身延町西嶋和紙の里は、この地に伝わる和紙づくりの伝統にふれられる施設として、1998年にオープンしました。
施設には、さまざまな展示物を見学できる「みすきふれあい館」、紙すき体験工房「漉屋なかとみ」、おみやげ処「紙屋なかとみ」、身延の郷土料理が味わえる「味菜庵」があります。いずれも身延町の魅力を示しています。
今回は、身延町西嶋和紙の里の職員・望月秀一さんに話をうかがいました。
身延町西嶋和紙の里
担当者 望月秀一さん
職員
アニメ・ドラマ『ゆるキャン△』で一躍有名になった身延町
──山梨県の身延町はどのような町でしょうか。
望月秀一さん(以下、望月さん) 身延町は、山梨県南巨摩郡の町で人口は約1.1万人。中央には、富士川が走り自然豊かな地域です。
日蓮宗の総本山である身延山久遠寺(みのぶさんくおんじ)が所在する門前町※として有名で、歴史的には宗教の聖地としての巡礼場所でもあります。
※門前町・・・有力な寺院・神社の周辺に形成された町を指します。
最近では、漫画やテレビアニメ・テレビドラマ『ゆるキャン△』でも有名になり、身延町としても『ゆるキャン△』のPRに積極的です。
ほかの観光としては、次のような見どころがあります。
甲斐黄金村・湯之奥金山(かいおうごんむら・ゆのおくきんざん)博物館は、「武田信玄の隠し金山」とも呼ばれた湯之奥金山に関連する資料などを展示しています。
展示内容は、映像シアター、金山衆の一日の仕事を表現したジオラマ、甲州金(こうしゅうきん)※や鉱山道具などの出土品、選鉱を行う作業員の原寸大人形などです。
※甲州金・・・戦国時代に武田氏の領国甲斐国などで流通されていた金貨です。
戦国時代最強の実力を誇った武田信玄の財政・軍事を支えたのが甲州金で、その内容を学べる博物館です。
この近隣には、有名な下部温泉(しもべおんせん)があります。この温泉にはさまざまな歴史的有名人が湯治に訪れています。
やや温めではありますが、疲労回復、外傷、火傷、リウマチ、腰の痛み、神経痛などに効能があるとされ、1200年の歴史を持っているのです。
史伝によれば、戦国時代の武田信玄の隠し湯※の一つでもありましたし、鎌倉時代の日蓮上人、後に天下人となった徳川家康も入浴したといわれています。
※隠し湯・・・土地の領主が独占的に利用した温泉を指します。武田信玄は、領地であった山梨県や長野県に多くの隠し湯を持ち、その中でも下部温泉は有名です。
武田信玄と上杉謙信は戦国時代のライバルで、長野県・川中島で5回戦ったことは有名です。その際、武田信玄は傷を負い、この隠し湯で傷をいやした逸話も残っています。
今回、新たな町営温泉施設「『武田信玄公かくし湯の里』ヘルシースパサンロードしもべの湯」がオープンしました。スポーツジムや観光案内所も併設しています。
次に、世界遺産富士山の西麓に位置する本栖湖は、周囲12.6km、面積4.7平方km、水深122mの湖で、富士五湖の中でも手付かずの自然を多く残しています。
北岸は富士の好展望地で、美しいエメラルドグリーンの湖畔から見る富士山は千円札の裏のデザインに採用されているのです。
次に季節は終わりましたが、身延町では「しだれ桜の里づくり事業」を進めています。
これは地元の身延高校生から、「町の中に、たくさんの満開のしだれ桜があったらすばらしい」との提案を受けて計画しました。
町の木「しだれ桜」を町一丸となって植えて、町のイメージアップとまちづくりに結び付けております。
3月末から4月初旬は、「しだれ桜」を町のあちらこちらで見ることができます。そして、夏にはホタル、秋には紅葉、冬にはイルミネーションとさまざまな楽しみ方があります。
さらには水も豊富な地域でもあります。身延町の中心を流れる富士川は、日本三大急流(最上川・球磨川・富士川)の一つで、悠久の時代から、人々の暮らしに恵みを与え続けてきました。
かつて江戸・明治時代には塩や米を運ぶ富士川舟運として物流の基幹となり、身延参詣も船を利用してたいへんにぎわいました。
2010年、その富士川で「ラフティングツアー」がスタートしました。急流をボートで下るスリルが評判となり、県内外から多くの方が訪れる人気スポットとなっています。
食材としては「あけぼの大豆」があります。明治時代から栽培されており、通常の大豆よりも大粒で糖度も高い極上の大豆として有名です。
