鍾乳洞の地下水で作られたクラフトビールの魅力とは?玉泉洞の歴史は沖縄観光と共に

沖縄にある南都酒造所は、ハブ酒やクラフトビールを販売している酒造所です。運営会社である株式会社南都は、1971年の創業以来、沖縄を拠点に観光事業を展開。同社が運営する「おきなわワールド」は観光地として有名なので、耳にしたことがある方も多いのではないでしょうか。

南都酒造所の看板商品の1つであるクラフトビールは、おきなわワールド内にある玉泉洞(ぎょくせんどう)という鍾乳洞から得られた水を使用して作られます。水と深い関わりを持つ南都酒造所の酒造りにおけるこだわりについて、広報担当の中村明男さんにお話を伺いました。

南都酒造所 広報担当

中村 明男さん

観光客に人気のおきなわワールド

沖縄の観光事業の先駆けとなった玉泉洞

──御社は玉泉洞と深い関わりがあるのですね。

南都酒造所は、株式会社南都の1つの部署となります。弊社は1972年に、アメリカの統治下にあった沖縄において民間で初めての有料観光施設である「玉泉洞」(現在のおきなわワールド)を開業しました。

沖縄がアメリカの統治下にあった、1967年に愛媛大学学術探検部による最初の探検・調査が行われ、その後の継続調査により約5,000mにも及ぶ国内屈指の規模を誇る鍾乳洞ということが明らかになりました。

これを見た弊社の創業者が、「これは産業になるのではないか」と考え、観光鍾乳洞として開発しました。

──昔から玉泉洞と呼ばれていたのでしょうか。

昔は、地元の方から「ウワーガー」という名前で知られていました。玉泉洞は、沖縄県南部の玉城(タマグスク)という地域にあります。玉城の湧泉(ゆうせん)として地元で知られていた鍾乳洞であることと、宝石のように美しい鍾乳洞であることから、「宝玉(ほうぎょく)」の玉の文字をかりて、「玉泉洞」と名付けられました。

開園当時の1972年は沖縄が本土に復帰することが決まり、より豊かになるのではないかと希望に満ち溢れていた時代でもあります。

玉泉洞は1972年4月28日に開園し、その約2週間後の5月15日に沖縄が日本に祖国復帰。開園当時はドルで入場料を頂き、本土復帰を期に通貨が円に変わりました。

玉泉洞内のつらら石から滴り落ちる雫

──玉泉洞は沖縄の歴史と共にあるのですね。

そうですね。沖縄島南部地域は激戦地として知られています。第二次世界大戦が終わった後、沖縄には本土より遺族の方々などが慰霊旅行として訪れることも。

悲しい歴史のある地域ですが、輝くものもあるんだということをアピールすべく、玉泉洞の観光地化が進められました。

──沖縄の観光事業の先駆けとして、玉泉洞がオープンしたのですね。今は観光で訪れるイメージが強くなった沖縄ですが、悲しい歴史のイメージを払拭するのに苦労されたのではないでしょうか。

はい。創業メンバーが、全国の旅行会社を駆け巡ってPRしていたと聞いています。沖縄が本土復帰したことを受けて、国鉄(現JR)が沖縄のPRキャンペーンを実施。当時の創業者の熱意もあり、玉泉洞がキャンペーンポスターの題材として採用されました。

「帰ってきた沖縄」というキャッチフレーズのポスターを作り、全国4,000ヵ所に掲示。当時の時代背景を象徴する、素晴らしいプロモーションになったと聞いています。

玉泉洞に端を発する「おきなわワールド」は、今では沖縄県民であれば誰もが知る観光施設です。毎年100万人以上の方がいらっしゃるほど大きく成長しました。

玉泉洞の地下水で造られたクラフトビール

──南都酒造所のクラフトビールは、玉泉洞の地下水が使用されているようですね。

はい、そうなんです。南都酒造所がある南城市玉城は、名水100選にも選ばれた「垣花樋川(カキノハナヒージャー)」という川もあり、湧水の豊富な地域です。そこに位置する玉泉洞の地下100メートルから水をくみ上げ、その水でクラフトビールを作っています。

玉泉洞はサンゴ礁などの隆起にともなって形成された鍾乳洞。それにちなんで、「OKINAWA SANGO BEER」と名づけました。

玉泉洞の地下水で造られたOKINAWA SANGO BEER

──「OKINAWA SANGO BEER」は、どのような特徴があるクラフトビールでしょうか。

水は、ビールの9割を占める大切な素材です。30万年の月日が作り上げた玉泉洞の地下水は、カルシウムとミネラルが豊富な水として知られています。

玉泉洞は硬水ですが、それをクラフトビール仕様に変えて、しっかりとした味わいで飲みごたえがあるのが特徴です。

──本土では軟水がほとんどなので、日本で作られるビールとして硬水は珍しいですね。他に特色はありますか。

ビール酵母が生きている状態で充填されている状態を保つため、ろ過処理を一切していません。そのため、生きた酵母を使用しており要冷蔵商品となっています。ビール本来の味が楽しめるのが魅力ですよ。

