岩手県の内陸中部に位置する北上市(きたかみし)は、100年の歴史がある桜の名所「北上展勝地」や、ユネスコ無形文化遺産に登録された「鬼剣舞」などの伝統芸能があります。
夏油(げとう)高原いで湯ラインは、美人の湯で知られる「瀬美温泉」など、豊富な源泉に恵まれていて、若年層からシニア層まで幅広い年代から人気です。
今回は、一般社団法人 北上観光コンベンション協会 事務局の菊池里美さんに北上市の観光の魅力について話を伺いました。
一般社団法人 北上観光コンベンション協会
菊池 里美さん
事務局
「北上展勝地さくらまつり」には全国や海外から集まる
──北上市の観光の魅力から教えてください。
菊池 里美さん(以下、菊池さん) 北上市は、2021年の市町村合併を経て市制30周年を迎えました。
市内には北上川という大きな川が走っています。北上市は北上川と和賀川という支流が合流している市なので、河川を利用した貿易で栄えた地域でした。
北上市は、全国のさくら名所百選に選定された「北上展勝地※」が有名です。2021年には開園100周年を、植えている桜の木も樹齢100年を迎えました。
毎年4月中旬頃に開催される「北上展勝地さくらまつり」は、日本全国のみならず海外から訪れる大勢の花見客で賑わい、コロナ前のデータでは約40万人の方々が訪れました。
※北上展勝地・・・北上川河畔に広がる景勝地。東北有数の花見の名所として知られている。293haの公園には、ソメイヨシノを中心に約1万本の桜が植えられており、珊瑚橋から2kmにわたる桜並木が見どころ。
「鬼剣舞」はユネスコ無形文化遺産に登録
──伝統芸能でも知られている地域ということですが、こちらはいかがですか。
菊池さん 北上市は伝統芸能が盛んな地域です。北上市周辺に伝わる「鬼剣舞」は、岩手県内の念仏踊で最も知られています。
威嚇的な鬼のような面を被って踊ります。こちらは2022年11月に「風流踊」としてユネスコ無形文化遺産に登録されました。
この地域を治めた和賀氏※は剣をかざし、念仏によって悪霊を払い、人々の幸せを祈る踊りを広く勧めました。そこで北上市では「鬼剣舞」が盛んになったと伝えられています。
「鬼剣舞」に関連しますが、鬼の実態を知ってもらうことを目的に博物館「北上市立鬼の館」を1994年に開設しました。秋田の「なまはげ」など、全国各地の鬼や世界各地の妖怪のようなお面も展示しています。
最近の「鬼滅の刃」ブームや、長く人気が続く「ゲゲゲの鬼太郎」で注目が集まっているんです。
※念仏踊・・・念仏を唱えながら踊る日本の伝統芸能で、さまざまな様式で全国に分布している。
※和賀氏・・・鎌倉時代から戦国時代にかけて、現在の岩手県北上市周辺にあたる陸奥国和賀郡を本拠地とした一族。
縄文時代から北上市に人は居住していた
──民俗村や縄文遺跡もあるようですね。
菊池さん 「北上展勝地」のすぐそばに「みちのく民俗村」があり、こちらは文化にフォーカスしています。山間7haの広大な敷地に、古民家を移築復元した東北有数の野外博物館です。
廃藩置県前、北上市は伊達藩と南部藩の境にあり、文化の違いにより古民家の形も違います。民俗村は東北のさまざまな古民家を見られる場所です。
古民家に合わせ多様な植物も植栽していて、春になるとソメイヨシノではない山桜や里桜を見られ、たくさんの観光客が花見を楽しまれています。
民俗村から少し南に行きますと、「樺山遺跡(国指定史跡)」があります。こちらは縄文時代前期から後期にかけての遺跡です。
住居跡のほか、立石をともなう石組みの配石遺構(ストーンサークル)が注目を集めています。このストーンサークルはレプリカですが、縄文時代をしのぶことはできるんです。
「樺山遺跡」は、北上川と和賀川の合流地点を上から眺めることができ、見晴らしの良い場所です。ほかにも、「夏油三山」(駒ヶ岳、牛形山、経塚山)という大きな山々がありますが、そちらの方も眺めが良く、パワースポットとしても人気です。
本場のオーストラリア人も愛したスキー場
──本格的なスキーシーズンを迎えますが、人気のスポットはどこでしょうか。
菊池さん これから冬が本格化する季節での観光地は、「夏油高原スキー場」があります。東北地方全体が積雪量の多い地域ですが、その中でも夏油高原はトップクラスです。
昨年は降雪量が少なかったのですが、早々に全コースがオープンし、多数のお客様がスキーを楽しまれました。
特にオーストラリアや台湾の方からの人気が高く、スキー場のロビーでは日本語をほとんど聞くことのない光景もあったほどです。
入畑ダムでのSUPは初心者に最適
──ダムを利用したアクティビティ体験もできるようですね。
菊池さん 標高330mの「入畑ダム」があります。エメラルドグリーンやブルーに輝く神秘的な湖で、写真映えもする素晴らしいダムです。
この湖でサーフボードの上に立ち、一本のパドルで左右を交互に漕ぎ、海などの水面を進むSUP(スタンドアップパドルボード)の体験ができます。
日本SUPA協会公認インストラクターの丁寧なレクチャーを受けられるので、はじめての方も上達できるんです。入畑ダムは湖流がほぼありませんから、初心者の練習場として最適です。
