創業1688年の老舗酒蔵はなぜ国内外問わず評価されるのかー伝統と革新の光武酒造場

佐賀県鹿島市にある肥前浜宿の酒蔵通りには、1688年(元禄元年)創業の老舗酒蔵・光武酒造場がある。

光武酒造場の酒造りの合言葉は「伝統の中からの革新

合言葉そのままに、昔からの酒造りの伝統を守りながらも、時代の流れに合わせて商品を改良しつづけている。

そうした酒造りはコンクールでも評価され、2021年には「Japanese GIN 赤鳥居 プレミアム」「Japanese GIN 赤鳥居 オリジナル」が「OMOTENASHIセレクション」金賞ダブル受賞、2020年には「手造り純米酒 光武」が「お酒屋さん グランプリ」金賞受賞。他にも、多くの賞を受賞している。

また、光武酒造場では、長崎県と佐賀県の県境に位置する多良山系の伏流水を中心にお酒を作り上げているという。

今回、合資会社光武酒造場の社長の光武博之さんに、商品の魅力や地域と一緒に発展したエピソードについてインタビューしました。

合資会社 光武酒造場

光武 博之さん

社長

佐賀藩の勅令を受け、酒造りを本格化

──御社の特徴について教えてください

光武博之さん(以下、光武さん) 佐賀県鹿島市の肥前浜宿にある、創業1688年の老舗酒蔵です。

企業理念では「酒造りは人づくり」を掲げています。

代表的な商品は、芋焼酎「魔界への誘い(いざない)」、手造り純米酒「光武」ですが、他にも麦焼酎、リキュール、スピリッツと、バリエーションに富んだ商品開発をしております。

「伝統の中からの革新」を合言葉に、伝統的な酒造りを守りながらも、時代とともに変化するお客様のニーズを的確にとらえ、一つひとつの商品の品質向上や新しい商品開発に日々努力をしています。

また、「幸せを歓びゆく(よびゆく)酒」をキャッチコピーに、幸せを歓び酒を醸す、その延長にちょっと贅沢な晩酌酒を目指しています。沢山の人々が幸せを感じられるような魅力的な商品づくりを心がけているのです。

──1688年の創業当時から酒造りをされていたのでしょうか。

光武さん 創業時は、酒造りだけでなく織物の染め事業なども行っていましたが、どちらかというと地元の庄屋(※)を行う方がメインでした。

※江戸時代、代官の指揮のもとで村の事務を統轄する者。今の村長にあたる。

清酒を本格的に作り始めたきっかけは、江戸時代の佐賀藩(通称:鍋島藩)の殿様から勅令を受けたことです。

当時、佐賀藩は米を長崎や福岡に向けて売っていたのですが、藩外からのお金を稼ぐため、酒造りができる庄屋などに酒造りの勅令を出しました。酒が米の何十倍の値段で売れることに目をつけたのですね。

肥前浜宿には、我々だけでなく他にも老舗の酒蔵があります。彼らも我々と同じように勅令を受けましたので、それぞれ一丸となって酒造りを本格的に始めました。

光武酒造場の代表的な商品

──代表的な商品について教えてください。

光武さん さまざまな商品がありますが、まずは先述した黒麹芋焼酎の「魔界への誘い」。口に含むと、黒麹特有の香りが広がり、甘くまろやかな味わいが楽しめる本格芋焼酎です。原料の芋は、でん粉の粒子が細かく舌触りがよい黄金千貫を使用しています。

通常、芋焼酎は白麹で作ることが一般的ですが、弊社の企画部が「みんなが白麹を使うなら、うちは黒麹を使おう」と開発しました。

泡盛は黒麹を原材料で使っているのですが、あのような甘みを想像していただけるとイメージしやすいのではないでしょうか。

インパクトのある名前だと思いますが(笑)、一般公募で決めたんですよ。福岡にある酒屋さんから、この名前で応募していただきました。

黒のイメージである「魔界」、甘くまろやかな味でスルスルと入っていくので、黒い世界に誘われつつ……といったイメージが気に入って、この名前に決めました。

次に代表的な商品といえば、清酒の「光武」。

清酒は色々種類がありますが、なかでも手造り純米酒が代表的な商品ですね。

手造り純米酒「光武」は弊社の商品全ての基本となっていて、この商品をベースとして、その他の商品開発を行っているほどです。

手造り純米酒「光武」は、麹米に山田錦を50%まで精米して使用し、掛米には佐賀県産米を50%まで精米して仕込んでいます。

麹造りも機械ではなく、箱麹と呼ばれる伝統的な方法で行い、純粋に米の旨みだけを味わえるように仕込んでいます。芳醇で豊か、旨みのある味わいと、フルーティーな芳香が楽しめる手造り純米酒です。

