日本酒とともに、日本の文化の輸出に意欲を燃やす八戸酒造・駒井社長

青森県の八戸市 (はちのへし)で「陸奥八仙」「陸奥男山」のブランドを展開する八戸酒造株式会社。

最近ではお酒の品質を向上し、2021年には酒蔵の格付けを決める「世界酒蔵ランキング」で1位を獲得。国内外のブランドのブラッシュアップに成功しています。

駒井庄三郎代表取締役社長(八代目蔵元)は日本酒と日本文化の輸出に意欲を燃やしています。

今回は、駒井社長に八戸酒造の歴史や魅力、今後意欲的に展開する内容について話をうかがいました。

八戸酒造株式会社

駒井 庄三郎さん

代表取締役社長

南部杜氏の技術確立には近江商人の活躍があった

八戸酒造株式会社専務取締役・駒井秀介氏(左)と、
代表取締役であり第8代目蔵元の駒井庄三郎氏(中央)、杜氏・駒井伸介氏(右)

──八戸酒造の発祥からうかがいたいです。

駒井 庄三郎社長(以下、駒井社長) 私の先祖は近江国(現・滋賀県)の高島市の出身です。

現在の青森県東部から秋田県北東部の地域を治めていた南部藩は、豊臣秀吉の天下統一時に青森県の三戸(さんのへ)に城を構えていました。

その後、岩手県の盛岡市に城を作る許可を数年かけて得て、城下町となりました。近江商人※の一部は滋賀県から引っ越して商売を始め、御用商人になったのです。私どもの先祖もそのうちの一人で、近江から盛岡市に移住し商人として活躍しました。

江戸中期には、創業者である初代駒井庄三郎が盛岡の大店(おおだな)※に丁稚奉公に入り、頭角を現し番頭までに至りました。

その後のれん分けをし、今の青森県の剣吉で商売を始めたのが1775年(安永4年)です。ただし、以前と同様に大店の八戸支店にも仕えるのが独立の条件で、それが4代まで続きました。1888年(明治21年)に大店が瓦解し、本当の意味で独立を果たしました。

八戸酒造裏側の新井田川沿い

──お酒造りはどのようにして南部藩に広めていったのですか。

駒井社長 南部藩の御用商人は、近江からお酒造りの技術を持ってきました。京都伏見など、関西はお酒造りが盛んな地域です。

お酒造りでは杜氏※の養成が大切です。南部杜氏※は日本三大杜氏の一つですが、村井権兵衛や小野善助らの近江商人の活躍があったからこそ誕生したのです。

初代駒井庄三郎はその流れを汲み、駒井家の屋号※を近江屋と名乗っているのも元々の先祖が近江商人に由来するものです。

用語解説
  • 近江商人
    中世から近代にかけて活動した近江国出身の商人。大坂商人、伊勢商人と並ぶ日本三大商人の一つ。
  • 大店
    江戸時代には店の間口が10間を超えると一般に大店と呼ばれた。
  • 杜氏
    お酒造りの最高責任者で、杜氏の下で働く蔵人(くらびと)を管理・監督する。
  • 南部杜氏
    杜氏集団の中でも越後杜氏、南部杜氏、丹波杜氏の3つは「三大杜氏」と呼ばれており、全国の酒蔵で活躍している。
  • 屋号
    それぞれの屋敷につけられた呼び名。遠い昔から祖先が伝え残したものとして、意義深い。駒井家の先祖は近江国であるため、近江屋の屋号を持つ。

山林や田んぼを保有し、水や国土保全に貢献する

田んぼなど自然環境を守ることで綺麗な水に恵まれる

──南部杜氏誕生の影に近江商人の活躍があったのですね。それでは日本酒における水の役割についてはどうお考えですか。

駒井社長 日本は外国と比較して良質な水に恵まれています。理由は、山林が国土の8割を占めているからです。空から降った雨を山が保水し、のちに地下に流れ地下水を形成します。

