兵庫県北部に位置する豊岡市は、市内を流れる円山川を起点に発展してきました。
今回は、国の天然記念物として指定されている「玄武洞」、鉱物や化石、豊岡の工芸品でもある「豊岡杞柳細工」など、豊岡市の歴史と伝統を発信する「玄武洞ミュージアム」の魅力をスタッフの安達大翔 さんに伺いました。
公益財団法人 玄武洞ミュージアム
安達 大翔さん
地球の不思議が学べる!「玄武洞ミュージアム」
──まずは、「玄武洞ミュージアム」の特徴と魅力はどんなところか教えてください。
安達大翔 さん(以下、安達さん) 「玄武洞ミュージアム」は、兵庫県の北部、豊岡市にあります。館長が世界中から集めた鉱物※や宝石、奇石、化石を約2,500点以上展示している博物館です。玄武洞や地域の地質・岩石、珍しい鉱物、そして生命の歴史をたどれる化石などを展示しています。かんたんに言うと、「地球の不思議」を体感できる施設です。
※鉱物とは
自然界に存在する多くの物質のうち「地質作用で生じる、一定の化学組成と結晶構造を持つ物質」のこと。自然現象でできた成分を化学式で表せる、結晶質の固体のこと。参考:東京大学物性研究所 沖縄県立博物館・美術館
──改めてお聞きしたいのですが、「玄武洞」とはどんな場所なのでしょうか。
安達さん 円山川の東岸にある壮大な岩壁です。約160万年前の火山活動で、流れ出たマグマが冷え固まって、玄武岩※の溶岩の厚い層ができたと言われています。
そのとき、柱状節理と呼ばれる六角形の規則的な割れ目が自然に作り出されました。この六角形の形からカメとヘビの姿を持つ中国の神獣「玄武」が連想され、「玄武洞」と名付けられました。さらに「玄武洞」から石の名前も玄武岩と名付けられました。
「玄武洞」の玄武岩は、最初から六角形に割れていて使いやすく、岩の割れ目がわかりやすかったこと、形や大きさが整っていたものが多く比較的切り出しやすかったことから、「玄武洞」は有名な石山として知られ、採石によって洞となりました。
地球科学の分野でも世界的に有名な場所で、松山基範(まつやまもとのり)博士※によって、地球の磁石の向きが時代により南北入れ替わるという「地磁気の逆転」が世界で初めて発見されています。
また、特徴的な岩壁だったこともあって、「玄武洞」は江戸時代の頃から観光地として、すでに知られていたんですよ。
1931年には国の天然記念物に指定されて、2022年には世界の地質遺産100選にも選ばれた場所です。
※玄武岩とは火山岩の一種で、ケイ酸(シリカ;SiO2)の濃度が53重量%に達しないもの。暗灰色または黒色。火山岩のなかでは最も多量に存在する。名前は兵庫県の「玄武洞」に由来している。
参考:別府地球温泉博物館 Weblio辞書
※松山基範(まつやまもとのり)博士(1884年10月25日 – 1958年1月27日)
日本の地球物理学者・古地磁気学者で、京都大学名誉教授。兵庫県の玄武洞ほか東アジア各地の岩石の残留磁化を測定し、1929年に地球磁場の反転説を世界で初めて唱えた。
参考:Weblio辞書
──「玄武洞ミュージアム」では、日々どんな活動をされていますか。
安達さん 鉱物や化石に関する資料の収集や保管、展示、そして調査や研究、教育といった博物館としての活動を行っています。不定期ですが、ワークショップや地質を学ぶ屋外イベントなどを開催して、「地学」のおもしろさを発信していますね。
あとは、この地域の伝統的工芸品でもある「豊岡杞柳細工」についても資料を集めたり、発信したりしています。
スタッフさんがおすすめしたい「玄武洞ミュージアム」の見どころ
──「玄武洞ミュージアム」の歴史を教えてください。
安達さん 1972年に開館。2018年にリニューアルしまして、現在の「玄武洞ミュージアム」となりました。