──コラボ商品も数多く出されていますね。

光武さん 2018年にデビルマン50周年を記念したコラボ商品『デビルマン 魔界への誘い』とコラボして大変好評だったため、第二弾に『キューティーハニー』とコラボをしたところ、こちらも大好評でした。それから『北斗の拳』や『シティーハンター』などのコラボ商品を製造し販売しています。

コラボ商品を作ったきっかけは、『デビルマン』のアニメの作画監督を務めた和田卓也さんが「コラボしませんか」と提案してくださったこと。和田さんは以前から「魔界への誘い」を愛飲していらしたそうなんです。

それから、和田さんが作画監督された作品とコラボさせていただいております。

──他にも「きまぐれドラゴン」という商品がありますね。

光武さん 「きまぐれドラゴン」は、光武酒造場の杜氏・吉田龍一氏が「今一番挑戦したい日本酒を醸す」をコンセプトに、年に一度だけ仕込むブランドです。

同一銘柄でも毎年酒質も個性も全く異なる味わいを作り出すので、ファンからは「今年はどういうお酒ができるか、いつも楽しみにしている」というお声もいただきます。

実は、私も毎年どんなお酒になるか、完成するまで知らないんですよ。企画段階で僅かに耳に入ってくるぐらいで(笑)。私自身も、毎年どんなお酒ができるか楽しみにしていますね。

吉田氏は師匠である中村清治杜氏の元で厳しい修行に耐えながら高い志を保ち、腕を磨いて頑張ってきました。

杜氏として腕もピカイチなので、信頼して任せています。

──多くの受賞歴があり、実力を感じます。

光武さん 2021年には、数多くの賞をいただきましたが、その中でもIWC(インターナショナル・ワイン・チャレンジ)で「特別本醸造 無濾過 雫しぼり」「大吟醸 光武」がダブル銀賞を受賞しました。

日本だけでなく海外からも評価をいただいたことは、とても感銘を受けました。

──光武酒造場のお酒はどこで販売されていますでしょうか。

光武さん 北海道から沖縄まで全国の酒屋さんや酒類問屋さん、コンビニやスーパー、百貨店等で販売しています。また、海外では16カ国に輸出しています。
また、オンラインショップ、直売所の「観光酒蔵肥前屋」でも販売しています。

多良山系の水を使った酒造り

──酒造りのこだわりについて教えてください。

光武さん 佐賀県と長崎県の県境に位置する多良岳山系の伏流水を中心に製品を造り上げています。

多良山系の森は「水源の森百選」にも指定されているほど美しく、伏流水も綺麗で美味しい弱軟水の名水です。

実は鹿島市の水道水は、この伏流水を使っているんですよ。地元の方は普段から美味しい水を飲んでいるので、お酒にも厳しいと思いますね。そのおかげで、我々の酒造りが鍛えられてきたのだと感じます。

酒造りでは水を一番大事に考えているので、多良山系の伏流水に合わせて酒米や酵母、麹などを決めていきます。

その中でも酵母選びはとても大切で、日本酒造りの要といって良いでしょう。

ただ、今後は今までのような作り方だけではなく、伝統的な手法をうまく使いつつその逆張りも考えていきたいと思っています。

──逆張りとは、どのような意味でしょうか。

光武さん 伝統的な日本酒は芳醇うま口が基本ですが、若い方たちや新しく日本酒にチャレンジされる方たちにとっては、最初は馴染みにくい甘さかもしれません。

これまでの日本酒とは違う、切れの良い、ちょっと酸味の高い味わいの方が、日本酒にチャレンジする方たちにとっては飲みやすいのではないかと考えています。

伝統も大事ですが、新しい日本酒にもチャレンジしていきたいですね。

時代の変化とともに、人々のお酒の楽しみ方も変わってきました。

以前は「お酒を楽しむことが中心で食事は酒のつまみ」だったスタイルが、今は「食事を楽しむために食中酒を買う」スタイルへ変わってきています。

また、女性もお酒を嗜む方が増え、海外の方達の日本酒ファンも年々増えていますね。

ヨーロッパの方やアジアの方が酒蔵にいらした時は、ごっそり購入されていきますよ(笑)