麦芽100%と生きた酵母の旨味に加えて、ホップを贅沢に使用した高品質のビールになっています。職人が一本ずつ丁寧に作り上げているため、少量生産しています。

1本ずつ職人が丁寧にビールを充填している

南都酒造所のこだわりのお酒、ハブ酒造り

──南都酒造所は、ハブ酒の酒造所として有名だと思います。ハブ酒造りについても教えてください。

ハブ酒は地酒の泡盛にハブエキスを抽出したお酒です。沖縄の酒文化というのは、泡盛が主体になります。泡盛は蒸留酒であり、焼酎に分類されるお酒ですが、焼酎とは製法に大きな違いがあるんですよ。

泡盛の大半は、原料にタイ米を使用し、麹菌には黒麹菌を使用しています。黒麹菌は製造過程でクエン酸を大量に生成することで、気温の高い沖縄で泡盛のもろみを腐らせる雑菌から守ります。

──ハブ酒造りにおけるこだわりを教えてください。

我々は健康に気遣い、からだに優しいお酒を目指しています。ハブ酒自体も、滋養(※)豊富でからだに良いとされていますが、より研究を重ね、ナツメや秋ウコンなど13種類のハーブを配合した、ハーブ入りのハブ酒を作っています。ハーブは、身体を温める作用があるとされるものを厳選して使用していますよ。ハーブを入れることで、非常に飲みやすく薬膳酒のような味わいになっています。

※滋養:からだの栄養になるもの。

伝統的な赤瓦とシーサーが鎮座している南都酒造所の工場

あとハブ処理の段階で、完全な血抜き、臭腺除去、腸管摘出を徹底して行います。そうすることで、ハブ特有の臭いを抑えています。

これは豆知識ですが、ハブの毒であるタンパク質はアルコールで分解させるので、毒抜きなどの処理は不要なんですよ。

口を開けたハブが印象的なハーブ入りハブ酒

──泡盛は寝かせるほど美味しくなると言われていますね。玉泉洞は古酒蔵としても使用されているそうですが。

泡盛は3年経てば古酒という扱いになります。古酒は非常にまろやかで飲みやすいと言われていますよ。実は、第二次世界大戦前までは、沖縄には100年を超える古酒がたくさんありました。残念ながら、そのほとんどは戦争で無くなってしまいました。

玉泉洞は、年間平均21度と安定した気温が保たれるので、夏は涼しく冬は暖かい環境です。日の光も当たらず良い環境のため、古酒蔵としても使われています。

現在は、5年貯蔵のリキュール酒をお客様に販売していますが、将来は地酒の泡盛を寝かせて熟成させる古酒蔵として機能していければと考えています。

古酒蔵として利用されている玉泉洞

沖縄の自然に恩返しを。そして共に発展を目指して 

──サンゴの支援活動にも貢献しているとお聞きしました。

はい。風化した骨格サンゴを200度まで温めて焙煎した珈琲豆を使用し、泡盛ベースのリキュールということで販売し、売上の3.5%を沖縄県内のサンゴ再生支援金に活用しています。

コロナ禍前の2018年までは、ベビーサンゴの移植活動も行っていました。この活動はベビーサンゴの苗を作り、半年間水槽で成長させた後、専門の業者に引き渡し海に植え付けていただくというものです。

海水温が上がってしまうと、『白化現象』といってサンゴが白くなり死んでしまうんです。温暖化の影響で、白化現象は年々増加しています。

私たちは我々の観光事業を支えてくれている沖縄の自然に、何か恩返しをしたいという思いがあります。このような活動を継続しながら、我々も沖縄の自然と共に発展していきたいです。

地元小学生を招いて、枝状サンゴを土台に輪ゴムで結びつけるサンゴ苗の植え付け体験を実施

──最後に、おきなわワールドを訪れたいと考えている方々に一言お願いします。

旅先では、その土地の食べ物や飲み物を味わうのが一番だと思います。観光でおきなわワールド(南都酒造所)を訪れたお客様は、ここでビールやハブ酒を造っていることにびっくりされる方が多いです。

玉泉洞を創り上げた30万年という悠久の時に想いを馳せて沖縄の自然に触れ、ぜひ私たちのお酒と郷土料理とともに沖縄を堪能していただきたいですね。

南都酒造所
〒901-0616 沖縄県南城市玉城前川1367
TEL:0120-710-611 FAX:098-949-1333

営業時間:9:00~17:30

この記事の執筆者

横上 菜月

製薬関連企業で働きながら、旅と取材ライターをライフワークとして活動中。

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