東川町は北海道のほぼ真ん中に位置し、日本最大の国立公園が町の40%程度を占めており自然あふれる町です。
現在の人口は約8,500人(2023年9月30日時点)ですが、過疎を保ちつつ人口を微増させるという一風変わった施策を行っています。
今回は、そんな東川町の魅力について、一般社団法人ひがしかわ観光協会の高橋匡さんにお話を伺いました。
一般社団法人ひがしかわ観光協会
事務局長 高橋 匡さん
国道、鉄道、上水道がない東川町
──東川町はどのような町ですか?
高橋 匡さん(以下高橋さん) 東川町は、観光スポットが数多くあるというよりは、自分の街では普段感じ取れない自然や暮らしを体感することを目的に訪れる方が多い町です。
東川町には国道、鉄道、上水道の3つのライフラインがありません。
一見暮らしづらいのではと思われるかもしれませんが、全くそのようなことはなく、むしろ暮らしやすい町なんです。
移動手段は主に自家用車や路線バスを使用しますが、水に関しては、東川町の住民は地下水を利用して生活しています。
東川町は大雪山系に降った雪や雨が地中に浸透し、とても長い年月をかけて地中で濾過され、地下水となり湧き出てきます。
各住戸は、地中を流れる地下水をポンプで汲み上げて使用しています。
なので蛇口をひねればいつでも、ミネラルを多く含み、純度の高いおいしい地下水が出てきます。
水温は6~8度前後を保ち、夏でも冷たい水が使用できるため、その水で作る野菜や米は格別です。
地下水を引くための行政の助成もあり、住民の方の負担も少なくおいしい地下水を生活に利用することができますよ。
福島県、富山県、千葉県と合同で毎年地下水サミットも行っており、2023年は11月10日に東川町で行われました。講演会にはたくさんの方にお越し頂き、大盛況のうちに終わりました。
都心部からのアクセスの良い田舎
──ここ数年移住者が多いそうですが、理由は何だと考えられますか?
高橋さん やはり一番は、自然を身近に感じられることだと思います。
さらに、東川町は旭川空港から車で10分、旭川中心部からだと30分で来られる場所にあり、都心部から意外とアクセスが良いんです。
中途半端な都会に住むよりも田舎に住んで自然を存分に味わい、田舎から少し車を走らせれば都会に出られるという好立地が人口増加につながっていると思います。
近年のコロナ禍では、東京と東川町に家を持つような二拠点生活の方も増えましたね。
適度な過疎を保ちつつ町内で経済を循環させる
──東川町は「一気に人口を増加させるわけではなく、微増させていく」という面白い施策をされていますが、どのようなものでしょうか?
高橋さん 私たちは、適疎とは過密でも過疎でもない、「適当な『疎』(ゆとり)がある」と解釈をし、町づくりを行っています。
急に人口が増えても、町づくりはうまくいきません。町内に馴染み、誰と会っても挨拶を交わし、町内で事業が循環していくようにするためには、ゆっくりとしたスピードで町民がお互いに信頼関係を築いていくことが重要です。
また、同じタイミングで移住者が急増すると、数十年後には一気に高齢化してしまいます。それを防ぐために、分譲住宅の宅地を一定区画ずつ、期間をおいて販売するという施策を土地開発公社が行っています。意図的に高齢化を分散させているんです。
町内で様々な事業を循環させることも町に長く住んでもらうためには重要です。
現在全国的には第一次産業である農業は若者の担い手がおらず、耕作放棄地が増えています。
そんな中、東川町では新規就農で農地を求めることができないくらい、農業の担い手が十二分にいるのです。
これは、やはりおいしい地下水を使って品質の高いお米が作れること、作付け面積が広いという東川町ならではの理由です。
東川町の農家のみなさんは先祖代々の土地を引き継ぎ、おいしいお米を作るというプライドを持ち守っています。
町としても、町民のみなさんからの税金で全国に農作物のPRを行い、売れる仕組みを創り出して支援を行っています。
通常農作物はJAが買い取り、大手スーパーなどに卸すのが一般的です。東川町ではこれに加え、一部道の駅で販売したり、農家が直売コーナーを設けて販売しています。ここに地域の飲食店経営者や宿泊事業者が買いに来るため、地産地消もできるのです。
第一次産業と第三次産業の融合ですね。
農業が町全体の根幹となっているといっても過言ではありません。
2020年秋に、岐阜県から三千櫻酒造が酒蔵ごと移住されてきました。岐阜県は、もともと寒暖差が大きく、古くからたくさんの酒蔵があり、日本酒造りが盛んな地域でした。しかし、近年の温暖化や異常気象によりだんだん思い通りの品質のお酒が作れなくなってきてしまった。そこで、公設民営という新しい形で、酒蔵を完成させたのです。
三千櫻酒造は100年続く歴史を持っています。酒蔵を移転し、東川町でお酒造りを始めてもらうことで、農家さんは新たに酒米を生産し、また豊富な地下水を活用し経済の循環を実現させたのです。
雪山で楽しむスキーは外国人観光客に人気
──日本の百名山にも選ばれている旭岳ではどのようなことが楽しめますか?
