「当たり前の日常」から防災意識向上を|STAYERホールディングスが目指す、命を守るものづくり

山と海に囲まれた日本で暮らす私たちにとって、切っても切り離せないのが自然災害の脅威です。

地震、台風、津波、洪水──いずれの災害においても、日本は世界的にリスクの高い地域となっています。

いつ起きるか分からない自然災害と、どのように向き合っていけるのか。

今回は家庭用電気製品と防災用品の製造・販売を行う株式会社STAYERホールディングスに取材を実施。

営業部の清水伸俊さんに、防災のヒントとものづくりに対するこだわりを伺いました。

株式会社STAYERホールディングス

清水  伸俊さん

執行役員 営業部 部長

被災者の声が開発のきっかけに

──まずはSTAYERホールディングスの歩みを教えていただけますか?

清水伸俊さん(以下、清水さん) 私たちSTAYERグループは2000年に事業をスタートしました。

その後、2014年にSTAYERホールディングスを設立。以降、家電製品やAV用品(※1)の企画・開発からアフターサービスまでを一貫して行っています。

※1 Audio Visual(オーディオ・ビジュアル)の略。テレビのように映像と音声を兼ね備えたものや、その周辺の機器を指す。

──現在では防災用品も主力製品になっているとか。特に「マグネ充電器」はメディアでも度々紹介され注目を浴びています。開発のきっかけを教えてください。

清水さん きっかけは、東日本大震災で被災された方との出会いでした。直接話を伺う機会があったのですが、当時は何日も停電状態が続き、照明やスマートフォンが使えず、不安な時間を過ごしたそうです。

知り合いの安否確認を取ろうとしても、停電の影響で思うように充電機器が使えず、心配が募るばかりだったと……。

そこで強く感じたのが、災害時には電力源の確保が急務になるということです。

特に災害発生直後には、安否確認や避難所・救援物資などさまざまな情報の取得が、命を守ることへも直結します。

情報を受け取るために必要なスマートフォン等のデバイスは、今や生活に欠かせないライフラインになっていますよね。

しかしこれらは、電力源なしでは使うことができません。電気が使えない環境で充電環境を作り出せないかと頭を捻らせ、浮かび上がったのが「マグネ充電器」の構想でした。

──アイデアのヒントはどこにあったのでしょうか。

もともと弊社では、塩水とマグネシウムの化学反応を利用した照明器具を販売していました。この技術を充電器に応用できないかと考えたのです。

また自宅や避難所等では、灯りの有無によってその場の不安感も全く異なると伺いました。そうした生の声から、照明器具と充電器を一つにできないかとイメージを膨らませていきましたね。

こうして「災害時に必要とされる機能」を考え抜き、生まれたのが「マグネ充電器」でした。

水と塩だけで発電する「新しい充電器」

清水さん 「マグネ充電器」は、塩水とマグネシウムの化学反応を利用して発電するLEDランタン型の発電機です。

付属の塩と水を入れるだけでスマートフォンの充電ができるほか、照明の役割も果たします。

10回分のスマホ充電のほか、照明器具としても96時間以上点灯可能(いずれも付属のマグネシウム棒4本使用時)。

──「マグネ充電器」は2018年の発売以来、累計で3万5千台以上の出荷実績を上げています。ユーザーに選ばれる理由をどう考えますか?

清水さん まずは「身近にあるもの」で発電できる点が、ユニークな特長になっています。

災害時に使用される防災用品は使い捨てのものも多い。しかしこの「マグネ充電器」は、交換用のマグネシウム棒に加え、水と塩さえあればおよそ数十回以上の再利用が可能です。

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さらに未開封の場合には、10年以上の保存ができるというのも選んでいただいている理由です。

企業や自治体では、長期間にわたって防災用品を備蓄されているところが多く見受けられます。

しかし電子部品に内蔵されるリチウムイオン電池や乾電池は、日を追うごとに劣化してしまう。これが課題でした。

バッテリーの保存性が短いと、いざ災害が起きた時に使えない、ということにもなりかねません。

これを防ぐため、「マグネ充電器」では各部品を真空パックに保存。空気に触れない環境を作ることで、長期保存を可能にしています。

真空パックで長期保管による自然放電や液漏れを防ぐ

デザイン性と機能性を両立

──本体のデザインにもこだわっているとか。

清水さん はい。白を基調としたデザインを取り入れたことで、リビング等の生活空間に置いても違和感が出ないようにしています。

また円形の筒のような形状にもこだわりました。

実はもともと、立方体の角張った形を想定していたのです。しかしそれでは、持ち運ぶ際に手で持ちづらくなってしまう。

そこで携帯しやすく、リュックサックのサイドポケットにもすんなり収まるような、ペットボトル型の形状へとたどり着きました。

さらに繰り返し使うことを想定して、上部に塩の量が計測できるくぼみを設置。手元に計量器具等がなくても、簡単に塩の適量を計ることができます。

本体上部のくぼみに塩を入れ、指で擦り切れば必要分が計測可能。視覚的にも使いやすい設計に。

──「実際の災害シーンで使えるもの」を追求して完成した商品なのですね。

清水さん こうしたデザイン面・機能面の工夫が認められ、2018年に「GOOD DESIGN賞」(※2)を、2021年には「おもてなしセレクション」(※3)金賞を受賞することができました。

※2 公益財団法人日本デザイン振興会が1998年から実施する、日本で唯一の総合的なデザイン評価・推奨の仕組み。

※3 日本の優れた“おもてなし心”あふれる商品・サービスを発掘し、世界に広めることを目的に、2015年に創設されたアワード。

──開発時に苦労されたことは?

