年間15万人が訪れる日本最北の老舗日本酒蔵・国稀

北海道増毛郡増毛町に位置し、日本最北の酒蔵を有する国稀酒造。明治15年創業、明治35年に現在地へ酒蔵を建設以来、日本酒を作り続けている老舗の酒造会社だ。

酒蔵の周囲には日本海があり、標高1,492メートルの暑寒別岳がある。
国稀では、暑寒別岳から湧き出る伏流水を使用し、普通酒から純米酒、大吟醸などを製造している。

いずれも高品質で味わい深い日本酒は、多くのファンから愛され、酒蔵には年間15万人も訪れるという。

国稀の建物は、昔ながらの風情が楽しめる。それは「北海道赤レンガ建築賞」を受賞したほど。

また、酒蔵の見学や試飲コーナーがある他、ここでしか購入できない限定酒も揃えられ、日本酒好きには堪らないサービスが充実している。
さらに、お酒を楽しめない方向けに各地方から厳選された雑貨も販売。

加えて、暑寒別岳から伏流水を汲める水場もある。地元の人は普段から日常水として使用し、もちろん観光客も汲んで飲める。

誰もが楽しめる酒蔵、それが国稀の酒蔵なのだ。

今回は、そんな国稀の日本酒造りと酒蔵の魅力を探るべく、国稀酒造株式会社の佐藤敏明(さとう としあき)さまにインタビューしました。

国稀酒造株式会社

佐藤 敏明 様

企画課 次長 

老舗・国稀の歴史

──国稀は老舗の酒造会社ということで、まずは会社の歴史について教えてください。

佐藤敏明さん(以下、佐藤さん) 国稀は新潟県佐渡出身の本間泰蔵が明治8年に小樽から増毛へと移り住み、明治15年に創業した会社です。

当時は「丸一本間」という社名で呉服商でしたが、明治15年から荒物雑貨販売や呉服雑貨、漁獲物の輸送に加え、地域住民のための海運業、ニシン漁、醸造業も始めました。

そんな中、当時の北海道は日本酒が入手しづらく、また本州からの移入のため安価ではありませんでした。そのため本間は酒の自家醸造も開始し、明治35年には酒蔵を建設、社名も平成13年に「国稀酒造株式会社」と改め、現在に至っています。

当初は日本酒の原料となる米が北海道では入手困難だったため、新潟県から米を入手し、酒造りを行なっていたそうです。
しかし、現在は北海道の酒造りに適した酒米(さかまい)を使い、日本酒づくりを行なっています。

──どのようなお酒を作っていますか。

佐藤さん 普通酒から本醸造酒、特別本醸造酒、大吟醸、純米酒、純米大吟醸、特別純米酒といった日本酒の代表格。それから、にごり酒、焼酎、梅酒など多種多様な酒を製造しています。
また、ハンドクリーム、Tシャツなども販売しています。

国稀の代表作といえば、普通酒の「国稀」でしょうか。普通酒ではありますが、65%と精米歩合の高い商品です。
創業当時より、家庭用のリーズナブルな日本酒でも品質の良いものを提供したい、という伝統があります。

穏やかな香りと軽快な味わいがあり、中口で冷やしても熱燗でも楽しめるお酒です。日常酒ながら格調高い気品溢れる旨味が感じられ、長年お客様からご好評をいただいております。

──国稀のお酒は関東でも購入できますか?

佐藤さん 関東も含め全国の一部の酒屋さんで販売されています。

ただ、道外のお店の場合、北海道ならどこでも買えるような定番の2、3種類ぐらいしか販売していないかもしれません。

当店のオンラインショップでは、国稀が製造している全てのお酒が購入できます。ぜひ、オンラインショップをご活用いただけたらと思います。

南部杜氏が生み出すこだわりの味

──国稀のお酒造りのこだわりについて教えてください。

佐藤さん 昔からここ増毛地方には、増毛山地の積雪を源とする伏流水が豊富でした。

伏流水は軟水のため、軟水の良さを引き出す酒造りにこだわりがあります。増毛地方の伏流水は酒米(さかまい)との相性がよく、馴染みやすい性質があるので、酒造りに向いている水だと思いますね。

水以外の材料では酒米、麹、酒母などがあり、どれも一つひとつこだわった材料を使っています。杜氏や職人たちのプロの技術と丁寧な工程で、毎年酒造りを行なっています。

──創業当時は、越後杜氏が駆けつけ伝統の技で国稀の味を生み出したと聞きました。

佐藤さん 創業当時は「越後杜氏」から杜氏が訪れていましたが、現在は「南部杜氏」から来ていただいています。

前述したとおり創業者の本間泰蔵が新潟県出身ということもあり、当初は新潟から杜氏が来ていただいたのでしょう。「越後杜氏」伝統の技で、現在の国稀に繋がる味づくりに貢献していただいたと思います。

「越後杜氏」から「南部杜氏」に変わった経緯は、記録が残っていないので今では誰も分かりません。しかし、昔から各地に酒造りのプロ集団が存在し、杜氏が酒蔵へ出向き日本酒づくりを行なう、という伝統が続いています。

──杜氏は毎年酒蔵を訪れ、日本酒を作られるのでしょうか。

佐藤さん はい。毎年酒造りの季節になると、杜氏が酒蔵を訪れ日本酒づくりを始めます。杜氏のもと、他の職人たちも一緒に酒造りを行ないます。酒米は農作物のため、毎年わずかですが品質が変わることがあります。

