【創価大学・掛川ゼミ】学生の想いがシェアサイクル実用化につながった!教授・学生がともに取り組むサステナビリティ

2024年4月26日15時。創価大学の敷地内に「HELLO CYCLING」のシェアサイクルステーションが設置されました。これは創価大学経済学部・掛川ゼミの学生の皆さんの研究から始まり、東京都・八王子市に提案をした結果、本格的に形となったプロジェクトの一つです。

アイデアが自治体を動かした経緯、また、掛川教授ご自身の仕事・教育に対する思いについてお話を伺いました。

創価大学 経済学部 経済学科

掛川 三千代 教授

専門は環境経済学、開発経済学、国際開発協力、環境政策・環境管理。国連開発計画(UNDP)ニューヨーク本部、タイ地域事務所、在ラオス日本国大使館、外務省、国際協力機構(JICA)ベトナム事務所、環境省で、開発途上国の開発協力、特に貧困削減、環境政策の改善、気候変動適応策等、サステナブルな社会の形成に尽力してきた。2017年9月から創価大学経済学部で教鞭をとり始め、現在に至る。

環境と開発、現場の経験を教育に活かす

──では、自己紹介をお願いしても良いでしょうか。

創価大学 経済学部 掛川 三千代 教授(以下、掛川教授)私は長年、開発途上国の開発援助・開発協力の分野で仕事をしてきました。教鞭を取り始めたのは2017年の9月からで、ちょうど7年目が終わるところです。 大学では環境経済学、開発経済学、最近は気候変動に関わる授業などを担当しています。

掛川教授

環境経済学は「環境を考慮した上で、モノや資源の分配や使い方などをいかに効率的にできるか。特に、限りある地球上の資源を地球に負荷をかけないやり方で人々が使っていくために、市場を使ってどのようなインセンティブを作っていけばサステナブルな形で使っていけるか?」といったことを考える学問です。

掛川教授

開発経済学は「開発途上国が貧困をどのように抜け出し、発展していくか」ということを目指しつつ、単に大規模なインフラ建設だけではなく、環境面や地域社会にも配慮しながらどのようにサステナブルな形で発展していくか、といったことを考えます。

掛川教授 私自身は長い間、開発途上国での環境保全・改善、 持続可能な社会づくりのプロジェクトなどの仕事がすごく好きで、長く関わってきました。

大学で働く今でも、メコン地域諸国(主に、ベトナム、ラオス、カンボジア)の環境政策の遵守の強化や、気候変動対策・開発計画等について研究しています。

メコン地域諸国は昔、仕事で訪れたり駐在したりしたことで、この地域の環境問題や社会問題などを直接知ることになり、強く関心を持つようになりました。

また、メコン河流域は生物多様性が非常に豊かなのですが、近年は国の経済開発に伴い、急速に開発や経済活動が進む地域も増えているようです。一方で、洪水や旱魃(かんばつ)など気候変動の影響を既に受けており、多くの問題が非常に複雑に絡み合っている地域です。

その意味で「これらの地域を守り、サステナブルな開発を目指していく必要のある重要な地域だから」というのも研究の対象にしている理由ではあるのですが、やはり現地で多くの様々な人と交流する中で、本で読むだけではわからない以上のことが体験として理解できたことも大きく影響しています。

とても豊かな自然が残っていて本当に素晴らしい地域なので、そういう部分は守りながらサステナブルな開発のあり方を考える。そういったことに少しでも貢献できたらと考えています。

──そうなんですね。メコン地域諸国の中で特に好きな国はありますか?

掛川教授 どの国にも良いところはあるので一つには絞りがたいんですが…。強いて一つ挙げるとするなら、個人的にラオスはとても好きな国ですね。仕事仲間の間でも「癒しの国 ラオス」と呼んでいました。

東京の生活は本当にせわしない日々ですが、私が駐在していた時のラオスは時間がゆったりと流れ、人々の心に癒しをもたらしてくれるような雰囲気でした。

2005年当時、ビエンチャン市内の自由市場。店頭には多くの新鮮な野菜や果物が並んでいる

掛川教授 ラオスは発展途上国ではあるのですが、気候が良く、お米・くだもの・野菜などはたくさん採れますし、川や池の魚も獲れるので、食生活はとても豊かです。生活自体はすごくシンプルですが「食べるものがない」というような貧しさは全く無いのです。

メコン河は「母なる川」とも呼ばれているのですが、その滔々(とうとう)とした水の流れや、そこに沈む大きく赤い太陽の様子などは本当に感動的です。太陽がとても大きく見えて、すごく綺麗なんです。野生の花々もとても綺麗で、そうした自然の美しさに癒されました。