食事に合ったお酒や女性向けなどのお酒造りにも、より一層力を入れていきたいと考えています。

肥前浜宿の町とともに発展してきた光武酒造場

──肥前浜宿の蔵元直売所「観光酒蔵肥前屋」でお酒が飲めるそうですね。

光武さん 「観光酒蔵肥前屋」は、肥前浜宿の酒蔵通りにあります。

観光酒蔵として観光客に蔵の中を開放しており、お酒の試飲や有料の利き酒セットを楽しめる場となっています。お酒だけでなくフェアトレードコーヒーも用意していますので、お酒が飲めない方でも、お酒好きの方と一緒にお立ち寄りください。

ここでは、光武酒造場の日本酒と焼酎を販売しています。予約不要で酒蔵見学ができますよ。

国内はもちろん海外のお客様も、おもてなししております。

──肥前浜宿はどのような町でしょうか。

光武さん 肥前浜宿は浜川の河口に作られた在方町で、室町時代に町として成立し、江戸時代には港町や宿場町として栄えました。今でも白壁土蔵(しらかべどぞう)や茅葺町家(かやぶきまちや)などの伝統的な建物が並んでいる町です。

光武酒造場は、この肥前浜宿とともに生き続けてきました。町の発展があってこそ、酒蔵の発展もあると考えています。

これからも共に成長し、伝統と歴史を一緒に引き継いで後世に残していきたい。そして、町と共に豊かに幸せになっていくことが、弊社が変わらず望んでいることです。

──地域への取り組みについて教えてください。

光武さん 鹿島市を代表するイベント「鹿島酒蔵ツーリズム」に毎年参加しています。

「鹿島酒蔵ツーリズム」では鹿島の酒蔵を巡り、蔵人と触れ合い、我々が造る酒を味わえます。鹿島市にある6つの酒蔵を無料の巡回バスや徒歩でまわり、食や文化、歴史を全身で楽しめる旅のスタイルです。

「鹿島酒蔵ツーリズム」を始めた当初は、肥前浜宿の酒蔵通りにある3つの酒蔵だけで開催していました。年を経るごとに段々と増えていき、今では鹿島市にある6つの酒蔵と隣の嬉野市の3つの酒蔵も一緒に行っています。

鹿島市の人口は3万人ほどなのですが、このイベントでは2日間で10万人以上訪れます。

次回は、2024年3月23日(土)、24日(日)に開催予定です。

鹿島酒蔵ツーリズムの日程にあわせて、「肥前浜宿花と酒まつり」「かしま発酵まつり」「鹿島おまつり市」「嬉野温泉酒蔵まつり」も同時開催されます。

JR九州も臨時列車を出しますし、宿泊される観光客の方もたくさんいらっしゃいます。

ご興味のある方は、ぜひいらして楽しんでいただきたいです。

今後の展望について

──今後の展望について、教えてください。

光武さん 光武酒造場の社員だけでなく、販売に関わってくださる方、そして肥前浜宿の地元の方々から誇りに思ってもらえるような蔵元を目指し、これまで以上に頑張っていきたいと考えています。

そして、何より光武酒造場のお酒を飲んでいただいているお客様に、美味しく味わっていただき、一日の疲れを癒したり、楽しいひと時を過ごしたりしていただけるよう日々努力し続けたい。

会社としては、社員一人ひとりがひとりの人間として、光武酒造場の社員として成長していってもらいたいですね。そして、その成長を企業の製品や会社の成長に反映させてもらい、社会貢献へと繋げてもらいたいと考えております。

合資会社 光武酒造場の公式サイト『光武酒造場』では、伝統と革新から生まれたさまざまな日本酒が販売されています。ぜひご覧ください。

合資会社 光武酒造場
創業 元禄元年(1688年)
所在地 〒849-1322 佐賀県鹿島市浜町乙2421

この記事の執筆者

荒川 あい子

ライター。インタビュー記事やコーポレートメッセージなどの執筆を行う。趣味は旅行、映画鑑賞、読書(主に映画評論、SF小説)

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