次の世代に美しいふるさとを|瀬戸内オリーブ基金が目指す瀬戸内エリアの再生

瀬戸内オリーブ基金は、有害産業廃棄物の不法投棄事件「豊島事件」をきっかけに、2000年に設立されたNPO法人です。

瀬戸内エリアの美しい自然環境を守ること、そして豊島事件によって失われた自然を再生することを目的に活動を続けてきました。

今回は、瀬戸内オリーブ基金の事務局 塩川さんに、「ゆたかな海プロジェクト」など同団体の活動内容についてお話をお伺いしました。

瀬戸内オリーブ基金

塩川 ゆうりさん

事務局

「豊島事件」のような事件を二度と起こさないために

野焼きで黒煙が立ち上る豊島 (提供:廃棄物対策豊島住民会議)

──まずは、瀬戸内オリーブ基金様を立ち上げられた経緯とこれまでの歩みをお伺いできますか?

塩川ゆうりさん(以下、塩川さん)  瀬戸内オリーブ基金が立ち上げられたきっかけは、当時日本最大規模といわれた有害産業廃棄物の不法投棄事件「豊島事件」です。公害調停が成立した2000年に、豊島事件弁護団長の中坊公平氏と建築家の安藤忠雄氏の呼びかけで設立されました。

瀬戸内オリーブ基金の「オリーブ」は、「豊島事件のような環境破壊や人権侵害を二度と起こさない」という決意を込めて、全国の人々やギリシャ大使館などの支援を得て、豊島の住民たちがオリーブを植えたことからきています。

──主に、どのような活動をされているのでしょうか? 

塩川さん 私たちは設立以来、「豊島事件のような事件を起こさない」「瀬戸内海の自然をより美しく保全する」ということを目的に活動してきました。

2001年から開始した「瀬戸内海エリアの環境保全活動に対する資金助成」もその1つで、総助成金額は約3億1千万円、助成件数は468件になりました(2023年3月時点)。

助成先団体「フォレスター松寿」

例えば、私たちが支援している「フォレスター松寿」は、六甲山系グリーンベルト整備事業の「森の世話人」として活動しています。

具体的には、神戸市森林整備事務所と連携しながら登山道の整備作業や清掃活動を行ったり、14年間で約1,250本の植樹をしたりといった活動です。

毎年3月の植樹会では植樹体験をはじめ、活動地を案内して自然観察会を開き、参加者らが自然に親しめるような提案も実施されています。

「フォレスター松寿」活動の様子

私たち自身は、主に「豊島事件継承プロジェクト」、「ゆたかなふるさと100年プロジェクト」、「ゆたかな海プロジェクト」、「オリーブ栽培」に取り組んでいます。

「豊島事件継承プロジェクト」については、最近「すぐにわかる豊島事件」という解説動画をYouTubeで公開いたしました。

──「ゆたかなふるさと100年プロジェクト」と「ゆたかな海プロジェクト」は、どのような違いがあるのでしょうか?

塩川さん 「ゆたかなふるさと100年プロジェクト」は、主に豊島の陸地の自然を回復させるための活動です。

一方で「ゆたかな海プロジェクト」は、瀬戸内海一帯が対象になります。ゆたかな海プロジェクトの範囲が広いのは、内海という特性上、排出したごみは瀬戸内海全体の問題になるためです。

地域の人や法人サポーターと協力してごみ拾い活動

──具体的な活動内容についてもお伺いしていきます。はじめに、「ゆたかな海プロジェクト」について教えてください。

塩川さん ゆたかな海プロジェクトは、日本財団の助成を受け「海と日本プロジェクト」の関連事業としてオリーブ基金が実施しており、「海ごみに関する勉強会」と「ごみ拾い」の大きく2つの活動があります。

海ごみに関する勉強会では、2020年から合計4回、「オリーブフォーラム」を開催しています。

オリーブフォーラムの様子

2022年度は、海ごみの専門家 元大阪商業大学准教授(現同志社大学・准教授)・原田禎夫先生と、ブログ「プラなし生活」の古賀陽子さんによるトークショーと、京都大学のエコサークル「エコ~るど京大」さんによるかばんの中のプラスチックを調査するワークショップを、高松で実施。

子どもから大人までの30名の参加者が、自分の身近なところにあるプラスチックに気づく「きっかけづくり」ができました。

オリーブフォーラムの様子

──続いて、「ゆたかな海プロジェクト」のごみ拾い活動の内容をお伺いできますか?