雄大なメコン川(2005年撮影)

掛川教授 人々のペースもどこかのんびりしていて「ここに来ると、なんだかほっとするなあ」と思っていました。今はもっと開発が進んで、町の様子や人々の生活も変わってしまっているかもしれませんが…。

ラオス自身が持つ、そのような独特の良さを現地で感じたことで、当時から「単に高い経済成長のみを目指すのではなく、その国自身の特色を活かした、その国にしかできない『開発のアジェンダ』を作った方が良いのではないか」など、ODAのあり方については関係者と何度も議論を重ねてきました。

今、大学で学生に教えている時も、そのような現場体験や自分のエピソードなどを踏まえて、多角的な視点を伝えるようにしています。基本は教科書での学びがベースになりますが、「必ずしも教科書に書いてある理論がその現場では通じるわけではない」とか「こう書いてあっても、実際の現場ではこういうことが起きている」といったことですね。

マイボトルの貸し出しシステムと、シェアサイクルサービスの開始

──以前、他のゼミ生が「マイボトルの貸し出しシステム」を考え、実際に運用を始めたとお聞きしました。現在もそれは続いていますか?

掛川教授 そうですね。2020年頃に経済学部の西浦ゼミの学生数名が、環境のために大学内でのペットボトル使用量を減らすことを目的としてスタートさせた取り組みです。経済学部では、ゼミを超えて教員が学生のサポートをしあうこともよくあることで、私も何度かサポートをしました。

マイボトルの貸し出し(使用後は食堂に返却し洗浄する)システムについては、残念ながらコロナ禍の影響で休止せざるを得なかったのですが、結果的には「ウォーターサーバーを導入すれば、大学が支払っているプラスチック処理費を大きく減らすことができる」という根拠を提出し、ウォーターサーバーの導入に繋がりました。

ウォーターサーバーは現在も引き続き設置されていて、多くの学生はマイボトルを持ってきてお水を入れています。数年前と比べると、マイボトルを持っている学生の姿もずいぶん増えたように感じますね。暑い日の休み時間には、ウォーターサーバー前に列ができたりもしています。

当時、レンタルボトルは1回20円で貸し出していた(紅茶・ほうじ茶・緑茶から選べるシステム)

──素晴らしいですね。他にもそういった事例はあるのでしょうか?

掛川教授 私のゼミでは今年の4月下旬、八王子市の協力もあり大学内にシェアサイクルを導入できました。これは、2022年4月から始まったゼミ内での「サステナブルなまちづくり」や「気候変動の影響」に関心を持った学生たちの研究がもとになっています。

八王子市では移動手段として車を使う人が多いことから、運輸分野からの二酸化炭素の排出量が多いのです。しかも、八王子市の自家用車が占める二酸化炭素排出量(56.7%)は、国のその排出量の割合(45.7%)を上回っていることがわかりました。今まで車を運転していた人が急に自転車に変えるというのはすごく難しいことですが、学生たちは、その対策を熱心に調べ続けました。

また、車を使う人に対して学生がアンケート調査をした結果「(車は)必須というより、買い物などに便利だから持っている」という人が多いことがわかりました。また、八王子市が2020年から2年間ほどシェアサイクルの実証実験をしていたこともわかったのです。

「これがもっと普及したら、もっと自転車を使う人が増えて環境に優しい街になるんじゃないか?」と、学生たちはシェアサイクルの利用促進について研究を開始しました。

12月には、大学SDGs推進センター主催の「SDGs対話・ネットワーキング会合(※)」に2回参加し、学外の実務者・専門家から、多くのアドバイスや建設的なフィードバックをいただき、活動をブラッシュアップしていきました。

「SDGs対話・ネットワーキング会合」とは

SDGs達成に向けて実際に活躍されている専門家の方々に対して、学生が実施してきたSDGs関係の研究や活動を発表し、専門家と対話しながら学生達の研究や活動を磨いていく会合。2021年度から毎年1回開催している。

