家庭でも会社でも公園でも、人が過ごす場所に必ずある水道の蛇口。私たちの生活に身近な水栓バルブですが、岐阜県が出荷額ベースで全国1位と、業界の中心地だそうです。
その地に本社を置く「水生活製作所」は、戦後まもない1954年創業。蛇口のメッキ事業から出発し、今ではデザインを含む商品開発から、加工、研磨、メッキなど全工程を自社で完結しています。
日常生活の「あったらいいな」というニーズをキャッチし、数々の人気商品を生み出してきたからこそ、大きく発展してきました。
今回は成長の舞台裏について、開発部広報課の松下真美さん、井原彩笑さんにお話を伺います。
株式会社水生活製作所
担当者 松下真美さん
開発部広報課
株式会社水生活製作所
担当者 井原彩笑さん
開発部広報課
主力商品は蛇口から、お風呂やガーデニングの水回りに変化
——岐阜県山県市は「水栓バルブ発祥の地」とされています。なぜ、水栓バルブ製品の一大産地になったのですか?
松下真美さん(以下、松下さん) その歴史は1933年に始まったそうです。
岐阜県山県市出身の北村静男さんという方が、故郷に分工場を作ったことがきっかけです。
北村さんは名古屋で鋳造所を経営していた方。当時は養蚕や紙漉きが主産業だったようですが、村長が村おこしのために誘致したと伝えられています。
水栓関係の製造工程は、鋳造、鍛造、切削加工、研磨、メッキなど多岐に渡ります。そのため、親族や従業員が枝分かれし、それぞれの工程を分業するようになったことから地域産業として発展したようです。
——本社がある岐阜県山県市はどんなところですか?
松下さん 山に囲まれた自然豊かな場所です。市内には一級河川の武儀川が流れていて、製造工程の一部でもこの水を使います。
清流の恩恵を受けながら水栓バルブ製品を作っていると言えますね。
山県市には、水栓バルブの関連企業が約100社もあるんです。これだけの会社が集まったのは、東京や大阪の金物問屋に商品を輸送しやすいという地理的な要因があったのかもしれません。
——創業から約70年。業務の内容も、時代に合わせて変わってきたのでしょうか?
松下さん はい。ここ20年ほどの間に大きく変わってきました。
もともとは大手メーカーの請負の仕事をしていましたが、「水回りがもっと便利になる商品を自社発で展開したい」という思いから、約25年前に自社メーカー名で製造販売を開始。
2012年に「MIZSEI」というブランドロゴを新たに作って、本格的に自社ブランドの展開に踏み切ったんです。
商品ラインナップも変化してきました。以前は配管継手や蛇口などが中心でしたが、今は生活に身近なお風呂関係やガーデニングの水回り商品が主力です。
割とニッチなジャンルを攻めていると思いますが(笑)。
「お客さまの『あったらいいな』を形にすること」、「デザイン性と機能性を兼ね備えた商品を手頃な価格帯でお届けすること」が当社のモットーです。
——ほかの産業だと、工場の海外移転を進めた時期があったと思いますが、御社はどうでしたか?
松下さん 水栓バルブ業界ではオーダーメイドの対応も多くあります。職人技の世界なのです。
特に当社は、お客様のニーズに合わせて自社で金型から作り、鋳造、切削加工、研磨、鍍金というプロセスで製品を完成させます。つまり、当社のような国内メーカーへの需要が根強かったのですね。
塩素除去できる高機能シャワーヘッドや入浴料が人気
——お客様の声は、どういう形でキャッチしているのですか?
松下さん それは当社がもっとも大事にしている部分です!
一つ目は営業。商社のバイヤーさんとの情報交換がとても参考になります。
二つ目は商品に同梱しているアンケートへの返信。三つ目は、当社のお問い合わせ窓口に寄せられた声を参考に、常に「今」のニーズをリサーチしています。
近年、特に目立ったのが「お風呂用浄水器がほしい」という声でした。敏感肌・乾燥肌の方や小さなお子様がいる家庭の方にとって、「塩素のピリピリ感」や「お湯の安全性」が大きな悩みの一つだということがわかったのです。
それを解決できる浄水シャワーヘッドや塩素を除去できる入浴料シリーズが、今では当社の主力商品になっています。
——なるほど!時代の変化を感じますね。御社の浄水シャワーヘッドにはどのような特徴がありますか?
井原彩笑さん(以下、井原さん) 残留塩素を「天然素材の活性炭カートリッジ」を使って除去するタイプの浄水シャワーヘッドです。
「膜ろ過方式」といって、一定以上の大きさの不純物をカートリッジで取り除く方式を採用しています。水道水に含まれる臭いのもとまで除去できます。
市販商品には、ビタミンCや亜硫酸カルシウムなどを添加するものも多いです。
当社商品なら添加剤を一切使用しないので、特に敏感な方でも安心して使っていただけます。ここは1番こだわった部分でした。
とはいえ、カートリッジ交換でランニングコストや手間がかかるようではお客様にとって「使いやすい商品」とは言い難いですよね。そのため、カートリッジ交換時期を長くても1年に1回程度で済むようシャワーヘッドを開発しました。
——シャワーヘッドへの反響はいかがですか?