塩川さん 地域の方との活動としては、楽しみながらごみを拾う「スポーツGOMI拾い(スポGOMI)」を瀬戸内海各所で行っています。

スポーツGOMI拾い

「海のごみ」と聞くと、海岸清掃を思い浮かべる方が多いかもしれません。

しかし実は、海ごみの7~8割は陸地からのごみなんです。ですから、瀬戸内海各所の海岸だけでなく、海の近くの土地を含めたいろいろな場所で開催していますね。

2022年度は、香川県・愛媛県の3市町村で地域の団体と協力して開催し、計6回441人が参加する大きなイベントになりました。

その他、4月22日に開催された豊島EARTH DAYイベントでも、豊島の海岸を清掃する「ゴミ拾いwalk」を主催しました。参加人数は14名と小規模でしたが、豊島の保育園生や関東からの観光客の方にも気軽に参加していただきました。

豊島EARTH DAYイベント
豊島EARTH DAYの「ゴミ拾いwalk」

──地域の方だけでなく、法人サポーター様ともごみ拾い活動をされているとお聞きしました。

塩川さん 瀬戸内オリーブ基金では、「法人サポーター」のボランティア受け入れを行っています。

直近の2023年5月には、豊島の漁港・産廃処分地近くの浜・海流の関係からごみが多い浜の3か所を清掃しました。

ボランティアによる海岸清掃の様子

豊島は過疎化・高齢化の影響で、人口が750人弱にまで減っています。

さらに、豊島の浜辺に流れ着くごみは、豊島内のものだけでなく瀬戸内海各所から排出されたものも多いため、島民だけでは浜辺の清掃が追いつかない状況なんです。

ボランティアによる海岸清掃の様子

そこで、豊島の自然を守るための活動として、法人サポーターのボランティアと一緒に海岸清掃を実施しています。

長い時間をかけて「自然をゆっくり回復させる」ために

「ゆたかなふるさと100年プロジェクト」草刈りの様子

──ゆたかなふるさと100年プロジェクトには、「100年」とつけられていますが、どのような意味が込められているのでしょうか?

塩川さん かつて緑豊かな白砂青松の地だった瀬戸内海国立公園は、長期間にわたる海浜や土砂の採取・掘削により表土が失われたうえ、産業廃棄物の不法投棄によって植生がかく乱された状態になっています。

私たちは、これまで多くの住民や法人サポーター(ボランティア)の協力を得ながら、その場所をもとの状態に回復する取組みを続けてきました。そして今後も、長い時間をかけて自然海岸、自然の植生に変えていくために「ゆたかなふるさと100年プロジェクト」と名付けたんです。

──ゆたかなふるさと100年プロジェクトの、具体的な活動内容についてもお伺いできますか?

塩川さん 岡山大学大学院環境生命科学研究科教授 嶋 一徹氏に助言と指導をいただきながら、植生の多様性を取り戻す活動、外来植物を除去する活動を7年続けてきました。

「ゆたかなふるさと100年プロジェクト」ツツジの植栽
「ゆたかなふるさと100年プロジェクト」ツツジの植栽

具体的には、人の手で自然を造成するのではなく、「自然をゆっくり回復させる」ために、植生遷移の流れに沿って多種多様な種子を含んだ表土を撒いています。

さらに、風や鳥によって運ばれた種子が自然に発芽し定着できる環境の整備として草刈りなども行っています。

豊島のシンボルツリーであるオリーブの木600本を守る

──瀬戸内オリーブ基金さまの名前の由来である「オリーブ」の木の栽培も、続けていらっしゃるのですよね。

塩川さん そうですね。私たちのオリーブの木は、平和を願う住民の手によって植樹された「豊島のシンボルツリー」であり、豊島住民の決意と希望の象徴です。

瀬戸内オリーブ基金では、そんな600本のオリーブの木の管理を、2014年から住民の委託を受けて行ってきました。

 また、搾油したオリーブオイルから、食用オリーブオイルや洗顔石鹸、美容オイルなどを製造販売していて、豊島のお土産として観光客の皆さんにもご好評いただいております。

特に好評なのは、豊島の住民が一粒一粒手摘みで収穫し、24時間以内に搾油したエクストラバージンオリーブオイル、「豊島OLIVE」ですこれらの売り上げは、瀬戸内オリーブ基金の活動に充てています。

豊島OLIVE

──最後に、今後の展望を教えてください。

塩川さん 豊島事件を機に設立された私たちの展望は、豊島事件の意義と教訓を広く社会に伝え、豊島のような事件を二度と発生させないこと。そして豊島をはじめとする瀬戸内海エリアの環境保全と再生に取り組み、次の世代に美しいふるさとを引き継ぐことです。

これまでと同様、これからも、豊島事件の教訓を通じて、持続可能な社会を実現するための活動を続けていきたいと考えています。

NPO法人瀬戸内オリーブ基金

〒761-4661香川県小豆郡土庄町豊島家浦3837-4
TEL:0879-68-2911 
FAX:0879-68-2912

この記事の執筆者

朝野 めぐみ

会社員をしながら、取材ライターとしても活動中。環境問題やSDGsの取り組み、IT関連から不動産まで、幅広い分野にて取材・執筆をおこなっている。

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