──「玄武洞ミュージアム」に来たら絶対に観てほしいものは何ですか。
安達さん 当然ですが、「玄武洞」は外せません。
館内の展示だと、「光る石の万華鏡」がおすすめです。ブラックライトを当てると光るんですよ。写真撮影OKなので、ぜひ「光る石の万華鏡」の映えショットを撮影していただきたいですね。
他には、触ると音が鳴る「カンカン石」やくねくね曲がる「こんにゃく石」、美味しそうなお肉に見える「豚肉石」などがあります。見るだけではなく、触れる石があるところも見どころです。
当館長のおすすめは、アメリカでも話題になった美しいグリーンが目を引く、「アマゾナイト」。こちらは大きな結晶で、見ごたえがありますよ。
──化石や恐竜の骨格も見られるそうですね。
安達さん はい、全長7.6mの大きなゾウ「ステゴドン」や「ティラノサウルス」の全身骨格の展示をしています。
このあたりの山陰海岸でゾウの足跡がたくさん発見されたこともあって、歯や足跡などの化石が展示されています。全長7.6mともなると、巨大なので、迫力がありますよね。
──それは大迫力ですね。先ほど、ワークショップのお話しをされていましたが、ワークショップもミュージアムの見どころのひとつだと思います。印象に残っているワークショップはありますか。
安達さん 印象に残っているワークショップというと、天然石から絵の具を作るワークショップですね。
──天然石から絵の具をどのようにして作るのでしょうか?
安達さん 日本画の絵の具は岩絵具といって天然の鉱物できているものもあるんですよ。「藍銅鉱」や「孔雀石」などの天然石を砕いて粉状にしたものを使用しています。天然石を砕いて岩絵具を作り、絵を描いてみようというワークショップでした。楽しかったですね。
運がよければ、コウノトリに会える?渡し船と遊覧船
このあたりは、川沿いで湿地だったこともあって、水上交通がさかんでした。「玄武洞」で採れた石を合理的に運ぶために円山川を使っていたんですよ。昔は玄武洞へ行く道も整備されていなくて、主な交通手段は「船」。
渡し船自体は昔からありましたが、庶民の足として、JR山陰本線「玄武洞駅」開設に合わせ1911年から本格的に始まりました。当時は屋形船も運航するほど賑わっていたそうです。周辺の道路整備が進み1970年に「玄武洞駅」が無人駅になると、段々と利用者が減っていきました。
その後一度は完全になくなってしまった渡し船ですが、現在は「玄武洞ミュージアム」が運営を引き継いでいます。
──渡し船の魅力を教えていただけますか。
安達さん 渡し船は、JR「玄武洞」駅・全但バス停留所「玄武洞」と、円山川をはさんで対岸にある「玄武洞」・「玄武洞ミュージアム」を結んでいます。
円山川や「玄武洞」の景色を見ながら、約7分のクルーズが楽しめます。四季折々の美しい自然を感じられるところが魅力ですね。
──遊覧船もありますよね。遊覧船と渡し船の違いはどんな点ですか。
安達さん 渡し船はその名の通り、円山川両岸を結ぶ船で、駅とミュージアムをつないでいます。遊覧船は、「玄武洞ミュージアム」の目の前を流れる円山川を10分ほど、船頭によるガイド付きでご案内します。
運がよければ、豊岡市を象徴する鳥でもある「コウノトリ」が、空を飛ぶ姿やエサを探している姿も見られるかもしれません。実は、「玄武洞ミュージアム」のスタッフが船頭兼ガイドをしています。
──スタッフさんが船頭をしているとは驚きました。スタッフさんだから知る「玄武洞」や円山川の魅力も解説してくれそうですね。
安達さん そうですね。「玄武洞」や石のこと、この地域の地質や歴史、化石だけでなくミュージアムの魅力なども合わせてご案内しています。鳥好きスタッフや石好きスタッフなど、それぞれの得意分野があって楽しめますよ。
豊富な体験プログラム「化石・宝石発掘」が大人気!
