ポイントを貯めるとSDGsに貢献できる!楽しむことが社会を良くする仕組み「SDGsポイント」【明星大学・経営学部】

「人はどうしても『ボランティアをしなきゃ』という気持ちだけでは、続けることができないと思うんですよね」

そう語るのは、明星大学 経営学部 の安岡 寛道 教授。自身もトップクラスのコンサルティング企業や、大手エンターテインメント企業の出身である。ゲームをするように遊んでいたら、いつの間にか社会貢献できていた。その仕組みづくりについて取り組んだ話を伺った。

明星大学 経営学部

安岡 寛道 教授

野村総合研究所、スクウェア(現スクウェア・エニックス)、アンダーセン(現PwCコンサルティング)などでの勤務経験を経て、2020年より明星大学にて教鞭をとる。広島カープが好き。愛犬家。

「全体を見るような仕事がしたい」から、コンサルティングの世界へ

──これまでのご経歴について教えていただけますか。

明星大学 経営学部 安岡 寛道 教授(以下、安岡教授)子どもの頃は数学が得意で、大学も理工学部に進学しましたが、就活の時に「もっと全体を見るような仕事がしたい」と感じてコンサルティングの会社に就職しました。もしかしたら、子どもの頃は実家が会社を経営していたので、それをそばで見ていたことも影響しているかもしれません。

でも、それまでは研究畑だったのでいきなり全く違う世界に飛び込んで、しかも1年目は今までで1番残業したんじゃないかというくらい働いていたので、本当に大変でした。

その企業は基本的に「全体を俯瞰する」タイプのコンサルティングでしたね。顧客の企業とは付かず離れずの距離感を保ち、客観的に意見するやり方です。

私も「ある程度対象とは距離を保って全体を見たい」というタイプなので、この手法は性に合っていたと思います。

その後は、知り合いの方に「オンラインでのゲームの事業を始めるから手伝って欲しい」と声をかけられ、エンターテインメントの企業に転職しました。当時はパッケージゲーム(オンラインやダウンロードとは違い、ソフトを本体に挿入して遊ぶタイプのゲーム)が主流だったので、可能性を感じて転職しました。

──先生もゲームを楽しまれる方なのでしょうか?

安岡教授 いや、昔は少ししましたが私はそんなにしない方ですね。むしろ、娘の方がゲームは好きだと思います(笑)。

そういえば、当時感じたことがあるんです。「現実世界は生きづらいけど、ネットの中でなら自分らしく生きられる」という人も世の中にはいるので「そういう生き方があっても良いんじゃないか」と。

一方、人は多少なりとも何かの役に立ちたいと思う生き物でもあると思うんです。ならば「ゲームをすることが社会貢献になる」仕組みがあれば良いのではと思いましたね。

その後はまたコンサルティングの仕事に関わり、明星大学から声をかけられ今に至ります。大学は元気な学生の方とたくさん交流できるので刺激になりますし、教授の世界は50代でも「若手」と呼ばれることもあるので新鮮です(笑)。ずっと「自分の経験を若い人に伝えたい」と思っていたので、とても良いフェーズにいると自分でも感じています。

ゼミの様子。教授の誕生日をゼミ生の皆さんがお祝いしてくれたそうです

「SDGsポイント」ってどんな取り組み?

──安岡ゼミの取り組み「SDGsポイント」が「脱炭素チャレンジカップ2022」のマクドナルドオーディエンス賞という、視聴者投票によって選ばれる部門で1位を獲られたそうですね。改めて、どんな活動なのか教えていただけますか。

安岡教授 「SDGsポイント」とは、SDGsの17の目標につながる行動をするとポイントが貯まる制度です。対象者は主に明星大学経営学部の学生でした。この取り組みは2021年にスタートし、2024年3月に一旦終了しました。

元々、LMSというオンライン授業が受けられたりレポートを提出できたりする学習システムがあるのでそれを利用しました。アイコンの中に「SDGsポイント」というアイコンを設けて、そこから投稿できるようにしたんです。

SDGsにつながる行動を表す写真の画像に、どんな行動かを説明する文章を添えて投稿してもらいます。「一日一善」にちなみ、投稿できる数は1人につき1日に1つまでとしました。

投稿された内容は、代表の学生たちが「投稿内容がSDGsにつながるものかどうか」「これまでの投稿内容と重複していないか」などの点をチェックします。それをさらに私がチェックし、面白かった投稿には「特別賞」を付与しました。月間ランキング上位者には、Amazonギフト券などの特典も用意しました。

SDGsポイントの仕組み

──豪華な特典ですね!どれくらいの金額なのですか?

安岡教授 5,000円、3,000円、1,000円分とかです。結構大きいですよね。

──それはもらえたら嬉しいですね。どんな投稿が多かったでしょうか?逆に、全然投稿されない分野はありましたか?

安岡教授 1番多かったのは「12 つくる責任 つかう責任」ですね。エコバックの使用や、製品・洗剤、古着の購入などに関する内容が多かったと思います。

2位は「7 エネルギーをみんなに そしてクリーンに」。これはやはり節電・節水、断熱製品の使用に関するものが多かったです。3位は「14 海の豊かさを守ろう」。ペットボトルごみを減らすことに関する内容などがこれにあたりますね。

ギリギリまで投稿数ゼロだったのは「1 貧困をなくそう」でした。これにつながる行動といってもなかなか難しいと思いますが、「脱炭素チャレンジカップ2022」で発表する直前に、確か「寄付をした」といった内容の投稿があったと記憶しています。

SDGsポイントに投稿された内容の例①
SDGsポイントに投稿された内容の例②

「ハンバーガー1年分」チケットは、みんなで山分け!

──「脱炭素チャレンジカップ2022」は、まだまだ新型コロナウイルス対策に厳しかった時期でしたね。当日はどのように発表されたのですか?