清水さん コンパクトな形状を保ったまま、十分な電力を確保することです。

照明器具と比較すると、スマートフォンの充電には多くの電力を使用します。

持ち運びができるコンパクトなつくりを維持しながら、電圧・電流を保つ……小さい入れ物の中で試行錯誤を繰り返しました。

約2年の開発期間は決して短くなかったですが、完成品ではタンク内の部屋を2つに分割し、小型ながらもスマートフォンが充電できる発電機能を保つことができました。

幅広いシーンで“困ったときの味方”にしてほしい

──ユーザーから寄せられる反響を教えてください。

場所も取らないし説明書も難しくないので、家に置いておくだけで安心できます

身近にある物で電気が作れるのは安心です

(Amazon カスタマーレビューより抜粋)

清水さん 上記のように「持っているだけで安心できる」という声は、やはり多くいただいていますね。

また非常時だけでなく、キャンプや釣りなどのアウトドアシーンでご使用いただいている方も。

実は「マグネ充電器」は、塩水だけでなく雨水や海水、スポーツドリンク、さらに尿でも発電できます。(※4)外出先で急な災害等が起きた時にも、強い味方になるはずです。

「もしも」の時のために持ち歩いているのは、言い換えれば「これがあれば安心」と思える存在になっているということ。私たちとしても嬉しく思います。

※4 塩水を使用する場合より発電能力は低下します。

本体には吊り下げや持ち運びに便利な取っ手や、テーブル上・テント内で使えるライトを装備。

さらにIPX6(※5)等級の防水仕様となっているため、天候や場所に影響を受けることなくご使用いただけます。

※5 国際電気標準会議で決められた製品の保護性能を示す防水規格。IPX6は、全方位からの強い暴噴水から保護できるレベルを表す。

強い雨にも耐える防水仕様

──昨今では豪雨や台風などの自然災害も増えており、幅広いシーンで使用できるのは大きな安心感があります。「マグネ充電器」の使用に欠かせないのが水分ですが、水資源の保全についてはどうお考えでしょうか。

清水さん 弊社でも日々の産業活動で多くの水を使用しています。一方で、水質汚染等の問題は深刻化しています。

水の使用量を抑えることはもちろんですが、製造ラインでの余剰水の再利用や浄水処理の仕組みづくり等、水の効率的な利用方法を模索していきたいですね。

また「マグネ充電器」のように、海水等の自然物を活用できる商品を世の中に広げていくことも、それ自体が水のリサイクルにつながると考えています。

──その他の商品についてはいかがでしょうか。
清水さん 昨年販売を開始した「5インチ 防水 フルセグ・ワンセグテレビ」は、「マグネ充電器」と同様に災害シーンを見込んだ工夫が施されています。

例えば、防水性能。こちらもIPX6等級の高い防水力を備えており、日常だけでなく豪雨等の災害時にも安心してご使用いただけます。

また内蔵されているリチウムイオン電池によって、約8時間の連続使用も可能。「マグネ充電器」と併用すれば、さらに長時間お使いいただけます。

フルセグ機能で、災害発生時の字幕テロップも読み取りやすい

シリーズ累計出荷総量6万台を超える「手回し充電式ラジオライト」も、昨年新たにリニューアルしました。

本体に内蔵しているバッテリー容量を従来品の4倍に増量し、ラジオ視聴だけでなく、スマホ等への充電やLEDライトとしても使用することができます。

手回し充電のほか、本体に付属しているソーラーパネルでの発電も。

「毎日使える」ものこそ、いざという時に命を守る

──独自のものづくりで躍進を続けているSTAYERホールディングスですが、今後はどのような取り組みを目指されますか。

清水さん 「フェーズフリー」(※6)の考えをベースに商品開発を進めてまいります。

日頃から防災用品を用意していても、いざという時に押し入れの中から引っ張り出せない・使い方が分からない、では意味を成しません。

そのため、災害時に限らず普段から使えて、もしもの時にも役立つ商品の開発を意識して活動しています。

※6 日常と非日常を2つの時間(=フェーズ)と捉え、その制約を取り払う考え方。身の回りにあるモノやサービスを誰にでも使いやすい仕様にし、日常だけでなく、非日常にも役立てることを目指す。

日本は災害大国と言われています。大きな災害が発生するたびに、防災意識が高まりますが、時間と共に少しずつ薄れてしまう……そんな心当たりは、誰にでもあるのではないでしょうか。

だからこそ、毎日の生活で使える防災用品を生み出し、非常時に素早く・安心して使っていただくことが大切だと考えています。

「企画会議では、年次を問わず意見が交わされます。風通しの良い組織風土が弊社の強みです」と清水さん。

「マグネ充電器」のような防災用品では、直感的に使用方法が分かる設計や、老若男女を問わず受け入れやすいユニバーサルデザインを採用するよう心がけています。

「アイデア商品」と一言で括ってしまうこともできますが、私たちが大事にしているのは、単に先鋭的な発想を取り入れるのではなく、それが“命を守る”アイテムであることを常に意識して製品づくりを行なうこと。

機能性やデザイン……商品開発に関わる全てがこの考え方に基づいています。

弊社の商品を日常生活に取り入れていただくことで、みなさまの防災意識向上へ貢献したい。ものづくりを通して広く社会に貢献していきたいと考えています。

株式会社STAYERホールディングス

〒102-0093 東京都千代田区平河町1-3-6 BIZMARKS麴町2F 

TEL:03-5315-4809

この記事の執筆者

三宅 菜穂

制作会社でライターとして働いた後、個人事業主として独立。各業界でのインタビュー経験を活かし、取材ライターとして活動中。

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