そして最後に私どもが西嶋和紙の魅力を発信している「身延町西嶋和紙の里」を紹介いたします。
ここでは伝統の紙すき※を、誰でもできるようにアレンジした方法で手軽に楽しむことができます。また、地元のグルメ、日本中から集めた和紙を購入するショップもおススメです。
※紙すき・・・和紙をすくこと。
4つの施設があり、西嶋和紙と身延町の魅力を楽しみながら体感することができるようになっています。
武田信玄の命令で西嶋和紙が誕生
──この西嶋和紙の現代にいたる歴史について
望月さん 西嶋和紙は、戦国時代の1571年をはじまりとすると記録に残されています。
甲斐国(現・山梨県)を治めていた武田信玄の命令により、西嶋生まれの望月清兵衛が、現在の静岡県伊豆市の修善寺で和紙製法の修行を積み、その製法を持ち帰ったことが始まりです。
清兵衛が作った和紙は、みつまた※を主原料にした平滑で光沢のある毛筆に適した紙です。この紙を手にした武田信玄は大変喜び、清兵衛を紙役人に任命しました。
※みつまた・・・ジンチョウゲ科の落葉低木。古くから使われてきた和紙の三大原料の一つです。
その後、清兵衛は西嶋村民だけでなく、西嶋以南の富士川流域で暮らす人々に和紙の製法を教え広めました。
西嶋和紙は明治まで戦国時代とほぼ同じ道具で作られ、実用紙として利用されることになったのです。
時代は移り、明治から大正にかけては、紙の需要は手すき和紙から機械で大量に作られる洋紙へと変化しました。しかし、西嶋和紙は、西洋化の流れには進みませんでした。
あくまで、原料の加工や紙の乾燥のための道具を工夫しながら手すき※にこだわり続けたのです。
※手すき・・・機械によらずに、手で紙をすくことを意味します。
第二次大戦後は、それまでの半紙に変わり、さまざまな方の研究により、画仙紙(がせんし)※を完成させ、全国に先駆けて販売しました。
※画仙紙・・・書画に用いられる大判の用紙。色合いは白色のものが主です。
この画仙紙は、故紙や稲ワラなど、さまざまな材料を混ぜて製造しています。
また近年では、みつまたを使った和紙を復活させました。それを卒業証書やインテリア、文具用紙など、現代のライフスタイルに合わせた和紙づくりにも取組んでいます。
ご自身で卒業証書を作成される目的で身延町西嶋和紙の里に訪れる方もおります。
画仙紙を全国に先駆けて作ったことにより大きく発展をし、機械化を行い、現在にいたっています。
なお身延町には4つの紙すき工場があり、見学が可能です。
全国の書道家から圧倒的な支持
──西嶋和紙の魅力は。
望月さん 地元西嶋で収穫される原料の稲わらを独自の製法で和紙の原料に加工しているため、筆に適度な抵抗があり、作者が望むにじみを表現していると評価されています。
紙と墨は、想像を超えるほどの相性の良さを感じます。独特の柔らかさがあり、墨の発色がよく深みのある色合いが表現されているのです。
また美しいにじみと筆ざわりがよく、国内外の多くの書道家に支持されていることが大きいです。西嶋和紙は、書道業界に特化し全国的に書道用紙として使われ、愛好されております。
西嶋和紙では水も大切で、近くに富士川が流れ、大変豊富です。ほぼ水道水は使わず、地下水からくみ上げています。
富士川は生活用水であり、身延町にとっては欠かせない存在といえます。また、富士川から流れる伏流水を使って西嶋和紙を製作すると、仕上がりはまったく違います。
水道水はカルキが入っています。紙をすく際には、粘材を入れるのですが、このカルキと粘材が反応してしまうのです。紙すきにとってカルキは邪魔です。
ここの井戸水は、不純物がないので綺麗な紙が出来上がります。こうした自然水があるからこそ、西嶋和紙ができ上るのです。
ただ身延町の水道水は、甲府市などの山梨県中心部と比較するとカルキ臭が少ないです。料理をするときも、カルキ臭が少なく、おコメを炊くときも水による違いが生まれます。
身延町のお水でおコメを炊く方がおいしいです。
ただ今の悩みの種は、西嶋和紙の技術を次世代へとつなげていくため、後継者が必要です。
家族向け、恋人同士で紙すき体験
──ここからは、身延町西嶋和紙の里の施設内についてうかがいます。まず紙すき体験ができるそうですね。