掛川教授 翌年の2月には、八王子市の交通企画課の方々に対し、シェアサイクルの実証実験の低い認知度を改善するため、学生視点で改善案を提案しました。

具体的には、それまで主流だった紙媒体ではなくSNSなどを活用した宣伝方法の利用や、シェアサイクルの置き場を若年層が住む北部に増やすことなどです。

市からは全面的に協力を得ることができ、その後はシェアサイクル事業者との現地調査や学生によるニーズ調査をもとに、大学側もシェアサイクルの導入を決定しました。

それが昨年の秋で、実際に設置が終わったのがまさに今日(4月26日)のお昼休みだったのです。運用は本日15時からです。

大学内のシェアサイクルステーションにて記念撮影

──そうだったんですね!そんな瞬間にお話を聞くことができて大変嬉しいです。

掛川教授 そうなんです!本当に感慨深いです。ちなみにシェアサイクルが設置されている場所は正門近くの駐輪場で、大学の敷地の一番端なので、地域住民の方も使うことができます。

また、シェアサイクルの実用化には「学内の放置自転車の削減」という利点もあります。多くの寮生や留学生は日頃から自転車を使っているのですが、卒業時に自転車を自分で処分せず、学内に放置していってしまう人が時々いるんです。

今までは、そういった自転車は大学側が結局処分せざるを得ないという状況だったので、この問題の解決につながると良いなと思っています。何より、ゴミを減らすことは環境への負荷を減らすことにもつながりますよね。学生たちも、SNSやポスター制作など積極的にPR活動をしています。ぜひたくさんの方に使っていただきたいです。

掛川ゼミの学生が作成したシェアサイクル広報用のポスター(学内の掲示板などに貼られている)
タウンニュース(八王子版)でも取り上げられた。2024年5月9日号。

研究は「最後までやり遂げること」が大切

──これから取り組んでみたいテーマや研究はありますか?

掛川教授 2つあります。1つ目は、学内や地域での気候変動対策に関する研究です。実は、数年前から「2050年カーボンニュートラルの目標を決め、削減シナリオ作りをしていくべき」という提案を大学の関係者に何度かしており、ようやくそのプロジェクトが昨年度実現しました。

私も所属する大学のSDGs推進センターと管理部等が協力し、学外の専門家の力も借りつつ大学から出る二酸化炭素の排出量を正確に測り、それをもとに「2050年までにキャンパスのカーボンニュートラル・脱炭素をする削減シナリオ」を作りました。今年4月から大学のホームページでも公開しています。これは大学として、とても大きな成果だと思っています。

大学は教育・研究機関としてのみならず、一つの事業体として、脱炭素に向けて実践していく必要があります。その実践をするという環境の中で、学生も気候変動に関する授業などを履修していくことが理想的だと思います。

2つ目は、ゼミ学生たちが2023年の春から始めた、大学における太陽光パネルの導入の拡大(プロジェクト名「創価大学における再生可能エネルギー拡大の可能性についての検証:再生可能エネルギー拡大に対する支払い意思額に基づく分析」)です。

「太陽光パネル拡大のための基金(「再エネ協力基金」)を設置したら、学生や保護者の支払い意思額は実際にどれぐらいあるのか」ということを、生活費や世帯年収別に調べました。1年目のデータは取得できていますが、経年変化を見ていくためにも続けていく必要があります。今後のデータ取得については今、学生達とも協議しているところです。

ゼミの授業ではグループに分かれて、皆で徹底的にディスカッションを行う
ゼミ合宿での写真(夏は2年生と3年生が合同で行い、皆で真剣に学びあう)(2022年7月)

掛川教授 私はいつも学生たちに「研究を単なる研究として終えるともったいないので、ちゃんと最後まで、つまり施策提言をして、その対象者にきちんと聞いてもらい、フィードバックをもらうところまでやりましょう。そして、できれば、それを社会実装(得られた研究成果をもって、社会問題解決のために施策を実施していくこと)していきましょう」と伝えています。

そうすることで、より良い社会やより良いキャンパスを作ることに繋げてほしいと思っています。また、その経験は学生たちの自信に繋がっているように感じます。 

世間一般においても近年は「効率」を重視する風潮がありますが、創価大学に集った学生は、「自分のエネルギーを何らかの形で、このキャンパスや地域が抱えている問題を解決するために使いたい」と積極的に言ってくる方もすごく多いです。その点が、創価大学で学んでいる学生たちの素晴らしいところであり、強みだと思います。

──貴重なお話をありがとうございました!

創価大学 経済学部 掛川 三千代 教授・ゼミ
〒192-8577 東京都八王子市丹木町1-236
TEL:042-691-2211(代表)

この記事の執筆者

吉田 さやか

不動産管理・広告・アパレル・介護等、様々な業種・職種での経験を経て、現在は5歳の娘を育てながらライターとして活動中。北陸育ち、関西7年、首都圏での暮らしは14年目。

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