ここで練習され、ほかのダムや川などで本格的なSUPにチャレンジされる方も多いです。
SUPの時期は春から秋の間がシーズンです。ウェットスーツを着てチャレンジされるので、水が冷たい時期はシーズンオフになります。春でも新緑を過ぎた時期にSUPを行うのが季節的に望ましいです。
季節的にやや早すぎると、雪解け水が流れ込み水流が早くなりますので、全くの初心者であれば初夏で行うことをおすすめします。
瀬美温泉には多くの年齢層から高い支持
──次は宿泊施設や温泉のご紹介をお願いします。
菊池さん ホテル系と旅館系があります。ビジネスホテルは市街地に集まっており、旅館は夏油高原いで湯ラインに多くあります。
ビジネスでいらっしゃる方の多くは市街地のビジネスホテルを利用されるでしょう。ちなみに本協会は、2023年10月に「さくらPORT・HOTEL」の1Fに移転しました。
「夏油高原いで湯ライン」は、自然豊かなドライブコース。その名の通り、水神温泉、瀬美温泉、入畑温泉、夏油温泉などの温泉施設が沿道に連なっています。
瀬美温泉は3つの源泉があり、美人の湯ともいわれ、若い方からシニアの方まで幅広い層に支持されています。ここは冬季から夏季関係なく、通年で利用できる宿泊施設です。
夏油温泉は隠れた温泉地で幅広い層から人気
──「夏油高原いで湯ライン」で、ほかの温泉地について解説をお願いします。
菊池さん 先ほど紹介した鬼の実態がテーマの「北上市立鬼の館」から夏油温泉までの22kmのアクセス道路を、「夏油高原いで湯ライン」という愛称で呼ばれています。ちなみに、夏油温泉は山中の秘境ですので冬季は営業されません。
夏油温泉は昔から湯治※の場で、泉質も素晴らしいことで知られています。温泉目当てで遠くからいらっしゃる方が多い地域なのです。
今でも湯治客は多く訪れ、夏に入ると1週間ほど湯治のために滞在される方もいます。
この地域は携帯の電波も届かず、近隣にはお買い物ができる場所もありません。一切の情報から遮断され、湯治に専念できる点も人気です。
湯治客のイメージは年配客なのですが、若い方もいらっしゃいまして、幅広い層からの支持を集めています。
先ほど紹介しました夏油三山は、登山では中級者向けの山です。登山の方は夏油温泉を拠点として登られる方もおります。
※湯治・・・温泉地に長く滞在して、病気を治したり、体調を整えることを指す。
地域の里芋をもとに「北上コロッケ」が誕生
──話は変わりますが、北上市のグルメについて教えてください。
菊池さん こちらの地域は、おいしく上質な牛肉「きたかみ牛」を推しています。黒毛和牛の一種で、決して固くはありませんが若干歯ごたえがあります。赤みがとても美味しく、量も多く食べられるんです。
次に北上市は里芋がとても有名な場所で、地域のシンボルとして「二子さといも」が誇れるブランドです。農林水産省は、「二子さといも」を地理的表示(GI)保護制度※に登録しています。
「二子さといも」を利用して「北上コロッケ」をつくり、飲食店で提供しています。もし、北上市にいらっしゃる時は、是非この「北上コロッケ」をご賞味ください。
※地理的表示(GI)保護制度・・・地域で育まれた伝統と特性を持つ農林水産物・食品のうち、品質などの特性が産地と結び付いており、その結び付きを特定できるような名称(地理的表示)が付されているものについて、その地理的表示を知的財産として国に登録することができる制度。(出典:岩手県 北上市)
鹿児島県の酒蔵とともに生み出した本格米焼酎
──次に岩手県産米使用の本格米焼酎『kokokaraきたかみ』について教えてください。
菊池さん こちらは北上産の米を利用している甲類の米焼酎です。2020年のコロナ禍で外出が自粛され、米の需要が大幅に減り、価格が下落したことが始まりです。
はじめは北上市で米加工の可能性を探しておりましたが難しかったのです。そこで市外や県外へ視野を広げた際に、ふるさと納税をと通して紹介いただいた鹿児島県大崎町の酒蔵※「天星酒造」にお声をかけました。
実は大崎町でも、酒類提供の自粛で特産品の一つである芋焼酎の売上に影響をうけていました。
そこで大崎町の酒蔵で、北上市の米を使った本格米焼酎の開発をし、両地域の課題解決を図ったのです。米から生まれた焼酎ですので、食中酒としても合います。
※酒蔵・・・お酒を製造したり、貯蔵したりする蔵のことを指す。
若年層観光客の集客にも注力
──最後に貴観光協会としてはどのような動きをされますか。
菊池さん 本協会は北上駅西口に設置していましたが、昨年東口に移転しました。これまでは西口でのイベントが多かったのですが、移転を機会に東口の発展にも軸を延ばしていきたいです。
「北上展勝地」が100周年を越えるなど、多くの観光資源にも恵まれています。観光客では年配の方が多かったのですが、若い方が参加しやすいツアーも新たに検討し、取り入れていきたいです。
一般社団法人 北上観光コンベンション協会
〒024-0032 岩手県北上市川岸一丁目1番8号 さくらPORT・HOTEL 1階
TEL:0197-65-0300