日本酒造りに名水は欠かせない。榮川酒造株式会社の酒づくりに迫る

榮川酒造株式会社(以下、榮川酒造)は、明治2年の創業以来、会津の地で酒造りに取り組んできました。

数多くの商品を販売していますが、その中でも、モンドセレクション11年連続受賞を果たした「大吟醸 榮四郎」は榮川酒造を代表する銘柄です。

今回は、榮川酒造様のお酒造りのこだわりや想いについて、杜氏の冨田 眞理(とみた まこと)様にお話を伺いました。

榮川酒造株式会社

担当者 冨田眞理さん

杜氏

日本の名水百選に選ばれた水で造る日本酒 

榮川酒造では、「龍ヶ沢湧水」を使用して酒造りをしています。龍ヶ沢湧水は、日本名水100選に選ばれた磐梯西山麓湧水群の中の代表的な湧水です。

1日に湧き出る水の量は、約2000トンとも!旱魃(かんばつ)に際しても枯れることがないと、古くから言い伝えられ、江戸時代には雨乞いの儀式が行われていた神聖な場所でもあります。

会津には欠かせない豊富な水源です。

榮川の酒造りに欠かせない龍ヶ沢湧水

——龍ヶ沢湧水の特徴を教えていただけますか?

冨田さん 軟水で口当たりが良くまろやかな味わいが特徴です。軟水で造ると柔らかいお酒ができます。酒造りの大敵は鉄分。龍ヶ沢湧水は、鉄分が含まれていないので、酒造りに最適な水と言えます。

——酒作りに鉄分が大敵というのは、なぜでしょうか?

冨田さん 水に鉄分が含まれていると、だんだんと日本酒の成分と反応し合って、お酒に着色が起こってしまうのです。風味も劣化するので、水に鉄分が含まれていないことが、とても重要です。

——龍ヶ沢湧水は榮川酒造の酒造りとって重要な柱の1つになっているのですね。この湧水はどのようにして見つけたのでしょうか?

冨田さん もともとは、会津若松の駅前に本社がありました。昭和から平成に移り変わる頃に、当時5代目を務めていた宮森久治が、酒造りに適した良水を求めて会津中を探し回りました。遂に見つけたのが、磐梯町にある龍ヶ沢湧水。

磐梯町には「恵日寺(えにちじ)」という寺があり、9世紀ごろには法曹の下に約4000人もの僧兵がいたと言われています。4000人となると1つの集落ほどの規模になりますよね。

五代目久治は「集落あるところに名水あり」と考え、この地や水を調査しました。その結果、確かに良水があり、酒造りに適している水質であることが判ります。

平成元年に磐梯山西山麓に新工場を設立しました。その後に、龍ヶ沢湧水が日本名水百選に指定されました。

試飲もできる直売所「ゆっ蔵(ゆっくら)」

開放タンクで造る榮川酒造の日本酒 

——日本酒造りの工程を簡単に教えていただけますか?

冨田さん 日本酒造りにおける一般的な工程は、玄米から白米に精米し、それを洗米するところから始まります。次に、米に水を吸水させる「浸漬」を経て、米を蒸す「蒸米」を造ります。

蒸米、麹、水、酵母を混ぜ合わせて、「酒母(しゅぼ)」と言われる酒の元を造ります。

酒母が出来上がったら、酒母を大きなタンクに移動させて、3段階の仕込み作業を行い「もろみ」を造ります。ここまでの工程に20日程要します。

その後、20日程度の発酵期間を経て、もろみと酒粕を分ける「搾り」という工程を行います。最後に、搾った日本酒は「おり」と呼ばれる米や麹などの細かな固形物を取り除くなどの調整を経て、貯蔵されます。

開放タンクでのもろみ造りの様子

——日本酒造りにおいて、大切にしているこだわりはありますか?

冨田さん 「最上品質の醸造を目指す」というのが当社の指針です。この指針を大切にして、手抜きのない酒造りを心がけています。

最近では、中の見えない密閉型の発酵タンクを使用する傾向ですが、当社では、昔ながらの「開放タンク」を使用しています。

——開放タンクで造ると仕上がりに違いがでるのでしょうか?

冨田さん タンクの上が全部空いている開放タンクなので、泡の状態を実際に見て、香りを嗅ぎ、櫂入れで感触を確かめることができ、より手造りに近い酒造りをしています。

状態をより繊細に感じ取りながら作業することができるのは、大きな利点だと思います。当社は、杜氏と蔵人の五感を生かした酒造りを大切にしています。

もろみ造りの「櫂入れ」作業

こだわりの詰まった代表銘柄「榮四郎」 

——榮川酒造の代表銘柄は「榮四郎」かと思いますが、特徴を教えていただけますか?

冨田さん 榮四郎は、華やかな香りと柔らかい飲み口が特徴の、榮川酒造を代表する銘柄の1つです。優雅な果実の香りとすっきりした中にも柔らかな口当たりと、きれいな甘み、後味の長い余韻があり飲みごたえのあるお酒です。

榮四郎は、酒米の王様と言われている山田錦を使用して造っています。一般的に50%以下の精米歩合にすると「大吟醸」と呼ばれます。

それを、40%まで精米した米を使用しているのも、榮四郎の大きな特徴です。

東北に酒あり「大吟醸 榮四郎」

——精米歩合を40%以下にするのは難しいのでしょうか?

冨田さん そうですね。あまり精米しすぎても、米が割れやすくなるなどマイナスの面が出てきます。限界の精米歩合まで攻めて最適だったのが、40%という精米歩合です。

大切に育てられた山田錦を、40%まで精米して酒造りをさせていただいているので、我々蔵人たちの持っている技術を最大限に駆使して、最高の酒を造っているのだと自覚をもって酒造りに励んでいます。

——榮四郎造りにおいて、工夫されている点などあれば教えていただけますか?

冨田さん お酒造りで重要な工程である麹造りの時には、2時間おきくらいに麹米の温度と状態を確認するために、一晩泊まりで作業を行います。

麹菌の増殖に伴って温度が上昇しますが、麹米の最高温度が43℃をこえないように調整します。麹が入った木箱の位置を変えたり、入れ替えたりすることで、温度を発散させます。

榮四郎は、ほとんどの工程が手造りなので、特別に手を掛け、心を込めて造っているお酒です。モンドセレクションで2007年から2017年まで「最高金賞」を11年連続受賞できたのも、そういった秘訣があったからだと思います。(※現在は出品しておりません。)

2009年のモンドセレクション受賞盾

お酒造りに対する想いや今後の展望 

磐梯山西山麓の自然の中に構える榮川酒造株式会社

冨田さん 当社は「日本酒は我が国の米文化の遺産である」という理念を掲げています。日本酒造りは、後世に伝えていかなければならない、大切な技術です。

今は、どこの蔵元でも後継者不足という悩みを持っていると思います。福島県には、お酒造りを目指すための学校があり、当社ではこちらに入校して貰い、基本的な知識を学んでいただくようにしています。このような仕組みを活用するのも良いかもしれませんね。

多くはないですが、若手もいるので、大事に育てて行きたいと思っています。そして、これからも、みなさんに長く愛していただけるお酒を大切に造り続けて行きたいと思います。

榮川酒造株式会社

〒969-3302 福島県耶麻郡磐梯町大字更科字中曽根平6841-11
TEL:0242-73-2300 
FAX:0242-73-2566

この記事の執筆者

横上 菜月

製薬関連企業で働きながら、旅と取材ライターをライフワークとして活動中。

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