高橋さん 旭岳は日本最大の国立公園の中、しかも特別区域にあります。ここでは海外、とくに欧米(カナダやヨーロッパ)からスキーを楽しみたい方がたくさん訪れます。
シルキースノーといって、まるで雲の上を歩いているようなふわふわ感が楽しめると評判なんですよ。「パウダースノー」という言葉はよく耳にすると思いますが、ここ大雪山系の山々では「シルキースノー」と表現します。
スキー場ではなく雪山なので雪山に立ち入るという装備をしてくることが必ず必要ですのでご注意くださいね。
6月の中旬でも雪渓(雪の溶けない所)がたくさんあり、雪と夏の高山植物が楽しめるという不思議な体験もできます。そのため、登山者も多くいます。
映えスポットが多くある東川町
──「写真文化首都東川町」と呼ばれているそうですが、なぜそのように呼ばれるようになったのでしょうか?
高橋さん 自然の風景が美しく、今で言う「映えスポット」が元々多くあったんです。それで町おこしの一環として1985年に「写真の町宣言」をしました。
1994年に、高校生の写真甲子園をスタートさせました。それをきっかけに、有名な写真家さんや企業の方がまちづくりに協力してくれたんです。今年30回目を無事終えることができました。
そのような歴史を経て「写真文化首都東川町」という名前が生まれました。
現在では日本全国の11ブロックの予選から勝ち上がった高校生の写真部が競い合う写真甲子園や、東川町と関係のある海外の姉妹都市の高校から選抜された学校を招き交流を行う高校生国際交流写真フェスティバルなどを開催しています。
さらには、Instagramを利用して投稿キャンペーンも行っています。東川町の風景写真にハッシュタグを付けて頂き、その中で特に素敵なものには賞を差し上げています。観光客の方々はもちろん、地元住民の方もたくさん参加してくれ、まさに写真文化首都としての活動が盛んに行われています。
訪れた人の記憶に残る町づくりをしていきたい
──最後となりますが、ひがしかわ観光協会はどのような活動を行っていますか?また、今後の展望についてもお聞かせください。
高橋さん 観光振興とは別に、道の駅運営を行っています。地域の観光インフォメーションとともに、地元の農家の農作物を販売したり、町のPRをするためのアンテナショップ運営です。
今後は、国内外の方々に魅力を伝えていくことが一番のミッションだと思っています。
北海道は広く、他の町にも観光スポットはたくさんあります。そんな中で、アクセスの良い東川町を滞在の拠点として使ってほしいと思っています。
東川のホテルに泊まったり、晩御飯を食べたり、北海道の他の地では味わえない自然に旅の疲れを癒して頂いたり。
また、町内にある忠別ダムを利用し水の知識を学んでもらったりして遊びながら学ぶというような体験もして頂きたいです。
来ていただいた方に、「来てよかった」と思われるような満足度の高い、記憶に残る町づくりをしていきたいですね。
一般社団法人ひがしかわ観光協会
〒071-1423 北海道上川郡東川町東町1丁目1-15
TEL:0166-82-3761
FAX:0166-82-4764