林業もいろいろと機械が進化し、林業に携わる女性「林業女子」も誕生しています。

林業の担い手確保で困難な面はありますが、若年層には高い意識を抱いてもらって、林業にも関心を寄せて欲しいですね。

日本の水や国土を守っていくためには、山林を伐採し植林するというリサイクルをしなければなりません。SDGs(持続可能な開発目標)に通じますが、お酒造りを行う者として自然環境を守り、寄与することが重要です。

水の次に大切なことはお米です。田んぼは自然のサイクルの一つ。山林に加え、水田の維持が大切です。

自社でも田んぼを保有し作付けしています。さらに地元の農家と契約し、お酒造りに活用する田んぼを増やしています。稲作ではなるべく農薬は使用しない方針です。

私は酒造業を営む者として山林や田んぼを維持するべきと考え、それを実践しています。

八戸の蟹沢名水を使用し、高い評価を受ける

麹の手入れ作業

──それでは八戸酒造はどのようなお水を使用されているのでしょうか。

駒井社長 八戸市には八戸平原があり、何億年前の古生代の岩盤層を形成しています。

山から地層をくぐり水が流れ、蟹沢水源という所に水が湧き出ています。八戸酒造のお酒はその水を使用しています。

ミネラル分が多く、八戸市では「蟹沢の名水」として有名です。

メインブランドに成長した「八仙」に注目が集まる

「陸奥八仙」はようやく一人前になったと語る駒井社長

──今や、「陸奥八仙」はメインブランドに成長されました。その誕生から経緯を教えていただけますか。

駒井社長 昭和19年企業整備令により、三戸郡の酒造家が企業合同したその会社から分離独立の為に訴訟を起こした時に立ち上げた銘柄が「陸奥八仙」です。

八仙の由来は、中国の古い故事にお酒をこよなく愛した8人の仙人の物語があります。その8人の仙人に肖り(あやかり)、お酒を楽しんでいただきたいとの思いで命名致しました。

できたお酒は及第点でしたが、知名度はありません。そこで全国各地の酒販店を訪問しながら徐々に広め、酒造りも酒造技術の先生のお力を借りながら、皆さんに認められる味になり評価されつつあります。