安岡教授 オンラインでの発表でした。実際の会場に大きなスクリーンがあり、それぞれの発表者は会場と中継で繋がれていました。発表は会場のスクリーンに映し出され、みんなその映像をそれぞれの場所で見ている。そういう方法で進められました。

私たちも、この研究室に私と学生2人の3人だけが待機している状態でした。発表の時は、最初に2分間の動画を会場で流してもらって、その後学生がこの研究室から1分間プレゼンをしました。視聴者投票で1位になりましたが、伝え方がとてもわかりやすかったところも評価されたのかなと思います。

受賞した時の様子。教授とゼミ生の方は研究室で喜びを分かち合った

──本当におめでとうございます。受賞が決まったその瞬間、研究室内はどんな様子でしたか?

安岡教授 「やった!!」と3人で大喜びしましたよ。でも、コロナ禍だったのでソーシャルディスタンスを保ちながらハイタッチをするような感じでしたね(笑)。学生たちは「ハンバーガー1年分の賞品が欲しいから、マクドナルドオーディエンス賞を獲りたい!」と言っていたので、受賞が決まった瞬間はそれはもう本当に喜んでいました。

──様子が目に浮かぶようです。気になる賞品はどうなったのでしょうか?

安岡教授 後日、賞状と箱に入ったチケットが送られてきました。「ハンバーガー1年分」とは、マクドナルドのハンバーガー1つと交換できるチケットが366枚ということだったんですね。まずは、頑張ってくれた学生2人に「好きなだけ持っていきなさい」と言いました。あとはSDGsポイントの景品にしたり、お世話になった関係各所にお礼を兼ねて配ったりしました。

──先生はそのチケットを使われましたか?

安岡教授 私は1枚くらい使ったかなあ。賞状があれば、私はそれで十分嬉しいので。お店に持っていった時、店員さんもそのチケットを見たことがなかったようで、しばらくバックヤードに持っていって対応していました。結果的には、ちゃんとハンバーガーは食べられたと思います(笑)。

SDGsポイントのその後、これからやってみたいこと

──受賞後、2024年3月にSDGsポイントの活動は一旦終了されています。それまでの経過について教えてください。

安岡教授 その後は、残念ながらだんだん投稿する人が固定化されてきたり、投稿者数も減ってきたりするようになっていきました。また、新しく入ってきた学生たちにとって「どの行動が投稿の対象になるのか」が理解されていないこともありました。例えば、エコバックを使うことがSDGsにつながる行動である、ということをあまり認識していないために投稿につながらない、といったことです。

2年目からは、明星大学の敷地内の豊かな自然を活かす「明星SATOYAMAプロジェクト」の取り組みの一環としてSDGsポイント制度も参加することになりました。その少し前から、他学部の学生も投稿できるようにはなったのですが、対象が広がった分活動も薄まってしまった感も正直ありましたね。

そういった状況を見て、SDGsポイントのプロジェクトを一旦終了することに決めました。

──3年間やってみて、新たな発見などはありましたか。

安岡教授 興味深いなと思ったのは、普段は投稿数が滞っていても「授業の課題にします」という条件を課されると、当たり前ですが投稿数は一気に増えます。人はなかなか「良いことをしなきゃ、ボランティアをしなきゃ」という目的意識だけで継続して行動するというのは、やはり難しい。そこには何かしらの危機感や、ある程度強制する力が働かないとなかなかモチベーションを保ち続けられないんです。

SDGsポイントは「楽しみながら社会貢献する」ことができる仕組みとして実際にやってみましたが、継続させるためにはそこにもう少しの工夫が必要になってくるということですね。

──それを踏まえて、今後やってみたいことはありますか。

安岡教授 例えば、もっとゲーム性のあるものに変えて「ゲームで遊んでいたらいつの間にかSDGsポイントが貯まっていた!」といった仕組みができたら面白いですよね。むしろ、ゲームを楽しむことが目的になりSDGsのことも忘れているくらいの状態になったら良いかもしれません。単なる時間潰しが社会貢献になる、そんな仕組みを作れたら強いと思います。

また、危機意識の観点で言うと「他の人のSDGsポイントがたくさん貯まっている」ことに触発されて行動を促すようにするとか。企業はすでにESG投資(※)などでSDGsや社会貢献への姿勢が評価に直結するので、危機意識を持っていますよね。顧客から報酬を得ているなら、それに見合った対価を支払わなければならない。そういう強制力も働きます。

「ESG投資」とは

「ESG」とは持続可能な世界の実現のために、企業の長期的成長に重要な環境(Environment)・社会(Social)・ガバナンス(Governance)の3つの観点のこと。「ESG投資」とは「ESGに配慮した企業に対して投資を行うこと」を指す。

安岡教授 また、ポイント制度には原資(事業に必要な、もととなる資金)が必要になります。もっと大学横断で、もしくは企業も巻き込んで、ビジネスとも上手く絡めて大きな仕組みを作りたいです。そういう方法をやってみたらどうなるのか見てみたいですね。

そして「ボランティアしなくちゃいけない」「社会貢献しなくちゃいけない」という発想から抜けて、もっと楽しむことや利益を上げることに絡めて、みんなにとって幸せになる仕組みにすればいいと思うんです。

バーチャルでもリアルでも、結局世の中はみんなつながっていますからね。

──貴重なお話をありがとうございました!

明星大学 経営学部
〒191-8506 東京都日野市程久保2-1-1
TEL:042-591-6389

この記事の執筆者

吉田 さやか

不動産管理・広告・アパレル・介護等、様々な業種・職種での経験を経て、現在は5歳の娘を育てながらライターとして活動中。北陸育ち、関西7年、首都圏での暮らしは14年目。

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