望月さん 身延町西嶋和紙の里の中の施設の一つに、西嶋和紙をアレンジし、紙すき体験ができる「漉屋(すきや)なかとみ」があります。
和紙の原料をすき、絵を描き、葉っぱやカラフルな紙で彩って、独自の和紙グッズがつくれます。体験時間は、制作と乾燥の時間を合わせて60分~90分ほどで、時間はかかりません。
はじめての方でもカンタンにできるので、デートの思い出に、ご家族旅行の記念に、知人へのプレゼントにもぴったりといえます。
一度に120人まで体験できるスペースもあり、団体の方にもおススメです。
和紙の原料を木の枠に流し入れ、厚みを均一にします。どろどろした液体が和紙になることははじめの方にとっては、新鮮でしょう。
体験メニューは、「うちわすき」「灯りすき」「字すき」「凧すき」「タペストリーすき」「ブライダル ペーパーアイテム」などです。
取り扱う和紙の種類は2500に及ぶ
──「紙屋なかとみ」で取り扱われている商品は多様ですね。
望月さん 取り扱っている和紙の多さは、日本でも有数で2500種類です。
これだけ品揃えがある場所はそうそうありませんから、近県の東京や静岡、さらに東北からからも注文が舞い込んでいます。
スタッフの方は、「紙の博物館をめざしています」と言っております。ここは全国の和紙を手に取って選べるので、紙に伴うプロの方も利用されるとのことです。
ほかにも、西嶋和紙の特設コーナーや、ここでしか買えないオリジナルグッズもたくさんあります。
店内のディスプレイは季節ごとに変わります。そこでお客さまからは、「行くたびに新しいおみやげと出会えるのもうれしいです」との声があります。
──「みすきふれあい館」ではどのような内容が展示されていますか。
望月さん 美術作品をはじめ、さまざまなジャンルの展覧会を年5~6回開催します。
作家や団体による個展や各種イベントの会場として多目的に一般の方に利用可能となりました。
和紙に限らず、陶器や絵画も展示しています。おととし位から、貸し展示場になりましたので希望があれば誰でも展示できます。ジャンルは問いません。
甲州・身延町の地域料理を堪能
──次はグルメコーナーですが。
望月さん 郷土料理が味わえる「味菜庵」は、特産品のあけぼの大豆やゆば、竹炭など、地元の食材を使った手づくりの料理でもてなしてくれます。
おススメは、甲州名物の「おざら」や「のしいれ(ほうとう)」などがあります。
この「おざら」は、古くから伝わる、山梨県を代表する郷土料理の一つです。ほうとうに使用するより細めの冷やした麺を温かいしょうゆベースのつゆに入れて食べるのが一般的。
冷たい麺はのど越しがよく、特に夏場には夏バテ防止に効果があるとされ、よく地元で食べられています。これは身延町ではかなり有名です。しょうゆベースのつけだれで味は濃いめです。
また、ほうとうのことを身延町では、「のしいれ」と呼んでいます。
もちもちで、つるっとした食感の自家製手打ち麺は実においしいですよ。
また、生ゆばもオススメです。身延町の天然水と国産大豆のみでつくられた生ゆばは、地元のゆば工房のものを使用しています。
口どけなめらかな食感と、大豆の甘みが感じられる一品です。
地元では、販売施設「みのぶ ゆばの里」があり、それほど地域にゆばが愛されているのです。
また、平日限定にランチメニューもやっているので、お時間がある日に窓から見える山々の景色とともに地元の味をたっぷり味わってほしいです。
コロナ明けには、和紙の体験を楽しんでほしい
──これからの観光に伴う方向性は。
望月さん せっかくコロナ禍が明けましたから、訪日外国人を身延町に招くよう努力をしたいですね。
コロナ前は中国人が多く訪問されていました。特に紙すきの体験が好評でした。あの時は、お店によってただ立ち寄るということではなく、体験を目的にしていました。
今後どうなるか分かりませんが、中国人の関心が、買い物から体験へと移行していました。
日本人のほかの地域の方々、中国人も含めた多くの国の方々いらしていただくことを期待しています。
身延町西嶋和紙の里
〒409-3301 山梨県南巨摩郡身延町西嶋345
TEL:0556-20-4556
FAX:0556-20-4558
※火休館 ※紙漉き体験営業時間 9:00~17:00