誕生してから26年が経ちますが、「陸奥八仙」もようやく一人前になったとの思いがあります。

「陸奥男山」が「男山」で初の商標登録だった

──次に創業ブランドの「陸奥男山」について教えて頂けますか。

駒井社長 「陸奥男山」は古くから造っています。「男山」の商標登録は、明治に入ってから可能になりましたが、八戸酒造の「陸奥男山」が第1号です。

最初は「男山」での商標登録を目指しました。

しかし国の商標登録担当者からは、「男山」は全国で造られているため慣用商標※である説明を受けたのです。

その説明を受け、1910年(明治43年)に五代目駒井庄三郎が「男山」の前に「陸奥」を入れて商標登録しました。当時、「男山」が付く最初で唯一の商標でした。

※慣用商標・・・同業者間において一般的に使用されるに至った結果、区別が出来なくなった商標を指す。「男山」以外では「正宗」の商標の登録が拒絶された。

酒と食のペアリングの基準の制定を

──「陸奥男山」と「陸奥八仙」にはどのような違いがありますか。

駒井社長 「陸奥八仙」と「陸奥男山」は、原料と製造方法に違いがあります。

「陸奥男山」は辛口タイプで、「陸奥八仙」は香りが華やかでお食事を食べながら楽しめます。

食前でも飲めますし、お酒そのものも楽しめるのです。「陸奥八仙」ではいろんなバリエーションのお酒を造っています。

「陸奥八仙」ではいろんなバリエーションを楽しめる

──今のお話で食中酒としての日本酒の位置を考えることが大切だと思いました。

駒井社長 食中酒としての日本酒はより研究すべきテーマです。肉を中心とした脂っこい料理、スパイスのきいた料理と、世界の料理は多種多様です。

日本食はそれほど濃い味付けではありません。日本食には日本酒が合います。

「この料理にはこのお酒が合う」など、ペアリングの基準を制定したいですね。

「世界酒蔵ランキング」で1位に

──世界的にはさまざまな品評会に応募され、評価を受けていますが。

駒井社長 おかげさまで、2021年には酒蔵の格付けを決める「世界酒蔵ランキング」で1位になるなど、さまざまな賞を受賞しました。

ただし私は、賞を受賞するためにお酒を造っているのではありません。お客様が「美味しいな」と笑顔を寄せていただくことが大前提です。

ロンドン、パリ、アメリカの品評会に応募し、評価されたことが少しずつ広まっています。

工業製品ではありませんから、毎年受賞できるとは限りません。お酒は同じものを造ったとしても、微生物を発酵させて出来上がった商品ですから、その年ごとによって他の酒蔵が評価されることもあります。私は品評会でもそれほど1位、2位にこだわりません。

日本酒の中にはマーケティングの上手さ、有名人が評価されたことによりブランド化に成功した事例はあります。私はその手法を採用せず、お客様にとって分かりやすい評価・基準を示していきたいと思っています。

この八戸酒造は発展途上でようやく酒造業として一人前になったとの思いがあり、さらなる進化を目指しています。

今日本酒で必要なことは、味のタイプを分類し、消費者にアピールすることが大切です。その味の標準基準が日本酒業界にできていませんので、私はそれをやりたいと考えています。

日本酒はまだ本格的なブームとは言えない

八戸酒造社員集合写真

──今、世界的に日本酒がブームといわれています。これをどう捉えていますか。

駒井社長 私は日本酒がブームと考えていません。たまたま日本酒を飲んでみて美味しいという評価が高まった段階です。

ブームとは黙っていても海外のお客様が日本酒を求めることですが、現状はそうなっていません。

確かに以前よりは日本酒を飲む方が増えました。やはり市場を見つつ地道なマーケティングが必要です。

世界に向け、日本酒と関連文化を輸出したい

蔵開き

──駒井社長が今後、挑戦されたいことはどのような点がありますか。

駒井社長 日本酒に興味を持ってくれるようないろんな場づくり、チャンスを広げたい。そのため八戸酒造の酒蔵を常に開放し、酒蔵に関心を抱いて頂く機会をつくっています。

もともと一般的に、酒蔵は入りにくいイメージがあります。その垣根を低くし、酒蔵に親しみをもってもらい多くの方々に来て欲しい。一般の方々との交流を深めるイベント、試飲会などを開き人の輪を広めていきたいですね。

さらに日本の伝統文化、たとえば舞踊、着物、芸能に必ず日本酒と関りを持たせる仕掛けを行いたい。地方にはさまざまな民俗芸能が残っていますが、その保存と伝承のため私は大いに協力をし、皆さんに日本酒を飲んでいただく機会を設けています。

日本酒は米を活用した発酵商品です。米があるから日本酒も生まれました。神代の時代から、神事として神社が日本酒を造ってきました。

時代が移り、民間の商売としてお酒造りを開始したのが酒造業界の始まりです。日本酒は日本文化の最大の特徴といえるでしょう。

日本は残念ながら少子高齢化で人口も減少しています。そこで日本酒の市場が縮小しているので、海外にマーケットを求めなくてはなりません。

国も日本酒を海外への輸出品として協力にバックアップしています。国策として日本酒とかかわる食文化、伝統文化を一体で海外に広めることが重要です。それが日本の良さを広めることに通じるのです。

そこで国との提携が重要になってきます。日本酒が世界に打って出るには世界戦略を国策として検討すべきです。

八戸酒造株式会社

所在地::〒031−0812 青森県八戸市大字湊町字本町9番地
TEL: 0178−33−1171
FAX:0178−34−1174
代表者名:代表取締役社長 駒井 庄三郎(八代目 蔵元)
製造銘柄:陸奥男山、陸奥八仙

この記事の執筆者

長井 雄一朗

建設業界30年間勤務後、セミリタイアで退職し、個人事業主として独立。 フリーライターとして建設・経済・働き方改革などについて執筆し、 現在インタビューライターで活動中。

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