現するための戦略を策定するとともに、戦略を着実に実施するための調整機能を備えた法人。
参考元:国土交通省観光庁
井原市観光協会
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