だからと言って、お酒の味も毎年変わるということはありません。

味が変わらぬよう、その年の酒米の品質に合わせ、杜氏は製造工程のなかに微妙な工夫を加えています。例えば、米の浸水時間を少し変えるなどですね。

そのような僅かな工程の差が、酒の味を左右し、安定した品質と味を生み出しています。杜氏の気配りと伝統の技で、それが叶えられています。まさにプロです。

年間15万人が訪れる日本最北の酒蔵

──酒蔵を訪れる方が年間15万人いらっしゃると聞き、驚きました。

佐藤さん おかげさまで、老若男女幅広い年代の方々が訪れます。

国稀の酒蔵は、札幌から深川まで高速道路で約1時間、深川〜増毛・国道233・231号で1時間20分の場所にあります。
JRでのご来店も可能で、札幌から深川まで約1時間、旭川や稚内から訪れることもできる位置にあります。

日本海がすぐそばにあり、近くには旧商家丸一本間家や増毛郡総鎮守 厳島神社などがありますよ。そして、暑寒別岳が一望できる場所です。

場所がら、4月から10月後半頃のご来店が多いのですが、国稀は「寒仕込み」といって冬に仕込みを行います。


寒仕込みの見学もオススメですね。寒仕込みは、10月後半から3月中旬まで行い、杜氏や蔵人もおりますので、酒造りの見学には面白い時期です。吹雪のない天候の良い日にちを選んで、ぜひご来店いただけたらと思います。

──酒蔵でのおもてなしについて教えてください。

佐藤さん おもてなしで人気が高いのは、やはり利き酒コーナーでしょうか。

16種類のお酒のなかから、気になる3種を選んで、試飲を楽しんでいただきます。

コロナ前は3種と言わず、全種類のお酒が試飲できましたが、2023年現在、まだコロナが収束していませんので、密を避けるために3種までと限定させていただいております。

また、酒蔵限定で販売している日本酒もあります。

他にも、創業当時の暮らしを再現した和室の展示や資料室や売店もありますよ。

試飲された方は車を運転して帰れません。運転手係として来店されたお客様やお酒に興味のないお客様のため、売店では各地方から厳選した雑貨を販売しています。

ぜひ、お買い物の時間も楽しんでいただきたいと思っています。

暑寒別岳の伏流水が湧き出る水場

──増毛町は湧水が豊富な場所なのですか?

佐藤さん 増毛町は暑寒別岳が後方に位置していますので、山から降りてくる伏流水が豊富な場所です。

暑寒別岳の積雪の時期は、10月後半から7月後半まであります。

山が近い増毛町は積雪で溶けた水が多く流れてきます。だから豊富な伏流水を使って商売を始めるには適した場所だったと思いますよ。

売店では、当社の日本酒と伏流水を使ったハンドクリームも販売しています。

──国稀の水場は、地域の方も使っているのですね。

佐藤さん 国稀の酒蔵には、2箇所水場を設置しています。こちらは、2004年に整備しました。
日本酒の宣伝のためというよりは、地域貢献のためです。

伏流水を汲み上げ、ろ過した水を皆さんに提供しています。品質検査も月2回必ず行なっていますので安全なお水です。

自然の美味しい水ということで評判を呼び、今では増毛町以外の北海道在住者の方々も水を汲みにいらっしゃるほどです。

観光客の方もぜひ、飲んでいただきたいと思います。お持ち帰りも可能です。

増毛町との取り組み

──増毛町との取り組みについて教えてください。

佐藤さん 増毛町が開催する「増毛町春の味祭り」と同日に「酒蔵まつり」を開催しています。増毛町のお祭りと同日に開催することで、食とお酒両方を来場者に楽しんでいただき、増毛町全体を盛り上げていきたいという思いです。

増毛町は甘エビが有名ですが、他の海産物や果物も美味しいですよ。そのため数年前から増毛町では春の味祭り、秋の味祭りを開催することになりました。

「酒蔵まつり」ではお楽しみイベントとして、ふるまい酒や特性甘酒の無料サービス、まつり限定酒や菓子なども販売しています。

うまいもの横丁の開催など楽しい催しを多数用意しています。

ぜひ、たくさんの方に増毛町を訪れていただき、美味しいものをたくさん召し上がっていただきたいです。

今後の展望について

──現在、開発されているお酒などありますか?

佐藤さん 2年ほど前から、スパークリング清酒や生酛酒を販売しております。

他にも限定商品として、数量限定ではありましたが国稀監修のカルビー堅あげポテト「北のほたて醤油味」を開発しました。

新商品の開発はよく行います。
他社メーカーさんのお酒から刺激を受けることもあり、社内のさまざまな部署から商品開発のアイディアや企画を出しては、日々新商品の開発に励んでいます。

──国稀酒造の今後の展望について教えてください。

佐藤さん 地域密着を大事にしながら、海外への販路も拡大し日本酒文化を世界に広げていきたいと考えています。

海外の日本酒ブームは年々広がっており、特に中国、韓国、アジアを中心に人気が高まっていると感じます。

当店のサイトでも、海外サイトを設置し海外の方々へ発信しています。サイトでは、酒蔵の試飲やハッピの試着など、お酒を通して日本文化に触れる体験を披露しています。

国稀酒造株式会社の公式サイトでは、「国稀のオンラインショップ」にて日本酒の販売をしています。ぜひご覧ください。

国稀酒造株式会社

明治15年創業 日本最北の日本酒蔵を所有する国稀酒造株式会社

〒077-0204 北海道増毛郡増毛町稲葉町1丁目17
TEL:0164-53-1050 / 0164-53-9355(売店直通) 
FAX:0164-53-2001

この記事の執筆者

荒川 あい子

ライター。地域情報サイト、医療系記事を中心に執筆中。最近の趣味は旅行、映画鑑賞、読書(主に映画評論、エッセイ)

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