豊富な水資源を観光の中心として年間約740万人もの人が訪れているという静岡県三島市。
富士山の伏流水がいたるところで湧き出る「水の郷百選」に選ばれた水の都ですが、川の水が少なくなり汚れ、植物や水辺の生物がいなくなった過去があります。
そんな三島市を水の都としてよみがえらせたのは、市民・企業・行政による清掃活動です。活動の中心となったグラウンドワーク三島の渡辺さんにお話を伺いました。
特定非営利活動法人グラウンドワーク三島
渡辺豊博さん
専務理事
街の中心・源兵衛川。復活までの長い道のり
三島の街中を毛細血管のように流れる川の中心が、約1.5kmの長さを有する源兵衛川です。
今でこそ豊富な水が年中流れ、ホタルなどの水辺の生物やミシマバイカモなどの水生植物があふれる市民の憩いの場ですが、30年ほど前は悪臭を放ち、ゴミやヘドロが問題となって埋め立てる計画まであったそう。
1964年の東京オリンピックの時代には、水の都と呼ばれる三島には1日当たり40万トンもの地下水が供給されていたと言われています。
それが高度成長期にともない、地下水を利用する企業が増えたことによって、地下水が消えて川にまで水が流れなくなってしまいました。
水量が減った川に生活排水が流れることで、ヘドロがたまり、悪臭を放つようになりました。ヘドロによって水草は腐り、魚の死体が浮いてさらなる悪臭を放つ……。
源兵衛川は悪循環に陥ってしまい、解決策のないまま長い間放置されてしまいました。
そんな中、でてきた意見が『源兵衛川を埋め立ててしまおう』というもの。
水は三島の宝物。なんとかして埋め立てを止めて元の美しい源兵衛川を取り戻そう!
そして、グラウンドワーク三島の前身となる活動が始まりました。
スタートはたった一人からのゴミ拾い
1990年頃、渡辺さんは一人で源兵衛川のゴミ拾いを始めました。
自分が子どものころに遊んだ源兵衛川に恩返しがしたい。その思いを胸に汗を流しながら毎週取り組んだそうです。
しかし、当時は誰も手伝ってくれる人は現れませんでした。それどころか、「そんなパフォーマンスをして何がしたいんだ」と馬鹿にされることもあったそうです。
活動を続けて一年三か月が経った頃、初めて声をかけられて、渡辺さんは近所のおばちゃんにアイスコーヒーを差し入れしてもらいました。渡辺さんの活動が認められた、第一歩でした。
この日から私は、コーヒーを飲むときはアイスコーヒーしか飲まなくなりました。
それほどまでに、渡辺さんの中では大きな出来事だったのです。
毎週ゴミ拾いをする生活は3年ほど続きました。その後、源兵衛川をこのままにしていてはいけないとの声が各所で上がり始め、1991年に渡辺さんも携わって三島ゆうすい会が発足されました。
単独の市民運動では限界を感じ「グラウンドワーク」の仕組みを導入
三島ゆうすい会で源兵衛川の埋め立てを阻止する活動を始めた渡辺さんでしたが、一般的な市民団体やボランティアだけでの活動には限界を感じ、新しい市民運動の形を探しました。
そして、1980年代にイギリスで作られた市民・企業・行政が協力して環境改善活動に取り組むグラウンドワーク制度を日本で初めて取り入れました。結成当時は8つの市民団体で形成されていましたが、現在では20団体に増え、川や公園、井戸など約75か所を整備してきました。
『右手にスコップ、左手に缶ビール』『議論よりアクション』を掲げて、さまざまな活動に取り組んできました。
例えば、各家庭に植えられている木をわけてもらって公園に植えたり、老人会の方にお願いしてゴミ拾いや管理をしてもらったり。そうすることで安全で快適な公園に生まれ変わるんです。しかもコストもほとんどかからない。
自分たちの力で街は変えられるんだということを、市民のみなさんと体感しています。
源兵衛川のバイカモも、ボランティアの方が毎日2時間、泥の掃除をしてくれているおかげでキレイな花を咲かせてくれるのです。
現場で地道な作業を続けていると、自然のプレゼントがもらえます。
汚れていた川や公園が自分たちの手でキレイになっていくことで、達成感を得て、自分という存在を実感することができます。これからも、たくさんの人に自然の恩恵を感じてほしいですね。
「水の都・三島」の四季とオススメの水スポット
三島市では、源兵衛川を拠点に72か所の水スポットを歩いて楽しむ「湧水網都市」を計画しています。
毛細血管のように町中に張り巡らされた水辺を散策して、自分だけのお気に入りの場所やお店を見つけてほしいと渡辺さんは語ります。
源兵衛川を中心に、水辺の四季をぜひ楽しんでください。
春はカワセミ、梅雨の時期にはホタルを見ることができます。夏場は水遊びをする子どもたちで賑わいますね。秋には紅葉、冬には富士山を眺めることができますよ。
また、おいしいグルメも三島を語るうえで欠かせません。
三島の水道水は日本で一番おいしいといわれているのをご存知ですか?そんな水を使って作られた野菜やソバは絶品です。
ウナギも有名ですね。三島には飲み屋をはじめおいしい飲食店がたくさんあるので、水辺をたくさん歩いた後にお腹を満たしに足を運んでください。
美しい三島の水辺を維持するために
この30年で三島の水辺環境は大きく向上し、水の都・三島は復活しました。しかし、良いことだけではないと渡辺さんは危機感を抱いています。
今の若い世代は源兵衛川をはじめ三島の水辺が汚かったことを知りません。そのため、キレイさを保とうと努力しないのです。良くも悪くも、美しいことが当たり前になっているのです。
美しさを維持しつつ、新しい源兵衛川を作ることが、今後の課題です。水は心を作り体を支える大切な資源。水を守ることは、大人の社会的責任だと思っています。『人は人のために生きてこそ人なり』が私の信条。これからも三島の水辺環境を守るために、アクションを起こしていきたいです。
市民が中心となってより良い三島へ。
渡辺さんの三島への愛と熱意を感じる取材でした。私もソバを食べ、川のせせらぎに癒されに三島の街を訪れたいと思います。
特定非営利活動法人グラウンドワーク三島
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