井原さん とても好評いただいており、ニーズの高まりを感じています。このごろは特に、保湿や毛穴の汚れまで落ちやすい「マイクロナノバブル」が発生するシャワーヘッドが人気です。
各社から高機能なシャワーヘッドが発売されていますが、当社が追求しているのは、高機能でありながらリーズナブルであること。
「ミストップ・リッチシャワー」という商品は、
- 直径0.1㎜以下の気泡が約9,600万個/mLも発生
- シャワー水流とミスト水流の切り替えができる
- 散水面が広くてたっぷり水流を楽しめて快適
- 高い節水効果
- グッドデザイン賞を受賞
など、優れた商品ながら1万円台でお求めいただけます。
この価格を実現できているのは、企画から製造まで全ての工程を自社で完結できる強みと、宣伝広告費に大きな予算をかけていないことによるものです。
お客さまから「ぜひほしい!」と要望いただいて、浄水機能とマイクロナノバブルを兼ね備えたシャワーヘッド「バブリージョワー」も発売。お客さまの理想に近づけるよう、常に開発・研究・改良を続けています。
お客様のニーズに合わせ、自社で次々と商品開発
——塩素を除去できる入浴剤も、自社で開発されたのですね。
井原さん はい。10年以上前になりますが、「塩素が入っていないお風呂に入りたい」というお客さまの声を受け、「浴槽用の浄水器」の開発を始めました。
ただ、約200Lもの風呂水をろ過する活性炭フィルターとなると、一般家庭にそぐわない大型のものになってしまいました。しかもコストもかなりかかってしまうため断念。
次に、開発担当は「マドラー状の浄水棒」というアイディアに挑みました。
ビタミンCを飴で棒状に固めた“浄水棒”で、くるくるお湯をかき混ぜる方法です。ビタミンCには塩素を除去する効果があるんですよ。
1年くらいかけて試作を重ね、会社周辺に住む方たちにモニターしてもらったのですが、ビタミンCが非常に溶けやすく、飴状のコーティングもベタベタすることから、この案も実現しませんでした。
——開発にそんな苦労があるとは驚きです!
井原さん そうなんです(笑)。そんな中、発想の転換で「ビタミンCを使うなら溶けるのは仕方がない!入浴剤のような使い切りタイプにしよう!」というアイディアが生まれました。
その結果、塩素除去のためのビタミンCを中心に、保水力の高いコラーゲンやヒアルロン酸も加えた「除塩素入浴料おぷろ」が誕生。
「おぷろ」という名前は、「塩素のピリピリ感をなくして、お風呂を“丸く”したい」という思いから命名したものなんです。
——かわいい商品名に込められた思いを聞いて納得です。「おぷろ」は人気商品になっているようですね。
井原さん 岐阜県は、女性の作り手から生まれた商品から「ぎふ女のすぐれもの」を認定していて、「除塩素入浴料おぷろ」シリーズも紹介されています。
2010年の発売開始時には3種類の香り、色をリリースしました。しかしたくさんの方からご愛用いただくヒット商品となり、2012年にはさらに3種類の新商品を加えました。
贈り物としても、とても喜ばれています!
——ほかに、社員の方のアイディアで誕生した商品はありますか?
井原さん ガーデニング用品の「二口横水栓ウォーターワークス」がありますね。こちらは入社3年目の社員が「水栓バルブメーカーなのに“バルブらしい形状”の蛇口が1つもない!」と気づいたことがきっかけで生まれました。
バルブとは、水の流れを調整する弁のことです。実は、コスト面の理由でプラスチック製が増えており、昔ながらの鋳物品の需要が低下しているんです。
「地域で伝承されてきた鋳造技術を多くの人に知ってほしい!」という思いもあって、昔ながらの“業務用バルブ”を模した形状で、しかもデザイン性にもこだわった商品開発が始まりました。
こうして完成した「二口横水栓ウォーターワークス」は、水の出口が二つあるのが特徴です。一つにホースをつないだままでも、別の吐水口を使って手が洗えるという優れもの。
「無骨でかっこいい!」と多くの方からご好評をいただいているデザインは、グッドデザイン賞も受賞しています。
ダイヤルロック付き水栓に込めた「水資源」へのメッセージ
——商品に、地域への思いも込められていたんですね。
松下さん 地域だけでなく、実は地球環境への思いを込めた商品もあります!「ミズロック」という商品シリーズは、屋外用の水栓にダイヤルロックを付けたもの。
ロックを解除しないと水が使えないような仕組みなんです。例えばマンションの共有スペースにある水栓のいたずら防止などに役立ちます。
開発に際しては、「地球上には、簡単に清潔な水を使えない地域も多くある。安全な水がいつでも使えるのは当たり前じゃないのだから、私たちも水を大切に使っていきましょう!」というメッセージ発信を狙いました。
当社は「水」という切り口から心地よい暮らし、平和な暮らしにアプローチしようとしているので、これからも、こうしたメッセージをもっと伝えていきたいと思っています!
職人技術を伝承しながら、アイディア商品を生み出し続けたい
——最後に、これからの展望を教えてください。
松下さん 水栓バルブ業界は、まさに職人技で成り立っている世界です。当社には技術も設備もありますが、今の課題は「技の伝承」なんです。
今いる職人たちは50代が中心。いかにして若手の方々に興味を持ってもらうか。
なんとか人材を集めて、職人技術を伝えていきたいと模索しています。
社内は仲が良く、ワイワイと風通しよく働いています。「新しいアイディア」や「新しいチャレンジ」が常に求められる社風だからかもしれませんね。
当社は70年近い歴史の中、メッキ業から蛇口製造、シャワーヘッド開発と常に新しいチャレンジで道を開いてきました。
これからも生活者の暮らしをつぶさに観察し、今までにないアイデアで新しい商品を生み出していきたい。磨き続けた技術とアイディアで、もっとワクワクするような商品を作っていきます。
株式会社水生活製作所
〒501-2104 岐阜県山県市東深瀬94-2
TEL:0581-23-4132
FAX:0581-27-0532