──「玄武洞ミュージアム」では、体験プログラムが豊富ですね。どんな体験プログラムがあるか、教えていただけますか。
安達さん 体験プログラムは、化石や宝石の発掘、誕生石キーホルダー作りなどがあります。円山川とも深い関わりがある伝統的工芸品「豊岡杞柳細工」のかご編み体験もありますよ。
お子様から大人まで楽しめる化石や宝石の発掘が人気ですね。「化石の発掘」は想像通り、ハンマーとタガネでたたいて土のなかから化石を探します。「宝石の発掘」も同じように行います。
──「化石の発掘体験」が楽しそうです。化石はかんたんに発見できるんですか?
安達さん コツがわかればすぐに発見できますよ。お子様にも扱いやすい軽いハンマーを使っているので、ハンマーでたたくことができれば、どんな方でも発掘できます。
何が出るかはお楽しみで、発掘した化石は持ち帰りOKとなっています。アンモナイトやコハク、サメの歯など、本物の化石が3個くらい出ますね。
──石や化石のミュージアムとはちょっと離れている印象がある「豊岡杞柳細工」が、なぜ体験プログラムに入っているのですか?
安達さん このあたりは、円山川を起点に栄えてきました。「豊岡杞柳細工」は、元々円山川に自生していた柳(コリヤナギ)で、かごを編んだことが始まり。豊かな地質があってこそ生まれた、豊岡の宝です。有名な「豊岡鞄」のルーツでもあります。地元で大切にしてきた歴史や伝統的工芸品の素晴らしさも伝えたいという思いで体験プログラムに入っています。
かご編み体験では籐と柳(コリヤナギ)を使って、「コースター」や「ミニかご」、「かごカップ」や大きなみかんかごなど、様々なかごを作れますよ。
地産地消を意識したメニューを提供するカフェ&レストラン
──館内にはカフェとレストランが併設されています。おすすめのメニューはどんなものでしょうか。
安達さん イチオシは但馬牛100%のハンバーグを使った「玄武洞バーガー」。地元のブランド牛、但馬牛のお肉からビーフの脂のうまみを感じられますよ。
デザート系なら、玄武洞カステラを使った「ミニパフェ」。柱状節理のように2段、3段と積み重なった「スフレパンケーキ」がおすすめです。豊岡市のゆるキャラでもある「玄さん」の顔がラテアートとして描かれた、「玄さんカフェラテ」も人気ですね。
──安達さんが個人的におすすめしたいメニューはありますか。
安達さん カステラでしょうか。実は、館内にある菓子工房で作っているんです。材料は地元のものを多く使っています。添加物が入っていない、自然な甘味を感じられるので、カステラはぜひ食べていただきたいですね。
学ぶ機会が減っている「地学」の魅力を発信したい
──「玄武洞ミュージアム」は、どんな場所でありたいと思っていますか?
安達さん 中学や高校で、「地学」を学ぶ機会は減っています。理系のなかでも物理や化学を選択できる学校は多いのですが、「地学」自体が選択肢になかったり、受験科目になかったりして、選ばれなくなっている印象です。
「地学」はとても身近な学問で、知っていると災害への備えに役立つこともあります。子どもから大人まで、「地学」に興味を持ってもらえるような場所でありたいです。
──最後に今後の展望を聞かせていただけますか。
安達さん 「玄武洞ミュージアム」では、「玄武洞」だけでなく、鉱物や化石の魅力と地球の不思議を発信していきたいと考えています。より多くの方に「地学」を身近に感じていただけたら、うれしいですね。
学校などでも、触れる機会が減っている「地学」を当館の展示や体験プログラムなどを通じて、興味をもってもらえるような機会をたくさん提供していきたいですね。
公益財団法人 玄武洞ミュージアム
〒668-0801 兵庫県豊岡市赤石1362
TEL:0796-23-3821
FAX:0796-24-0913